インフルエンザ様疾患に対するタミフル(原著)
Lancet 2020;395:42
★プライマリケアで遭遇するinfluenza-like illnessに対して、通常ケアに加えてタミフルを加えるか加えないかのランダム化、オープンラベル試験。約1500人ずつで比較。
★primary endpointのtime to recoveryはタミフル群で1日早かった。高齢(66歳以上)、重症のインフルエンザ様疾患、重症の合併症あり、症状持続時間長いサブグループでは、3.20日早かった。
★対象のうちPCR-confirmedのインフルエンザはわずか半分。インフルエンザであったのかなかったのか……
★ともかくインフルエンザシーズンのインフルエンザっぽい患者は「タミフルを飲むと1日早く元気になる」らしい。
背景
●抗インフルエンザ薬は、多くのヨーロッパ諸国ではコスト・副作用・エビデンスの不足などから、プライマリケアの場では処方されないことが多い。
●オセルタミビルはCDCのガイドラインでは、入院患者・重症患者・インフルエンザ合併症のハイリスク患者において、症状発現48時間以内に開始できる場合にはrecommendとされている。
●成人・プラセボ対照のメタアナラシスでは、症状改善までの時間を17.8時間短縮すると報告されている(Lancet 205;385:1729)。
方法
●オープンラベル、pragmatic、adaptive、ランダム化比較試験。
●プライマリケアの場で、インフルエンザ様疾患(influenza-like illness:インフルエンザ流行期に発熱・呼吸器症状・全身症状が出現)を発症して72時間以内の1歳以上の患者に、通常のケアに加えてオセルタミビルを併用するかしないか1:1で比較。
●除外:慢性腎障害、免疫不全、担当医が抗ウイルス薬が必要と判断、オセルタミビルのアレルギー歴、2週間以内に手術や全身麻酔を予定している、生命予後が6ヶ月以内と考えられる、症状発現72時間以内のランダム化が不可能など。
●primary endpointはtime to recovery(熱、頭痛、筋肉痛がminorまたはabsentとなり通常の活動に復帰できるまでの時間)
●Bayesian piece-wise exponential primary analysis modelを用いて、年齢、併存疾患などに応じたサブグループ解析も行った。
結果
●ヨーロッパの15ヶ国、3つのシーズンにわたって、3266人の患者をランダム化。1629人が通常ケア+オセルタミビル群、1637人が通常ケアのみ群。それぞれ5人、2人は同意撤回などで介入受けず。11歳以下14%、66歳以上6%。
●primary outcomeを検討できたのは1533人(94%)vs 1590人(93%)で、この3059人のうちPCR-confirmedのインフルエンザは1590人(52%)だった。
●primary outcomeは、オセルタミビル併用群で優れていて(HR 1.29、Baysian credible interval 1.20-1.39)、1.02日(0.74-1.31日)早かった。事前に設定したサブグループ解析では、この値は0.70日(11歳未満、重症でない、合併症なし、症状持続時間短い)から3.20日(66歳以上、重症、重症の合併症あり、症状持続時間長い)までの幅があった。
●オセルタミビル群では、嘔気嘔吐が増加した。
結論
●プライマリケアにおけるインフルエンザ様症状でオセルタミビルを併用すると、併用しないよりもtime to recoveryが1日早い。高齢、重症、合併症がある患者ではよりメリットが大きい。
バンコマイシンとピペラシリン/タゾバクタム併用は腎障害が強い(原著)
バンコマイシンとピペラシリン/タゾバクタム併用は腎障害が強い
(Crit Care Med 2018;46:12)
システマティックレビュー・メタアナラシス
目的
●バンコマイシン+ピペラシリン/タゾバクタムの急性腎障害を評価する
●バンコマイシン+ピペラシリン/タゾバクタム、バンコマイシン単剤、バンコマイシン+(セフェピムorカルバペネム)、ピペラシリン/タゾバクタム単剤を比較。
データ
●2017年4月までのデータを抽出
結果
●15の論文、17の会議録を抽出。24799人の患者を含んでいた。
●急性腎障害はバンコマイシン+ピペラシリン/タゾバクタム併用では22.2%、他の群では12.9%だった。
●バンコマイシン+ピペラシリン/タゾバクタム併用を、他の群と比較したオッズ比は、vsバンコマイシン単剤で3.40、vsバンコマイシン+(セフェピムorカルバペネム)で2.68、vsピペラシリン/タゾバクタム単剤で2.70だった。
黄色ブドウ球菌菌血症におけるリファンピシン併用(原著)
黄色ブドウ球菌菌血症にリファンピシンを併用してもベネフィットなし
(Lancet 2018;391:668)
ARREST trial
★黄色ブドウ球菌菌血症で14日間のリファンピシン併用をプラセボと比較。
★primary outcomeの「ランダム化後12週以内のtime to bacteriologically confirmed treatment failure or disease recurrence, or all-cause death」は、リファンピシン群62人(17%)とプラセボ群71人(18%)で有意差なし。
背景
●黄色ブドウ球菌菌血症の最適な抗菌薬選択に関する研究は乏しい。
●リファンピシンを併用すると予後が改善するという仮説がある。
●4つの研究を対象としたシステマティックレビュー(J Med Microbiol 2014;63:841)では、54人のリファンピシン併用患者と44人の非併用患者を比較し、リファンピシンを併用したほうが死亡率、臨床的/細菌学的failureを減少させると結論付けているがデータは十分ではない。
方法
●多施設、ランダム化、二重盲検、プラセボ比較。UKの29施設。
●18歳以上の黄色ブドウ球菌菌血症患者(血液培養1セット以上が陽性)で、≦96時間抗菌薬投与を受けた患者。
●リファンピシンの感受性がないことが分かっている、リファンピシン不耐用、血培から多数の菌種、結核疑い、リファンピシンを用いる理由が他にある、などは除外。
●1:1にリファンピシン群かプラセボ群に割付。リファンピシン群では体重によって600 mgまたは900 mg/日を内服または静注で投与。14日間、またはバックボーンの抗菌薬が終了されるまでのどちらか短い期間投与される。
●Primary outcomeはランダム化後12週以内のtime to bacteriologically confirmed treatment failure or disease recurrence, or all-cause death。
結果
●758人がランダム化。リファンピシン群370人vs プラセボ群388人。
●男性65%、年齢65歳。
●64%が市中、47人(6%)がMRSA。
●フォーカスは自然弁4%、関節8%、人工弁or人工関節2%、血管内植え込みデバイス5%、深部組織(脳・骨など)・膿瘍23%、カテーテル17%、皮膚軟部18%、not established 18%など。
●通常の抗菌薬は29日(IQR 18-45)投与。フルクロキサシリン82%、アモキシシリン/クラブラン酸30%、ピペラシリン/タゾバクタム29%、バンコマイシンorテイコプラニン50%、セファロスポリン28%、キノロン12%など。
●今回の研究とは別の臨床的理由でリファンピシンを投与したのが、13日以内に開始した患者43人(6%)、14日以降に開始した患者41人(5%)。
●12週までのイベントは、リファンピシン群62人(17%)とプラセボ群71人(18%)(HR 0.96, 95% CI 0.68-1.35)で有意差なし。
●リファンピシン群63人(17%)、プラセボ群39人(10%)はadverse eventsあり(p=0.004)。24人(6%)、6人(2%)でdrug interactionsあり(p=0.0005)。
結論
黄色ブドウ球菌菌血症において通常治療にリファンピシンを追加してもベネフィットはない。