淋菌感染症
<参考>
J-IDEO 2018;2:738 薬剤感受性検査の真意を紐解く
臨床病態:
・男性:尿道炎、精巣上体炎
・女性:子宮頚管炎、尿道炎、卵管炎、骨盤内炎症性疾患
・菌血症、播種性感染症も(関節炎、膿疱)
・性行動の多様化により、咽頭感染(性器感染症患者の10-30%)、直腸感染、結膜炎もみられる
・尿道炎、結膜炎は症状強いが、子宮頚管炎では無症状も多い。
・治療にあたっては抗菌薬の移行性が重要。性器・咽頭の同時感染例では、性器の淋菌が消失しても咽頭の淋菌が残ることもある。
耐性が進んでいる:
・ペニシリナーゼ産生淋菌(PPNG)は少ない(数%)
・PBP変異株が90%以上で、ペニシリンおよびβラクタム阻害薬配合ペニシリンも効果期待できない。
・テトラサイクリン、ニューキノロン耐性(DNA gyraseのサブユニットGyrA、トポイソメラーゼVのサブユニットParCの変異)も70-80%以上。
・経口セファロスポリンも耐性進んでいる。最も強いセフィキシム(CFIX:セフスパン)の200mg/回・1日2回・3日間は効果ある一方、無効との報告あり。
・保険適応があって確実なのはセフトリアキソン(尿道炎などには1g単回)、スペクチノマイシン(SPCM:トロビシン)。ただし咽頭感染にはスペクチノマイシンの有効性低い。
・セフトリアキソン耐性株(MIC 2μg/mL)も報告出てきている。
・アジスロマイシンはCLSIのブレイクポイントが設定されていない。おおむね(90%以上)有効と考えられるが、MIC0.5mg/L以上(日本のサーベイランスで5%)で治療失敗例が出現、1mg/Lで約40%が失敗したとするデータあり。
・ほぼ染色体性の耐性。淋菌は形質転換としての遺伝子獲得能力が高い。
診断:
・クラミジアとの混合感染に注意(男性尿道炎では20-30%)。PCRでは同時に両菌種を同定可能。
・PCRでは感受性はわからないので培養も。保険上、PCRと培養は同時に提出できない。
・女性性器感染では、子宮頚管擦過検体。下腹部痛、右季肋部痛には注意。
治療:
・経口抗菌薬のみで治療することは現状推奨されない。
・セフトリアキソン、スペクチノマイシン以外には、アジスロマイシン(ドライシロップ2g)が尿道炎、子宮頚管炎に適応あり、アジスロマイシン静注が骨盤内炎症性疾患に保険適応あり。アジスロマイシンはおおむね(90%以上)有効と考えられるが、MIC0.5mg/L以上(日本のサーベイランスで5%)で治療失敗例が出現、1mg/Lで約40%が失敗したとするデータあり。
・ピペラシリン、メロペネムは抗菌力があるが、保険適応はない
レジメン:
尿道炎・子宮頚管炎
1st セフトリアキソン静注1g単回 ※咽頭感染の同時治療可能
2nd スペクチノマイシン筋注2g単回
精巣上体炎・PID
セフトリアキソン静注1g/回・1日1-2回・1-7日間
スペクチノマイシン2g筋注単回、3日後に両臀部に2gずつ4g
※投与期間は症例毎に異なる
咽頭感染
セフトリアキソン静注1g単回
※スペクチノマイシンは不適
※セフェム使用不可症例では感受性をみてジスロマック2g、ミノマイシンなど
播種性淋菌感染症
セフトリアキソン1g/回・1日1回・3-7日間
※投与期間のエビデンスが確立していない
結膜炎
スペクチノマイシン筋注2g単回
セフトリアキソン静注1g単回 ※保険適応なし
直腸感染
セフトリアキソン静注1g単回
スペクチノマイシン2g筋注単回
治療効果判定:
現時点でセフトリアキソン・スペクチノマイシンは有効率が高く、投与後の検査は必ずしも行わなくてもよい。症状(排尿痛、分泌物)は淋菌が残っていても消失することがある。白血球数も減少しうる。治療判定を行う場合は、淋菌が検出されないことを確認するべき。女性性器感染症では不妊などの原因となるため、できれば前例でPCRをチェックする。