感染性心内膜炎の内服スイッチ―NEJM 2019 POET trial
Partial Oral versus Intravenous Antibiotic Treatment of Endocarditis
Iversen K, et al. N Engl J Med 2019;380:415-24
POET trial
Abstract
- 左心系の感染性心内膜炎は通常6週間の静注抗菌薬投与を必要とする。治療途中に静注から内服抗菌薬に変更した場合に、静注のみで治療を完遂した場合と比較してefficacy、safetyが同等か議論がある。
- ランダム化、オープンラベル、非劣性、多施設共同。左心系心内膜炎(起因菌はレンサ球菌、E. faecalis、黄色ブドウ球菌、CNS)で、静注抗菌薬治療が開始されstableな状態となった患者400人を、①静注抗菌薬継続群(199人)と②経口抗菌薬に変更(201人)に分けた。可能なら、経口群は退院した。Primary outcomeは複合イベント(全死亡、予期しない心臓手術、塞栓症発症、当初の菌種による菌血症のrelapse)で、ランダム化から抗菌薬終了6ヶ月後まで観察した。
- 抗菌薬投与期間は①静注群で19日(IQR, 14-25)、②内服群で17日(IQR, 14-25)(p=.48)。primary outcomeは①静注群で24人(12.1%)、②内服群で18人(9.0%)(リスク差3.1%, 95%CI, -3.4-9.6; P=.40)。事前に設定した非劣性基準を満たした。
- 内服への変更は、静注群に対して非劣性である。
Introduction
- 左心系IEの治療期間は欧州のガイドライン(Eur Heart J 2015;36:3075)でも米国のガイドライン(Circulation 2015;132:1435)でもup to 6週と記載されている。院内死亡率は15-45%にもなり、弁手術を受ける患者も少なくない。死亡を含め合併症の多くは治療のinitial phaseで発生する。しかし初期治療が終わり安定すれば、静注治療を行うためだけに入院を継続することになる。内服薬への変更が安全ならば、早期に退院できる。
- outpatient parenteral treatmentは、条件を満たせば勧められるとガイドラインにも記載があるが、患者教育、アドヒアランス、入念なモニター、パラメディックおよび社会的サポート、医療機関へのアクセスといった様々な問題がある。この点で内服薬はメリットが大きい。
Methods
- デンマーク、多施設共同、ランダム化、非盲検、非劣性試験である。デザインはすでに公表されている(Am Heart J 2013;165:116)。Inclusion/exclusionは図。
- ランダム化時点で、抗菌薬投与残り期間が10日以上ある。静注群では治療完了まで入院、内服群はfeasibleなら退院し、週2-3回の外来通院とした。抗菌薬終了の1-3日以内に経食道心エコーを再検される。遅くとも抗菌薬終了日には全例退院してもらった。抗菌薬終了後、1週、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後にフォローした。
- 抗菌薬はガイドラインに従って選択。内服薬はバイオアベイラビリティの高いもの2剤を選択し、EUCASTのMICから計算したdoseを投与。感受性試験はdisk diffusion法で行い、MICはEtestかVITEK2を使用。
- 内服群では初回投与後30分、1時間、2時間、4時間、6時間後の血中濃度、5日後の血中濃度をチェック。High-pressure liquid chromatographyを使用。血中濃度をみて必要なら投与量を変更した。
- 1:1に割付。
- Primary outcomeは複合イベント(全死亡、予期しない心臓手術、塞栓症発症、当初の菌種による菌血症のrelapse)で、ランダム化から抗菌薬終了6ヶ月後まで観察した。イベント発生の有無は割付群を知らされていない委員会が判断した。
- 非劣性。全死亡のリスクを2-5%、予期しない心臓手術を1-3%、塞栓症発症を1-2%、菌血症のrelapseを1-3%と見積もり、複合イベントのリスクを5-13%と考えた。非劣性を判断するリスク差は10%と設定。イベント発生を10%、フォローアップロスを5%、片側97.5%の信頼区間、検出率90%として、400人が必要と設定した。
Results
- 2011年7月15日から2017年8月30日。心内膜炎疑い患者1954人がスクリーニングされ、400人がランダム化。199人が静注群、201人が内服群。(Figure 1)
- 静注、内服の順で、年齢は平均67、67、女性が25%、20%、起因菌はレンサ52%、45%、faecalis 23%、25%、黄色ブドウ球菌20%、23%、CNS 5%、6%(内訳はTable S5)。人工弁26%、26%、ペースメーカー7%、10%、M弁32%、37%、A弁54%、54%、M+A弁11%、10%、vege>9mm 3%、5%、ランダム化前の手術37%、38%。
- IE診断からランダム化までの日数は両群とも17日。ランダム化後の抗菌薬使用は19、17日。内服群の80%で少なくとも1日以上の外来治療。
- Table S10に処方された内服抗菌薬、Figure S1にMIC。内服治療で開始したうち4人が静注へ変更(吐き気1、別の菌血症1、患者希望2)。静注から内服への変更はなし。
- primary outcomeは①静注群で24人(12.1%)、②内服群で18人(9.0%)(リスク差3.1%, 95%CI, -3.4~9.6; P=.40)。per-protocolでは静注群で12.1%、内服群で9.1%だった。すべての患者で抗菌薬終了6ヶ月後または死亡まで追跡された。
- ITTでの内訳は、全死亡が13人(6.5%)vs 7人(3.5%)で、ほかの項目はまったく同数だった。サブグループ解析も行っている。
- 内服群の7人で、2薬剤のうち1つについて十分な血中濃度が得られなかった。副作用は6%(6% vs 5%)にみられ、多いものはアレルギー(50%)、消化器症状(14%)などであった。
Discussion
- ちょうど治療の中間(17日)で静注から内服へ変更するのはsafety、efficacyとも問題なさそう。
- サブグループ(自然弁と人工弁、手術群と非手術群)でも結果は同等。菌種での違いも観察されなかった。アウトカム発生が多くなく(10%前後)、サブグループ内での検出率は十分でなかった。CNSでは死亡が多いようだが(40% vs 23%)、CNSのIEはより高齢、併存症が多い患者に起きやすいためと考える。
- 本研究は胃腸からの吸収が十分と考えられる患者しか登録していない。バイオアベイラビリティが高く、血中濃度も見ながら慎重に選択し、しかも2剤を用いている。
- IEの静注治療と治療期間は主に観察研究による(Med J Aust 1949;1:377、Circulation 1950;2:801)。長期間の入院は精神的・肉体的に負担となる。IE以外の分野では、例えば大腸手術後などの報告では短い入院期間でよいアウトカムが得られているし、コストもよい。
- いくつかの観察研究、システマティックレビュー(BMC Infect Dis 2014;14:140)ではIEの内服治療は有効と考えられている。右心系のIEでは症例によっては内服で治療できるという文献が多い。左心系では少なく、小規模の研究があるのみ(Am Heart J 2013;165:116)。
limitaions:
・左心系のIEのみ組み込んだが、デバイスや右心系IEの合併はあったかもしれない。
・菌種が限られている。今回含めた菌種以外の菌種はIE全体の25-30%を占める。培養陰性心内膜炎についても検討していない。
・IV drug userは5人だけ。
・黄色ブドウ球菌は22%であり、除外基準ではないがMRSAやその他の耐性株はいなかった。
・高齢でもともと虚弱な患者は参加施設に紹介されず、紹介バイアスがある。
・耐性菌の多い地域で、今回の結果を当てはめる場合には注意する。
・内服群の退院は患者希望や医師の判断によった。
梅毒検査の成績―CID2019
Performance of Treponemal Tests for the Diagnosis of Syphilis
Park IU, et al. Clin Infect Dis 2019;68:913
- 梅毒診断はlecithin、cardiolipin、cholesterolなどのlipoidal antigensに対する反応をみるnontreponemal serology (rapid plasma reagen (RPR), Venereal Disease Research Laboratory (VDRL))と、確認検査であるtreponemal test (Treponema pallidum particle agglutination assay (TPPA))によってなされる。
- nontreponemal検査は安価でモニタリングに有用だが、検査技師に負担がかかる。またprimary diseasesではTPPAよりも感度が劣り、生物学的偽陽性も知られる。
- 新規の検査法として、enzyme immunoassay (EIA)、chemiluminescence immunoassay (CIA)、microbead immunoassay (MBIA)などがある。検査は自動化されており、手間が減り、結果も早く得られる。
- reverse sequence algorithmとは、初めにtreponemal immunoassayを行って診断し、その後nontreponemal testを行う診断方法だが、RPRよりもimmunoassayのほうが感度が悪いこともあり、有用性は不明である。(注:従来はまずRPR、続けてTPPAで確認。診断を先に行うという意味でreverse sequence)
- 結果に乖離がある、例えばEIA-positive、RPR-nonreactiveのときは、EIAの偽陽性、梅毒既往、早期のためRPRがまだ上がっていないなどの可能性がある。Early-generationのEIAの研究で、EIA-reactiveの31%でTPPAが陰性であったというデータもあり、偽陽性は多そうだが、梅毒診断にはgold standardがなく解釈は困難である。
- これまで、トレポネーマの各検査をhead-to-headで調べた報告は少ない。
- 本研究の目的は、新規の検査(EIA、CIA、MBIA)と従来のFTA-ABS、TPPAを比較し、各stageの梅毒における感度、特異度を検討することである。
Materials and methods
Study population
- Kaiser Permanente Northern California (KPNC)、Kaiser Permanente Southern California (KPSC)と、San Francisco Department of Public Health (SFDPH)の2012年5月~2013年3月の検体がCDC Syphilis Reference Laboratoryに送付される。
- KPNCとKPSCは私的保険で、それぞれ400万人の会員がいる。ラボはreverse sequence screeningを使用し、KPNCはLIAISON CIA、KPSCはTrep-Sure EIAを最初のスクリーニングを行っている。Seroprevalenceは2%。
- SFDPHからのサンプルは市の性感染症クリニックで陽性になったものを使用。まずPoint-of-careでRPRが施行され、陽性のサンプルがVDRL、TPPAを施行される。RPRが陰性でも医者が疑えばTPPA・VDRLがオーダーされる。
Treponemal testing
- 全てのサンプルが7つのtreponemal assaysで検査される。CDCの判定者は臨床状況や当初の検査結果を知らされない。1、2、5、7はreverse sequence algorithmの最初のスクリーニングでよく用いられるもの。
Case definitions
- 過去のデータを参照し、以下のように梅毒を分類。1995検体のうち、1036 (52%)は診療情報か検体量が不足していた。判定者のうち2人だけが、CDCラボの7つのserologyの検査結果を知らされた。
- primary syphilisは性器病変があり、①または②。①「暗視野顕微鏡でスピロヘータあり」かつ「reactive nontreponemal or treponemal serology」 ②「暗視野顕微鏡でスピロヘータなしか施行せず」かつ「reactive nontreponemal and treponemal serology」
- secondary syphilisは全身性の皮膚病変+「reactive nontreponemal and treponemal serology」
- early latent syphilisは症状がなく、検査結果は「reactive nontreponemal and treponemal serology」か「treponemal testsのいずれか2つが陽性」。梅毒の既往はなく、「梅毒患者と12ヶ月以内に性的接触がある」または「12ヶ月以内にいずれかの梅毒検査でnonreactiveであった検査結果がある」。
- late latent syphilisは症状がなく、 検査結果は「reactive nontreponemal and treponemal serology」か「treponemal testsのいずれか2つが陽性」。梅毒既往はなく、「過去12ヶ月以内に梅毒検査結果がない」かつ「12ヶ月以内に梅毒患者と性的接触がない」。
- prior treated syphilis onlyは梅毒既往があるが、サンプル採取日に梅毒の症状所見がなく、採取日から6ヶ月以降も梅毒の診断がなされない。
- no syphilisはサンプル採取日にも、採取日以降6ヶ月経っても梅毒診断がなされず、梅毒既往がなく、これまでの梅毒検査がすべてnonreactiveで、今回行った7種類の検査のうち4つ以上が陰性であったとき。
Data analysis
- 95%信頼区間。t検定、χ2乗検定を使用。P値は<.05。
Results
- 959人。current syphilis患者は高齢者、男性、MSM、HIV陽性が多かった。(すべてP < .05)。
- 感度はFTA-ABSが90%で他のものよりやや低かった(TPPAと比べてp=.038、ほかp<.001)。特にsecondary syphilisでは、ほかの検査が感度100%であったのに、FTA-ABSでは92%であった。
- 特異度にはばらつきがあり、Trep-Sure EIAは82%とやや低かった。TPPAは特異度100%。
- 今回は41人が、カルテ情報と7つの検査中陽性が3つ以下という条件から「梅毒ではない」と判定されたが、その中で陽性に出たのは、Trep-Sure 85%、Centaur 61%、LIAISON 37%、INNO-LIA 25%、Bioplex 26%、FTA-ABS 2%。
- prior syphilisではFTA-ABSとTPPAは陽性がともに<95%。Immunoassaysの陽性率は高い。
Discussion
- 4つのimmunoassays (LIAISON、ADVIA Centaur、Trep-Sure、Bioplex)は、梅毒のステージに関わらず高い感度を示した。
- FTA-ABSは特にprimary syphilisにはやや感度が低かった。FTA-ABSは1990年代の研究などでは梅毒のゴールドスタンダードとして使われていた時期もあったが、現在ではその有用性は揺らいでいると言える。ただし、神経梅毒診断には重要な検査である。
- TPPAの特異度は100%で、ほかの検査結果が割れたときにはTPPAを信用してもよさそう。
- Trep-Sureの特異度がやや低かった。TPPA、FTA-ABSをレファレンスに使用した研究で、Trep-Sureの特異度はそれぞれ99%、94%という数値があるが、CDCの検討ではTrep-Sureでreactiveだった人のうち18.6%-25.2%がTPPA nonreactiveであった(おそらく偽陽性)という検討もある。現時点ではTrep-Sureはwould not be a preferred immunoassay。
- immunoassaysを用いてreverse sequence screeningをする場合、重要なのはEIA-reactive、RPR-nonreactiveの場合、TPPAを行って確認することである。
- 梅毒の有病率が低い集団では、特異度の低い検査は偽陽性につながる。本研究はTPPAが最も特異度が高いことを示している。
- 梅毒検査陽性はprior treated infectionでもpersistするが、primary stageで治療された人、HIVのある人では時間とともに弱まりやすい。本研究では、prior treated syphilisがどのstageで治療されたかについては検討していない。この点で層別化するのは有用かもしれない。
- limitation
・検体は凍結された。凍結の影響は不明である。
・FDAが承認したその他のimmunoassayもある。
・それぞれのimmunoassayの感度は同様であったが、<4%の差異を検出するパワーはない。
・primary syphilisでは、treponemalもnontreponemalも陰性となることがある。
・serologyだけで梅毒を診断するのは不十分である。患者の性的活動、梅毒既往、現在の症状・所見を考慮する。CDCガイドラインでも、serologyの結果が出る前でも、梅毒症状とリスクがあればpresumptiveに治療することをrecommendしている。
デング―Review
Wilder-Smith A, et al. Lancet 2019;393:350 Seminar
Introduction
●デング熱は節足動物媒介arthropod-borneのウイルス性疾患で、熱帯・亜熱帯地域に大きな疾病負荷disease burdenを強いている。Arbovirus疾患として最も頻度の高い疾患である。
※アルボウイルス:節足動物の吸血活動で伝播するウイルスの総称。ジカ、黄熱、日本脳炎、SFTS、チクングニアなど。
●The Global Burden Disease studyによると、2000-2013年の13年間に400%の増加がみられ、これは感染性疾患として最も高い増加率である。
Epidemiology and drivers for the geographic expansion of dengue
●シマカAedesがデングを媒介する。Aedesの生息地域には30億人が居住している。年間のデングウイルス感染症発生数は4億件と推定され、うち25%がclinically apparent、障害調整生命年disability-adjusted life years (DALYs)は110万に相当する。世界のdisease burdenの75%がアジア。次にラテンアメリカ・アフリカである。
●endemic areasでは、発熱エピソードの10%にも達する。アジアでは100人年あたり4.6、ラテンアメリカでは2.9。病院での治療を要するデングによる発熱エピソードはアジアでは19%、ラテンアメリカでは11%。
●ネッタイシマカAedes aegyptiは昼行性diurnalでヒトの居住地近くに多く出没する。短時間で複数回ヒトを吸血でき、小さな水場でも繁殖が可能である。ヒトスジシマカAedes albopictusは熱帯地域から温帯地域まで生息域を広げつつある。
●温暖化によりAedesの生息域が広がれば、デングは温帯地方でも流行する可能性がある。といっても、デングの発生・流行にとってカの生息域以上に重要なのは、人口増加および人口密度、環境である。都市部への人口流入、都市部の環境悪化、水道の未整備、カ対策の不備など。
●交通機関の影響は大きい。アメリカでは何年も前から、輸入デングをきっかけとした小規模のdisease clustersが発生しているが、ヨーロッパで発生したautochthonous sporadicな症例は2010年にやっと報告されている(フランスとクロアチア)。また2012年にmajor outbreakがポルトガル領マデイラ諸島で報告された。
●ウイルス血症の旅行者がnon-endemic areasを訪れた際に、autochthonousな感染のmain sourceになりやすい。海外旅行者のデングのリスクは増しており、attack ratesは1000 travel-monthsあたり5.51との報告がある(Peace Corpsの研究)。東南アジア帰りの熱性疾患としてはマラリアを上回っている。
The Virus
●デングウイルス(DENV)はgenus Flavivirus, family Flaviviridaeに属する。血清学的かつ遺伝学的に4つのセロタイプに分類される。
●DENVはエンベロープがあり、single positive-strand RNA genomeを持ったウイルスで、3つの構造蛋白(capsid [C], pre-membrane [prM], envelope [E])と、7つの非構造蛋白(NS1, NS2A, NS2B, NS3, NS4A, NS4B, NS5)をコードする。C蛋白がgenomeを囲み、それがlipid layer membraneに包まれる。MembraneにE蛋白、M蛋白が埋め込まれている。E蛋白が、宿主のsusceptible細胞のレセプターに結合し、中和抗体のエピトープとなる。NS1、NS5はreplication complexを形成し、ウイルスゲノムの増幅に関与する。
Pathogenesis of severe dengue
Antibody-dependent enhancement
●DENVの4つのセロタイプは共通する構造蛋白も多く、あるセロタイプのDENVに感染すると、「type-specificな抗体」と「cross-reactiveな抗体」の両方がinduceされる。Homologous virus(=かかったセロタイプ)については長期間適応免疫が続くが、heterologous virus(かかっていないセロタイプ)の免疫は短期間で切れる(3ヶ月、2年といった報告あり)。
●2度目のデングで、最初のウイルスとはheteroなウイルスに感染した際、severe dengueのリスクが上がる現象が知られる(Antibody-dependent enhancement (ADE))。cross-reactiveな抗体や(初めにかかったセロタイプに対する抗体)、sub-neutralisingレベルの抗体(少ない量の抗体)がウイルスのホスト細胞への侵入を促進するというものである。これには標的細胞(単球、マクロファージ、dendritic cells)のFcレセプターが関与している(抗体+ウイルスがFcレセプターと結合するが、この過程でウイルスの細胞への侵入を許してしまう?)。ホストの抗ウイルス免疫応答から逃れることにも働くらしい。実際、二度目の感染患者では、ウイルス血症やNS抗原血症も高度である。
●ニカラグアの報告で、小児のsevere dengueのリスクはseropositiveで必ずしも上がるわけではなく、低すぎてもダメらしい。この現象はFcレセプターの性質からくるものかもしれない。抗体とウイルスが結合したaggregatesによって複数のFcレセプターがco-ligateし活性化する。抗体の量が少ないと、抗体と結合したDENVは、相対的に多いactivating Fcレセプターとco-ligateする(=ADEを起こすほどの侵入レベルには至らない)。抗体の量が多いと、ウイルスaggregateは大きくなり、抑制性Fcγレセプター(FcγRIIB)とco-ligateするが、このレセプターはphagocytosisを抑制するので、ウイルスの細胞へのエントリーが抑制される。したがってADEはつねに起きるわけではなく、特定の抗体・ウイルスの比が必要(少なすぎてもダメだし、多すぎてもダメ)。
●reactive non-neutralising immunogloburin Gの存在するときだけ重症化しやすいことになり、IgGのtitresだけみても重症化を予測できない。
Viral determinants
●プエルトリコでの1994年のアウトブレイクの際にシークエンスされたDENV-2のエンベロープ遺伝子は、1982年にアウトブレイクしたものと比較し、コドンがいくつか変化していた。またSantiago de Cubaの1997年のDENV-2 epidemicでは、それ以前のepidemicしたものと比較し、NS1抗原のアミノ酸一つが変化していた。Sri Lankaでの2000年と1989年のDENV-3によるdengue haemorrhagic feverのアウトブレイクも、遺伝学的な変異により生じたものと考えられている。
●他のRNAウイルスほどの速さではないが、DENVもerror-prone RNA-dependent RNA polymeraseにより、頻繁に変異する。ホストの抗ウイルス反応から逃れやすいウイルスほど、定着しやすい。臨床的、疫学的にフィットしやすいDENVのviral determinantsの研究が必要である。
●デングの病原性に最も関与していると言われるのがNS1抗原である。NS1はreplication complexを構成する成分で、endoplasmic reticulumの中にdimerとして存在する。ホストの様々なタンパクと結合する。Hexameric formのNS1は感染細胞の外へ放出され、補体やレクチンによる中和からウイルスが逃れる手助けをするなど様々な機能を発揮する。そのほかに、内皮のglycocalyxを阻害する働きもあり、vascular leakageの原因となる。さらに、カのmidgutにおいて、感染を妨げるreactive oxygen species responseを阻害する働きもある。
Host factors
●様々なホスト側の因子も確認されている。FcγRIIA、サイトカイン、HLAなど。
Transmission
●雌のカの吸血によってtransmitされる。輸血、臓器移植、針刺し、粘液の飛び散りでの感染もありうる。
●Zika virusとは違って、性交渉での感染は報告されていない。長期間精液中からウイルスがshedしたという一例報告があるが、一方で5人の患者で精液のPCRは陰性であったという報告もある。膣分泌液では、発症後18日間にわたってRNAが検出されたという報告あり。
●分娩時に、母親にウイルス血症があれば垂直感染しうる。経胎盤感染は確認されていない。12人のデングの授乳婦で75%の母乳からウイルスをretrieveしたという報告があり、授乳による感染はplausibleだが報告はない。
Clinical manifestations
Disease classification
●DENV感染症患者の半数以上は無症状もしくはvery minor symptomsのみ。
●感染者の25%がself-limitedな発熱をきたし、軽度の血液学的・生化学的異常を示す。
●少数の患者が、systemic vascular leak syndrome、出血を伴いうる凝固異常、臓器障害(特に肝障害、神経障害)など合併症をきたす。
●1997年のWHO分類では、DENV感染症は臨床的にデング熱dengue fever(DF)とデング出血熱dengue haemorrhagic fever(DHF)に分けていた。DHFは重症度に応じてgrade1-4に分かれ、grade3-4がショックを伴いdengue shock syndrome(DSS)と呼ばれる。現在ではこの分類はquestionedである。
●2009年のWHO分類では、症候性だがno major complicationsの患者をdengue、3種の合併症(①dengue shock syndromeまたはrespiratory distressをきたしたplasma leakage、②severe bleeding、③severe organ impairment)のいずれかを伴う患者をsevere dengueとした。この分類はdynamicで、効果的なトリアージと臨床マネジメントを可能とし、疫学的なデータの質を高めると考えられるが、依然controversialではある。
(FigureはWHO dengue guidelines 2009より)
Risk groups
- 流行地域では、dengueは小児・若年成人の疾患である。これは暴露のタイミングの問題と考えられる。
- 新生児はdengue/severe dengueのリスク因子。特にデングに免疫のある母から生まれ、経胎盤的な抗デング抗体がsub-neutralising titresまで弱まった新生児ではリスクが高い。
- 妊婦、特にthird trimester(28-40週)の妊婦もsevere dengueのハイリスクである。周産期の新生児へのtransmissionも確認されている。ブラジルでの2つの大規模疫学研究によると、妊婦のdengueは早産や胎児死亡のリスクを上げるが、先天奇形や低出生体重児のリスクは上げない。
- 流行が比較的少ない地域では、小児よりも成人が発症しやすく、高齢者の割合が増える。併存疾患の影響だろう。
Clinical phases
(FigureはWHO dengue guidelines 2009より)
- 潜伏期は4-7日(最大14日)で、突然の発症と、以降3つのphases(febrile、critical、recovery)がみられる。
- Febrile phaseは突然の発熱と悪寒で、頭痛、眼の奥の痛み、筋肉痛、骨の痛み、severe malaise、vomiting、constitutional symptomsを伴う。上気道症状は少ない。小児より成人のほうが、症状が強いことが多い。小児では熱性けいれんあり。発熱は通常3-7日続く。顔面・体幹の潮紅flushingがday 2-3の時期に出現し、一過性にmacular rashもみられる。
- critical phase:多くの患者はfebrile phaseのみで治癒するが、様々な合併症が解熱のタイミング(発症4-6日目)でみられることが重要である。注意が必要なのがvasculopathyで、明確な定義はないがplasma leakage、intravascular volume depletionがみられ、dengue shock syndromeに進展する。ヘマトクリットをみて、血漿濃度が20%以上上昇した場合は漏出の証拠としてよいが、事前のヘマトクリット値がないことが多い。胸水、腹水、心嚢水の貯留は重要な所見だが、ショックとなる前に確認することは難しい。エコーを用いた研究で、発熱のday 2-3には、minor leakageの所見がすでに得られるケースもあると報告されている。
- volume depletionで重要なのは、拡張期血圧の上昇(脈圧の低下)で、脈圧≦20mmHgでdengue shockとする古典的な基準もある。脈圧が低下しても、患者の全身状態は変わらないことが多いが、悪化の明確なサインであり、見逃してはいけない。さらに低血圧・ショックへと進む。
- vasculopathyがいったん改善した48-72h後に再度悪化すること(reshock)もあり、死亡と関連する。
- 小児、高齢者、妊婦、ベースの高血圧、血管障害患者は、ショックの徴候が乏しいことがあるので注意。
- clitical phaseにおける出血徴候はまれではないが通常はminor。Petechiae、epistaxis、鼻出血、軽度の消化管出血など。重篤な消化管出血はまれで、あったとしてもterminal eventである。月経過多による出血はありうる。頭蓋内出血はまれだが致死的。ベースの肝障害、消化性潰瘍、胃炎、抗血栓薬などは出血に影響する。
- 肝:無症状の肝腫大とmild-to-moderateなトランスアミナーゼ上昇transaminitisはvery commonだが、急性肝障害はrare。
- 神経:脳症、脳炎、ニューロパチー、ギランバレー、横断性脊髄炎など。
- 心:心筋障害、特にリズム異常が報告されている(minorまたは無症状の不整脈はcommon)。
- 眼:網膜出血、網膜浮腫、黄斑虚血、視神経炎などが報告あり。
- 腎:顕微鏡的血尿はdengueの20-30%でみられる。Profound DSS、rhabdomyolysisではAKI。
- recovery phase:合併症をきたしても、適格な治療により1-2週でfull recoverする。血管透過性亢進も臨床的に明らかとなってから48-72hでresolveする。回復期にみられるflorid rashは数週続くことがある。成人では、完全な回復まで時間がかかることがあり、倦怠感、体力低下、筋肉痛、抑うつが数週から数ヶ月続くかもしれない。10日以上続く発熱は、細菌感染や二次性のhaemophagocytic lymphohistiocytosisなどを示唆する。
Laboratory investigations
- 血小板減少、白血球減少はfebrile phaseにおいてほぼ全例にみられる。異型リンパ球もoften。ほかの発熱性疾患との区別に有用である。白血球減少の程度はsevere dengue、二次性細菌感染、死亡リスクとは関連がない。抗菌薬の予防投与は推奨されない。
- APTT延長、フィブリノゲン低下は多い。
- トランスアミナーゼはほとんどの症例で上昇。ASTのほうがALTより高く、肝臓だけでなく骨格筋の影響も考えられる。
- TP、Albも低下する。Plasma leakageのマーカーとなるが、血液濃縮によってマスクされる。
- ショックや急性尿細管壊死を伴えばAKI。
Risk prediction
- WHOによってimpending deteriorationの徴候が示されているが、多くは主観的なものでエビデンスも乏しい。
- 7544人のデング疑い小児で、のちにsevere dengueを発症した117人をうまくidentifyするようなアルゴリズムの報告があり、day 3のデータを用いたものであった(Clin Infect Dis 2017;64:656)。
- 毎日血小板数を測り、DSSを予想するモデルの報告もある(PLoS Negl Trop Dis 2017;11:e0005498)
- その他、重症化を予測する様々なバイオマーカーが考案されている。
Diagnosis
- day 5までは、virus isolation in cell culture、RT-PCRなどの核酸増幅検査によるウイルスRNAの検出、ELISAや迅速検査によるウイルス抗原の検出(NS1など)がある。Day 4-5以降は、ウイルスは血中からいなくなるが、NS1はしばらく残る。初回の感染だと残りやすい。
- IgMはday 4頃から上がり始め、days 10-14にピークとなる。3ヶ月以降は消失する。IgGは初回感染では、day 10頃からゆったりと上昇を始め、生涯陽性となる。2回目以降のデング、またはほかのフラビウイルス感染症の既往がある場合は、初めの週に急激に上昇を始める。血清検査ではセロタイプはわからないし、他のフラビウイルス感染とも交差する。また通常ペア血清(acute and convalescent)が必要。
- NS1抗原、IgM抗体の迅速検査は、ラボでのELISAより感度・特異度とも低いとされるが、このpoint of care testingのおかげでdiagnostic windowが広くなり、デング診断にとって画期的な検査である。
- すべての血清検査、NS1抗原検査はZika virusと交差すると報告あり。
Management
- ウイルス特異的な治療薬は主たる研究対象である。もしウイルス血症の程度が重症化のリスクなら、抗ウイルス薬を早期に開始することで、罹病期間を短縮したり重症化を抑制できたりするだろう。transmissionも減らせるかもしれない。Chloroquine、balapiravir、celgosivir、lovastatinなどがRCTで検討されたが、ウイルス血症や重症化抑制に有効であるとのエビデンスは得られなかった(Table)。Ivermectinの試験も実施中である。これまで実施された試験はすべて、治療薬が発症48-72時間の間に投与されており、もしかしたらもっと早く投与する必要があるのかもしれない。
- ウイルスエントリーに関与する小分子薬の開発が行われており、例えばNS4B抗原の阻害薬が開発中。ほかに、ウイルス複製を阻害するモノクローナル抗体などもある。
- ステロイドについては、1980年代の小規模スタディではdengue shock syndromeのmortalityに対する有用性は示されなかった。比較的最近の報告(Clin Infect Dis 2012;55:1216)では、ステロイドによってウイルスのクリアランスが遅れることはないが、ショックやその他合併症を抑制することもできなかったとしている。ただし投与時期や用量の問題かもしれない。コクランレビューではステロイドの有用性はinsufficient evidenceとしている。
- 現状ではsupportive careしかない。vasculopathyが改善するまでの48-72時間は適切な血管内ボリュームを維持する。オーバーロードにも注意。
- 小児のmoderately severe dengueの初期蘇生としてcrystalloidはcolloidと同等に効果があるという報告(NEJM 2005;353:877)がある。reshockの適切な治療は不明。WHOガイドラインでは、expert opinionとしてcolloid bolusesもrecommendしているが、colloidはボリューム負荷の方法としては一般的にappropriateとは考えられていない。
- 血小板輸血もcontroversialである。アジアの成人での検討で(Lancet 2017;389:1611)、20000/µL以下の血小板数で予防的に血小板輸血を行っても出血の予防にはつながらず、かえって副作用が多かった。
- 出血の予防について様々な薬剤が検討されているが(plasma infusion、recombinant activated factor VII、anti-D globulin、immunoglobulin、interleukin 11)、有効なものは見出されていない。
Vector control
- dengueのmortality、morbidity低下につながる。Biologicalな方法は、Bacillus thuringiensis israelensis、larvivorous fish、copepodsなどを用いて、カのlarval stage(=ボウフラ)をコントロールしようとするもの。Cheimicalな方法としては、殺虫剤insecticidesの噴霧や、temephosやpyriproxyfenを用いたlarval stageのコントロール。Environmentalな方法とはカの繁殖場所を減らすことである。
- BMJ 2015;351:h3267は、community mobilisation(= is a process through which action is stimulated by a community itself, or by others, that is planned, carried out, and evaluated by a community's individuals, groups, and organizations on a participatory and sustained basis to improve the health, hygiene and education levels so as to enhance the overall standard of living in the community; wikipediaより)がベクターコントロールに有効で、かつdengueの発生も抑制したと、多施設RCTで示した。
- カからの防護策の徹底はchallenging。カによる虫刺されを十分予防している旅行者も少ない。
- メタアナでhouse screening、水場にカバーをかけること(community-based environmental management with water container covers)はdengueのリスクを下げることが示されたが、屋内での殺虫剤噴霧はリスクを下げなかった。
- 殺虫剤を含有した衣服も期待されているが、学校制服にpermethrinを練りこんだタイの研究(PLoS Negl Trop Dis 2017;11:e0005197)では効果が見られなかった。
- A aegyptiのコントロールで注目されているのは、Wolbachiaを感染させたカをreleaseする方法である(Release of Insects carrying Dominant Lethal genes (RIDL) )。Wolbachia感染は、inherited endosymbiotic bacteriaを用いて、カをアルボウイルス耐性とし、ベクターとして働けなくさせる戦略である。A aegyptiのgenomeにlethal geneを挿入する。
Vaccines
- 2015年に最初のデングワクチンであるサノフィのCYD-TDV(Dengvaxia)が承認された(J Infect Dis 2016;214:1796)。リコンビナント、弱毒生、tetravalent。黄熱17Dウイルスベクターの構造蛋白(preM-E)を4つのDENVの構造蛋白に置き換えたもの。現在20か国で登録されており、通常9-45歳で接種する。phase 3 trial(アジア:Lancet 2014;384:1358、ラテンアメリカ:NEJM 2015;372:113)では、予測していなかったcomplexity、すなわちセロタイプ、ベースのserostatus、年齢によって効果に差があることが示された.(TableはLancet 2014;384:1358より)
- サノフィが示した長期の有効性・安全性に関する報告(NEJM 2018;379:327)では、dengue-seropositiveな状態でワクチンを接種した者は少なくとも5年間はprotectされたとしている(全年齢(2-16歳)で重症dengue、入院を要したdengueが70%減少)。一方dengue-seronegativeな状態でワクチンを接種した者は、むしろリスクが増えた。(FigureはNEJM 2018;379:327より)
- ワクチンによって初めて免疫が賦活された患者が、デングに初回感染すると重症化しやすいという議論がある。海底されたWHO Strategic Advisory Group of Experts (SAGE)の推奨(Lancet Infect Dis 2019;19:e31)では、ワクチン接種前に検査し、seropositiveな人にだけ接種するのがpreferred strategyであるとされた。
- デングのserostatusの迅速検査開発が行われているが、他のフラビウイルスとの交差反応という問題がある。
- デングの非構造蛋白はサノフィのワクチンには含まれていないが、開発中の第二世代のワクチンには一部含まれる。現在新規のワクチンが2つphase 3で検討されており、一つはNational Institute of Allergy and Infections Diseases(TV003/TV005)、もう一つは武田(NCT02747927)である。これらも、seronegativeの人に打つとsevere dengueのリスクを上げるという懸念は残る。
診断書のハンコについて
医者が書く書類でハンコを押すものとして「診断書」「処方箋」があります。シャチハタや、ハンコのついたボールペンを携帯している医者がほとんどかと思います。
しかし時にシャチハタを忘れることがあり、そんなとき署名だけでよいのか、シャチハタを取りに行くべきなのか。
結論を書くと診断書・処方箋とも署名だけで可です。
署名があればハンコは不要です。
署名がなければハンコが必要です。
以下、根拠を示します。
医師法 第五章 業務より
第十九条2 診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。
第二十二条 医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。
→診断書、処方箋を交付することは医師の業務と規定されています。
医師法施行規則 第三章 業務より
第二十条 医師は、その交付する死亡診断書又は死体検案書に、次に掲げる事項を記載し、記名押印又は署名しなければならない。
第二十一条 医師は、患者に交付する処方せんに、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行の年月日、使用期間及び病院若しくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない。
→上記の通り、署名だけでOKです。ハンコがないときに急いでハンコを取りに行く必要はありません。署名しましょう。それでもハンコが必要だ!と言われたらこの条文を示して拒否してもよいと思います。
そもそも「記名」とは何かということですが、おそらく印刷した文字や名前のスタンプのようなものを想定しているのだと思われます。その場合、この書類は私が作りましたよ、という意味合いでハンコを押すのは理にかなっているように思います。
気になるのは、医師法施行規則内に、死亡診断書については書いてあるのですが、それ以外の(死亡診断書ではない)診断書のことは書いていない。
ふつうに流用して解釈してよいと思いますが。
ちょっと面倒というか誤解を招きそうなのが、死亡診断書の書式です。
上の画像は死亡診断書の一部ですが、医師の名前を書く欄の横に「印」とまるでハンコを押すことが義務かのような文字があります(死亡診断書に限らず、このような書類が多い)。
ですから本来署名だけでよいのに、家族や役所の人が「あれ?ハンコがないな。押してもらわないと」と思ったりもするのです。
「印」の文字に二重線でも引いて、「押印省略」とでも書けば確実でしょう。
保険会社などが要求する患者の病状に関する書類も、ハンコの件でもめたりします。ただあれは数枚つづりの複写形式になっていたりするので、やはり「自筆署名のない紙」にはハンコを押す必要があるでしょう。
また最近は診断書も電子カルテ上のファイルで作成し、プリントした時点で作った医者の名前も印刷されていることが多いですので、こちらもハンコを押さないと(法令的に)ダメです。印刷された名前の横に自筆署名すれば(法令的に)OKです。
心房細動合併冠動脈疾患の治療―エビデンスまとめ
冠動脈疾患合併の際の注意点
安田聡・浅海泰栄
日本内科学会雑誌 2019;108:242
特集 Common diseaseとしての心房細動
【エビデンスまとめ】
WOEST trial(Lancet 2013;381:1107)
・2008-2011年、抗凝固薬を必要とするPCI症例573例(AFは69%)
・ワルファリン+クロピドグレル75mg vs ワルファリン+クロピドグレル+アスピリン80mg
・金属ステントでは1ヶ月、DESでは12ヶ月フォロー
・primary outcomeの出血イベント(大出血+小出血)は19.4% vs 44.4%と倍も違った。大出血だけでは差なし。
・総死亡率も2.5% vs 6.4% (p=0.027)。←出血のせいか
→2剤でよいのでは??
PIONEER AF-PCI trial(NEJM 2016;375:2423)
・次の3群に割付し1年フォロー
・リバロキサバン15mg(低用量)+P2Y12阻害薬 12ヶ月継続
・リバロキサバン2.5mg 1日2回(超低用量)+ DAPT DAPTは1, 6, 12ヶ月
・ワルファリン+ DAPT DAPTは1, 6, 12ヶ月
・大小出血はリバロキサバンを含む群がワルファリンを含む群より少なかった。
・efficacy (心臓血管死、心筋梗塞、ステント血栓、脳梗塞)は有意差なし
RE-DUAL PCI trial(NEJM 2017;377:1513)
・次の3群に割付し平均14ヶ月フォロー
・ダビガトラン150mg2T + PSY12阻害薬
・ダビガトラン110mg2T + P2Y12阻害薬
・ワルファリン + DAPT ベアメタルなら1ヶ月、DESなら3ヶ月でアスピリンoff
・出血イベントはダビガトランを含む群でワルファリンを含む群より少なかった。
・血栓イベントを含むエンドポイントは、2剤が3剤に非劣性
→新規抗凝固薬はさらによい。
【心房細動合併冠動脈疾患における現時点でのコンセンサス】
・まずCHA2DS2-VAScで男性1点以上・女性2点以上で禁忌がなければ原則抗凝固療法
・出血リスクをHAS-BLEDスコアで評価。
・triple therapyは行うにしても短期間で。
・欧州ガイドライン(Eur Heart J 2018)では、虚血リスクが高ければ6ヶ月、出血リスクが高ければ0または1ヶ月
・米国ガイドライン(Circulation 2018;138:527)では、"default"で2剤(抗血小板薬はアスピリンかP2Y12。できればP2Y12。P2Y12の中ではクロピドグレルが望ましい)。抗血栓リスクかつ低出血リスクでのみ1ヶ月のtriple therapyを考慮。
【PCI施行1年以降】
・欧・米のガイドラインでは、1年経過したのちは抗凝固薬単独でいいとしている。
・現実には2剤がよく用いられている。