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医師の自学自習のためのブログ

意識障害の初期対応(Hospitalistより)

意識障害 Hospitalist 2019;7(4):743

●AIOUETIPSは網羅的で有用だが、順番に脈絡がなく、対応に時間がかかり不要な検査が増えることにつながる

●迅速に対応する実践的な考え方を紹介

 

初期対応

まずABCの評価。外傷であれば頸椎保護。

バイタルチェックと身体診察

静脈路確保と血糖測定⇒血糖値≦70のときは50%ブドウ糖40mLを投与する

「Do DONT」

 Dextrose(ブドウ糖

 Oxygen

 Naloxon(ナロキソン:麻薬拮抗薬)

 Thiamine(ビタミンB1

「coma cocktail」

 フルマゼニル(ベンゾジアゼピン拮抗薬)

 

ビタミンB1

栄養異常が疑われる患者には全例にチアミン100 mg(アリナミンなど)を投与する

慢性アルコール中毒、低栄養、妊娠悪阻、肥満術後、吸収障害……

 

気道確保するか?

外傷では「切迫するD」があるとき:GCS 8点以下、2点以上急に低下、瞳孔不同・片麻痺・Cushing現象のあるとき

嘔吐しているとき

 

バイタル

血圧

●低血圧

・敗血症、代謝性疾患、薬物(三環系抗うつ薬・鎮静薬など)
・ショックがあればショックとしての鑑別を進める。心筋梗塞、大動脈解離、肺塞栓など。

●高血圧

・頭蓋内病変かもしれない。sBP 140-149でOR 1.89、170-179でOR 6.09など。

意識障害が軽く、高血圧があるときは、くも膜下出血脳出血に注意。

 

脈拍

●徐脈

オピオイド有機リン中毒

・頭蓋内圧亢進によるCushing現象(高血圧、徐脈、徐呼吸)

・外傷があれば神経原性ショックを考慮

●頻脈

・大動脈解離など痛みの強い疾患

・薬剤:抗精神病薬アンフェタミンなど交感神経作動薬、抗ヒスタミン・抗コリン、セロトニン症候群、アルコール/ベンゾ/麻薬などの離脱症候群、カフェイン中毒

 

呼吸

徐呼吸

・麻薬、鎮静薬

・延髄病変(脳梗塞脳出血など)

頻呼吸

・敗血症(qSOFAの1項目)

・ほかにアシドーシスの代償によって生じる:糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、尿毒症など

・Cheyne-Stokes呼吸に注意。無呼吸と漸増・漸減性の呼吸が周期的に繰り返される。脳卒中で頻度が高い。特に広範囲にmass effectを呈する病変など。心不全もありうる。

 

体温

●高体温

感染症

・暑熱、サリチル酸中毒、悪性症候群セロトニン症候群

・中枢性発熱:くも膜下出血など。中枢神経障害発症から3日以内、神経障害重度、解熱剤効果なし。

●低体温

・寒冷

感染症

低血糖甲状腺機能低下、急性副腎不全

・薬物

 

病歴

薬剤:空包など

一酸化炭素中毒

発症様式

 

診察

●嘔吐物

・吐血なら頭蓋内病変+Cushing潰瘍など。

・青色ならフルニトラゼパムやパラコート。

・臭いもチェック。

●体表

・皮膚乾燥→抗精神病薬、三環系抗うつ薬

・発汗→カフェイン、コカイン、アンフェタミン

・点状出血・紫斑→toxic shock、心内膜炎、髄膜炎菌、肺炎球菌、TTP、血管炎

●意識

・JCS、GCSはばらつきも大きい

・FOURスコア(Ann Neurol 2005;58:585)が考案された(Full Outline of Unresponsiveness):眼の反応、運動、脳幹反射、呼吸でスコアリング。

●瞳孔

・瞳孔径:5 mm以上で散大、2 mm以下は縮瞳、左右差1 mm以上で瞳孔不同。

・対光反射:直接と関節

・眼球運動:共同偏視+逆側の上下肢麻痺→共同偏視と同側のテント上脳病変
運動

 

血液・尿

●血糖、血液ガス、甲状腺考慮

●肝性脳症における高アンモニア血症の感度は37.5%、特異度66.7%。痙攣後、ウレアーゼ産生菌による尿路感染など。

●尿中薬物スクリーニング(トライエージなど)は有用ではない。あくまで臨床状況から推定する。アセトアミノフェンサリチル酸、リチウム、抗てんかん薬などでは血中濃度測定検討。

 

画像

●頭部CT

・明らかな低血糖感染症などでなければほぼ全例に考慮。

片麻痺の逆側の大脳皮質でearly CT signを探す。

●頭部MRI

・以下の疾患ではCTより得意

・脳血管障害(脳梗塞、RCVS、PRES、静脈洞血栓):椎骨脳底動脈系はCTで見にくい

・対光反射、瞳孔不動、呼吸などの脳幹機能異常があるのにCTで異常ないときは考慮。

感染症(脳膿瘍、ヘルペス脳炎

・炎症(脳炎、血管炎):FLAIR、T2強調で海馬、偏桃体、皮質などに高信号がないか。

 

髄液

・発熱+意識障害では考慮

・腰椎穿刺では凝固異常、血小板減少がないかチェック。頭部CTが推奨されているのは、痙攣後、重度の免疫抑制、局所神経症状、GCS 10点以下

髄膜炎であれば、抗菌薬は来院1時間以内に投与するのが目標。1時間遅れるごとに予後不良が30%増える。血液培養の陽性率は50-80%。抗菌薬投与に髄液培養の感度は20%下がる。

 

脳波

有用なのはNCSE(non-convulsive status epilepticus:非痙攣性てんかん重積状態)

 

COVID-19の臨床情報(原著)

Presenting Characteristics, Comorbiities, Outcomes Among 5700 Patients Hospitalize With COVID-19 in the New York City Area

JAMA. Published online April 22, 2020.

 

★米国で初の大規模なケースシリーズ(ニューヨークの5700人)

★やはり男性・高齢者で対象者数・死亡とも多いようだ

 

背景

●米国で最初のケースは2020年1月31日にワシントン州で報告

●その後ニューヨークで爆発的に増加し、4月20日時点で全米の3分の1の症例が集中している。

 

方法

●本研究はNorthwell Health(the largest academic health system in New York)の12の病院で行われた。期間は3月1日から4月4日で、PCRでCOVID-19の診断が付き、入院が必要な全ての連続症例がincludeされている。

 

結果

●5700人が対象となった。

●年齢は中央値63歳、IQR 52-75歳、範囲0-107歳。男性60.3%、女性39.7%。

●基礎疾患

 癌 56%

 高血圧56%、冠動脈疾患11%、うっ血性心不全6.9%

 喘息9%、COPD 5%、閉塞性睡眠時無呼吸2.9%

 HIV 0.8%、固形臓器移植後1%

 CKD 5%、end-stage 3.5%

 肝硬変0.4%

 肥満 BMI≧30 41%、BMI≧35 19%、糖尿病33%

 never smoker 84%

 

●バイタル

 体温>38℃ 30% median 37.5(IQR, 36.9-38.3)

 SpO2 <90% 20%

 呼吸数>24 17%

 心拍数≧100 43%

 

●データ median(IQR、範囲)

 白血球 7000(5200-9500)

 好中球 5300(3700-7700)

 リンパ球 880(600-1200)

  リンパ球<1000 60%

 CRP 13.0(6.4-26.9)

 AST 46(31-71)

 ALT 33(21-55)

 LDH  404(300-551)

 フェリチン 798(411-1515)

 

●重症化・死亡 評価時点で退院済または死亡の2634人

 ICU入室 14%

 挿管による人工呼吸器 12%

 腎代替療法 3%

 死亡 21%

  40歳未満は5%未満

  男女でそれぞれ、

   40代8.2%、2.5%、50代12%、6%、60代18%、12%

   70代35%、27%、80代60%、48%

  人工呼吸器装着者の死亡 88%(282/320人)

  死亡退院者の在院日数 4.8(IQR, 2.3-7.4)

 

●リスクファクター 糖尿病と高血圧について検討

 死亡した患者で見ると、糖尿病患者ではICU入室・人工呼吸器装着が多い

 死亡した患者で診ると、高血圧患者ではICU入室・人工呼吸器装着が少ない

心原性失神

medicina 2020;57(5):642 「心原性失神を疑う場合」

 

★まずは失神かどうか評価

★いかにリスクの高い患者を抽出するか。胸痛、心電図でST変化など虚血が疑われる場合は早急にコンサルトを。

 

 

●失神とは……

 一過性の意識消失によって姿勢が保持できなくなり、自然かつ完全に意識が改善するもの。「脳全体の一過性の低還流」が基本病態で、脳循環が6-8秒途絶し、収縮期血圧が60 mmHg以下となると失神するとされる。

 

●失神か非失神発作か……

 非失神発作には、てんかん、中毒、脳震盪などがある

 

●失神の原因……

 ①神経調節性失神

 ②起立性低血圧による失神

 ③心原性失神

Soteriadesらの報告(NEJM 2002;347:878)では、心原性失神は失神のうち10%未満だが、死亡リスクは2倍。

 

●病歴……

 失神直前にどんな症状があったか。呼吸困難(感度18%、特異度95%)、胸痛(感度6-19%、特異度95-98%)、動悸(感度13%、特異度93%)など。

 家族歴

 

●身体所見……

 心雑音重要。大動脈弁狭窄、肥大型心筋症などによる収縮期雑音。

 

●心電図

ESC(European Society of Cardioloty)ガイドラインEur Heart J 2018;39:1883)で①失神と診断可能なもの、②失神を示唆するものが記載されている。①には虚血、Mobitz IIまたは3度房室ブロック、徐脈(<40)、Brugada、QT延長などがある。

LRINECスコア

★有名なスコアなので知っておくに越したことはない。ライネック、ルリネックなどと読んでいる人がいる。

★「目の前の疑い患者」に有用かどうかは微妙。あくまで病歴、バイタル、身体所見を重視する。除外には使わない。かなり疑わしい患者に対して補助的に使用するのはありだろう。

 

元文献:

The LRINEC (Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) score: A tool for distinguishing necrotizing fasciitis from other soft tissue infections.

 Crit Care Med 2004;32(7):1535-1541

 PMID 15241098

 

シンガポール

・development cohortは壊死性筋膜炎necrotizing fasciitisの連続89人と、同時期に入院したsevere cellulitisまたはabscesses患者からランダムに抽出した225人

・validation cohortは別の施設の壊死性筋膜炎の連続56人と、同時期に入院したsevere cellulitisまたはabscesses患者からランダムに抽出した84人

 

CRP(mg/dL)

 <15 0点、≧15 4点

白血球(cells/µL)

 <15000 0点、15000-25000 1点、>25000 2点

ヘモグロビン(g/dL)

 >13.5 0点、11-13.5 1点、<11 2点

血清Na(mmol/L)

 ≧135 0点、<135 2点

血清クレアチニン(mg/dL)※元文献ではµmol/Lで表現(カットオフ141)

 ≦1.6 0点、>1.6 2点

血糖(mg/dL)※元文献ではmmol/Lで表現(カットオフ10)

 ≦180 0点、>180 1点

 

Validation cohort  Low(≦5点) Moderate(6-7点) High(≧8点)

necrotizing fasciitis  4(7.1)   9(16.1)     43(76.8)

control       77(91.6)  5(6.0)      2(2.4) n(%)

→5点以下と6点以上で分けたときに、陽性的中率92%、陰性的中率96%

 

 

問題点:

CRPのデータが14%で欠けている

・先行する抗菌薬投与の解釈

・壊死性筋膜炎の検査前確立が28%と高い

・後ろ向き研究であり、早期診断や予後改善に役立つかは不明

 

新型コロナウイルス感染症の薬物治療(JAMA Review)

Pharmacologic Treatments for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). A Review. JAMA. Published online April 13, 2020.

Review

 

●2020年3月25日までの英語論文を検索。ケースレポート、ケースシリーズ、レビューも含め、1315論文を対象とした。

SARS-CoV-2はエンベロープのある一本鎖RNAウイルスで、ウイルス表面のspike protein(S)を宿主のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合させて感染する。このとき宿主のtype 2 transmembrane serine protease(TMPRSS2)も、ウイルスの侵入に関与する。

●ウイルスRNAからpolypeptidesが翻訳され、さらに非構造蛋白へと分解(proteolysis)。RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)によってRNAが合成され、ここからウイルス粒子を構成するのに必要な構造タンパクが翻訳される。

 

クロロキン、ヒドロキシクロロキン

マラリア、および全身性エリテマトーデス・関節リウマチの治療薬として歴史が長い。

●ウイルスのエントリーを阻害するようだ。また宿主のサイトカイン産生の抑制、オートファジーやlysosomal活性を抑制する(immunomodulatory effect)。

●これまで中国やフランスで小規模の臨床研究が行われている。RCTが進行中。

●主な副作用としては、QT延長、低血糖、神経・精神症状、網膜症など。妊婦への投与は概ね問題ないとされている。

 

ロピナビル/リトナビル、その他の抗HIV

●ウイルスタンパクのproteolysisに関与する3-chymotrypsin-like proteaseを阻害する。SARSで少数の試験があったが、進行した症例での効果は認められなかった。

●COVID-19 199例のオープンラベルのRCTがあるが、効果は見られなかった。

●ロピナビル/リトナビルの副作用には嘔気・下痢(up to 28%)、肝障害(2-10%)がある。COVID-19の20-30%でも肝障害が見られるとされ、肝障害には注意である。

●その他のの抗HIV薬では、ダルナビルがin vitroでのウイルス活性を示した。

 

リバビリン

●グアニンのアナログで、ウイルスのRNA-dependent RNA polymeraseを阻害する。

SARSの研究では30研究中26で、inconclusiveな結果であり、4つでは副作用のため有害である可能性を示された。MERSでも有効性は示されず。

●副作用は用量依存性の重度の肝障害や溶血性貧血が知られる。

●副作用も強く、COVID-19において有望とは言えない。

 

umifenovir(Arbidol)

●S proteinとACE2の相互作用をターゲットにする。ロシアと中国でインフルエンザの治療、予防に使われており、COVID-19でも注目されている。

 

nitazoxanide

クリプトスポリジウムやアメーバ、ジアルジアなどに使用する抗寄生虫薬。

●MERS、COVID-19でin vitroでの活性が示されている。

 

camostat mesylate(フサン)

●日本で膵炎に対して使用する薬剤。TMPRSS2を阻害してウイルスのエントリーを防ぐ。

 

remdesivir

●C-adenosine nucleoside triphosphateアナログとして働くプロドラッグ。もともとコロナウイルス、フラビウイルスの研究でRNAウイルスに対する活性を期待されて作られ、エボラでも可能性が期待された。

●MERSのマウスモデルでは他の薬剤より肺出血の低下、ウイルス量の抑制を示した。

●COVID-19でも臨床試験が開始されている。

 

fabipirabir(アビガン)

●プリンアナログのプロドラッグで、RNA polymeraseを阻害してウイルス複製を抑制する。インフルエンザウイルス、エボラウイルスでデータが示されているが、他のRNAウイルスでも効果が期待されている。

 

ステロイド

SARSやMERSでの観察研究では死亡率を改善せず、ウイルスのクリアランスの遅れ、副作用の増加が見られた。

●インフルエンザ肺炎の10の観察研究のメタアナでは、ステロイド投与によって死亡率の上昇が見られ、二次感染が2倍になった。

●ただ、ARDSをきたしたCOVID-19 201人の中国での後方視的研究では、ステロイド投与によって死亡リスクが低下した(HR 0.38)。

●今のところステロイドが有用かどうか不明である。

 

抗サイトカイン薬、免疫調整役

●サイトカインストームを抑制するのに有用かもしれない。

●IL-6のモノクローナル抗体であるトシリズマブ(アクテムラ)は関節リウマチ、chimeric antigen receptor T-cell治療後のサイトカインリリース症候群で用いられるが、COVID-19にも有用かもしれない。単アームのケースシリーズがあり、21人中19人で改善が見られたという。RCTが行われている。