気胸の治療(原著)
NEJM 2020:382(5):405
★14-50歳で肺の基礎疾患のない初発自然気胸316人を、ドレーン入れる群と入れない群で割付、8週後の肺の拡張を比較。
★8週後に肺が拡張していたのは、ドレーン入れる群で129人/131人(98.5%)、入れない群で118人/125人(94.4%)。リスク差-4.1%(95%CI, -8.6~0.5)で非劣勢満たした(missing dataはカウントしない場合)。
★少々あいまいだが、結論としてはドレーン入れない群が入れる群に非劣勢。
背景
●イングランドにおける15歳以上の自然気胸による入院は、約140件/100万人/年。そのうち3分の1が、気胸の既往がなく、かつ背景の肺疾患もない初発自然気胸である。
●初発自然気胸はheterogeneousな疾患で、適切な治療を定めがたい。多くのケースでは「interventional drainage」を行い、「surgical intervention」へと進むケースもある。
●chest tubeを留置した場合、通常入院が必要で、平均入院日数は4日と報告がある。
●そのほかの選択肢として「conservative management」がある。気胸が「physiologically significant」になるまでinterventionを行わない方法である。これまでconservativeな治療のリスク・ベネフィットを検討したランダム化比較試験は行われていない。
●今回、conservativeな治療がinterventionalな治療に比較して、8週後のfull lung reexpansionが同等である、と仮説を立てランダム化比較試験を行った。
方法
●オープンラベル、多施設、非劣勢試験。
●14-50歳で、初発の片側、moderate-to-largeの自然気胸をリクルート。患者はランダムにintervention群とconservative-management群に1:1に割り付けられ、12週フォロー。
●intervention群は12フレンチ以下のchest tubeを留置され水封で管理。挿入1時間後にX線を撮影し、肺が十分拡張し、かつエアリークがなければドレーンをクランプ。4時間後にX線を撮影し変化なければドレーン抜去、帰宅。いずれかのX線で肺の拡張が得られない、あるいは肺の虚脱があれば入院となる。以降の治療は担当医の裁量による。
●conservative-management群では、4時間以上観察されたのちX線を再検される。虚脱の進行がなく、バイタルが安定し、酸素投与は不要、強い症状なく歩行可能で患者の同意が得られれば、痛み止めを処方され帰宅。interventionが必要と判断されれば、以降の治療は担当医の裁量により行われる。
●primary outcomeは8週後の肺の拡張。そのほか、症状消失までの期間、気胸の再発、adverse events、入院期間、手術介入、休職期間、エアリークの持続、患者満足度。
結果
●316人をランダム化。conservative-management群では25人(15.4%)がinterventionを受けた。
●ITT、complete-case analysisでは、primary outcomeである8週後の拡張はintervention群で129人/131人(98.5%)、conservative群で118人/125人(94.4%)。リスク差-4.1%(95%CI, -8.6~0.5)、p=0.02(noninferiority)。95%CIの下限が事前に設定した非劣勢マージン(-9)よりも高かった。
●missing dataをすべてfailureとカウントすると、リスク差-11.0%(95%CI, -18.4~-3.5)であった。
●conservative群のほうが、serious adverse eventsや気胸の再発は少なかった。
結論
●missing dataもあり、primary outcomeについては統計学的にrobustではなかったが、conservativeな治療がinterventionalな治療と比較して非劣勢であるとするmodestなエビデンスとなった。
CT肺癌検診によって肺癌死亡率は低下するか(原著)
NEJM 2020, January 29
★喫煙歴のある男性(50-74歳)は、低線量CTによる肺癌スクリーニングによって肺癌の死亡率が低下する。
★非スクリーニング群とランダム比較し、10年のフォローアップによる肺癌死亡率のrate ratio 0.76。1000人年あたり、肺癌の発見は5.58件 vs 4.91件、肺癌による死亡は2.50件 vs 3.30件。
★CTスクリーニング4回(0、1年後、3年後、5.5年後)、合わせて22600回のCTのうち、「positive」が約2%、癌の診断に至るのが約1%。
背景
●肺癌全体では5年生存率は15%。診断時70%が進行癌である。
●米国の研究ではCT検診は単純写真のみの検診と比較して、5-6年のフォローアップ期間における肺癌死亡率を約20%低下させた。
●本研究はオランダ、ベルギーにおける肺癌検診(NELSON trial:population-based、ランダム化比較試験。volume-based, low-dose CTによって10年のフォローアップ期間中に肺癌死亡率が25%低下するという見立てで2000年に開始された試験)の結果の一部である。喫煙者(current/formerとも)を対象としている。
方法
●対象は50-74歳。男性13195人(primary analysis)、女性2594人(subgroup)。
●CTスクリーニングをT0(開始時)、1年後、3年後、5年半後に受ける群(それぞれRound 1, 2, 3, 4)と受けない群で比較。
●結節影はコンピューターを用いて半自動的に検出。volumeやvolume-doubling timeから「negative」「indeterminate」「positive」に判定する。
●癌の診断、および死亡に関するデータを収集し、committeeが「肺癌による死亡であったか」を判定。最短10年のフォローアップ期間を全員が完遂した。
結果
●男性のみで見ると、CT群6583人、コントロール群6612人。喫煙歴の中央値は38 pack-year。currentが55%、formerが45%。
●CT群では、4回のRound合わせて22600回のCTが施行され(ランダム化された6583人×4=26332回の85%相当)、「positive」となったのは467回(2.1%)。癌の診断に至ったのが203回(0.9%)だった。陽性的中率(癌の診断/「positive」)は43%。
●10年のフォローアップ期間において、肺癌の発生率はCT群5.58件/1000人年、コントロール群4.91件/1000人年。肺癌の死亡率はCT群2.50件/1000人年、コントロール群3.30件/1000人年。
●発見された肺癌:CT群では、CTスクリーニングで発見された肺癌が203件(うちIAが46%、IBが11%、IVが9%など)、スクリーニングと関係なく発見された肺癌が141件(うちIAが7%、IBが7%、IVが51%など)。コントロール群で発見された肺癌は304件で、うちIAが6%、IBが6%、IVが45%など。
●全死亡のうち、肺癌での死亡はCT群で18%、コントロール群で24%で有意差あり(cumulative rate ratioは0.76(95%CI, 0.61-0.94))。ほかの死因を見ると、肺癌以外の癌が36%、33%、心血管疾患が21%、21%など。全死亡は13.9/1000人年、13.7/1000人年(有意差なし)。
●女性でみると、死亡に関するrate ratioは0.67(95%CI, 0.38-1.14)。
結論
●肺癌リスクの高い集団において、CTスクリーニングは肺癌の死亡率を低下させた。