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医師の自学自習のためのブログ

麻疹―Review

Measles

Seminar

Moss WJ. Lancet 2017;390:2490-502

 

Introduction

●麻疹は感染性の強い、急性ウイルス性熱性疾患である。遺伝学上はrinderpest virusに近い(ウシの感染症の原因となり、2011年に世界動物保険機構が根絶を宣言)。歴史的なエビデンスには乏しいが、おおむね5千~1万年前、つまり古代文明の発祥時期には人類に感染症を引き起こすようになっていたらしい。1960年代にワクチンが導入されるまでは、特に小児のmorbidity/mortalityは高く、1980年代にExpanded Programme on Immunizationによって広くワクチンが普及するまでは、年間200万人の死亡をもたらしていた(Figure 1:麻疹の歴史)。この20年の間に罹患率は低下したが、年間の死亡者は10万人に及び、依然vaccine-preventableな疾患として重要である。ポリオと同様、elimination/eradicationを目指す必要がある。このセミナーでは、2012年のセミナー(文献6)をアップデートし、新たな情報を提供する。

eradicationworldwide interruption of measles virus transmission

elimination12ヶ月以上endemic measles virus transmissionがない (文献109

 

Disease burden

20世紀の間に、栄養状態の改善、社会経済の発展、医療、ワクチン接種の普及により、麻疹による死亡は減少した。麻疹は特に途上国・貧しい地域に多く、正確な罹患率・死亡率の把握は難しいため、値は報告およびモデルによって推計されている。多くの国では報告ベースのサーベイランスを行い、WHO Global Measles and Rubella Laboratory Networkによる診断・分子疫学の手法を用いた標準的なテストを実施している。

WHOは毎年麻疹発生と死亡の推計、ワクチン接種状況を発表している。麻疹の報告患者数は2000年から2015年に70%減少した(853479件→254928件)。ただし、実際の発生数より低く数値と考えられる。2015年の地域別発生はアフリカ40%、西太平洋27%、東南アジア12%。欧州も11%ある。

●麻疹死亡は麻疹の発生率のほか、ワクチン接種、年齢、国毎の状況を見ながら推計している。2000年から2015年に79%減少した(651600件→134200件)。死亡の64%はアフリカエリアで発生している。この期間でワクチン接種は2030万人の死亡を減らしたと推計される。(Figure 2

 

Epidemiology

●呼吸器からのdropletsだけでなく、空気中に2時間留まるparticle aerosolsによっても感染する。潜伏期は一般に発熱まで10日、発疹まで14日と考えられる。8件の観察研究のsystematic review(文献18)では潜伏期間中央値は12.5日(95%CI 11.8-13.2)。最も長い潜伏期は23日と報告がある(文献19)。感染性のある期間は発疹出現の数日前から数日後。この期間は、特にウイルス量が多く、咳や鼻症状が強い。ただしウイルスRNAは発疹が治まっても数ヶ月は血中、尿、鼻咽頭検体に認められる。接触歴が不明の麻疹患者は多く、まれかもしれないが感染性のある期間が相当長い可能性がある。

●感染性はbasic reproductive number (R0)で表される。ある一人の患者が、感受性のある集団においてどれだけ二次的な患者を発生させるかの平均値。感染形態、人口密度、社会活動などにより左右されるが、麻疹は9-18と推定されている。これは天然痘5-7)、インフルエンザ(2-3)と比較してもかなり高い。この感染性の強さが、麻疹根絶の障害である。単純な推計では集団の免疫保有率を89-94%とすれば麻疹根絶が可能とされる。

●麻疹は不顕性感染や持続感染は知られておらず、動物の宿主もない(類人猿では感染例の報告があるが、ウイルスを保持するには少ないと考えられている)。根絶に有利な条件である。

●麻疹には季節性、および2-5年ごとの流行サイクルがある。アウトブレイクごとに免疫をもつ人の割合が変化するためと考えられる。季節では冬から春にかけて多い。熱帯地域では季節パターンは様々で、高い出生率の地域では、不規則で大規模な流行も発生する。

●母体由来の麻疹IgG抗体は、新生児の麻疹防御に働くが、数ヶ月で効果がなくなる。小児の麻疹罹患年齢は、母体の免疫状況、ワクチン接種時期、その地域の麻疹流行に左右される。ワクチン接種状況の悪い地域では、麻疹は小さな子供の疾患である。ワクチンが広まり、流行も収まった地域では、青年期、さらに成人へと発症年齢がずれていく。また、immunity gapsのある集団において、ワクチン接種率が高くても(しかも2回打っている人が多くても)アウトブレイクが発生することが、最近よくみられている(参考文献32-35)。

 

Virology

●麻疹ウイルスはnon-segmentednegative-sense RNAウイルスでParamyxoviridaeに属する。ゲノムは16000塩基で6つの構造蛋白と2つの非構造蛋白をコードする。生涯免疫に関わるIgG抗体はヘマグルチニン蛋白に対するもので、宿主細胞のレセプターに結合するのを防ぐ。

nucleoprotein遺伝子の可変領域をコードする450塩基対のシークエンスによって特徴づけられる。24genotypeWHOによって指定されており、流行状況をみるのに役立っている。24のうち2005年から2014年の間に132009年から2014年の間には8つしか検出されておらず、つまり多くのgenotypeはすでに根絶されたようだ。

genotypeが多岐にわたり、RNAウイルスはもともと変異しやすいにも関わらず、麻疹ウイルスはantigenically monotypic virusである。このため、1950年代に開発された、ワクチン株を用いた弱毒ワクチンがすべての株をカバーできる。

 

Pathophysiology

●麻疹ウイルスはdropletsaerosolised particlesによって獲得され、はじめはリンパ球、樹状細胞、肺胞マクロファージに感染する。潜伏期間の間に複製され、まずリンパ系組織へ、続いて感染リンパ球が血流にのることで播種される。上皮・内皮細胞に感染し、直接伝播することですべての内臓系に及ぶ。ウイルスは呼吸器上皮表面からbud、もしくは傷害された上皮から放出され、感染源となる。

●ウイルスRNAは発疹出現から少なくとも3ヶ月は、臨床検体から検出される。従来の2-3週持続する発熱性疾患という概念は揺らいでいる。サルモデルでは末梢血の単球に67日間認められた。ウイルスクリアランスには3つのフェーズがあるらしい。①急速にRNAが減少し感染ウイルスが排除される、②一時的にRNAがリバウンドしたのち10週ほどかけて検出感度未満まで減少する、③RNAがリンパ組織からは検出されるが血中からは検出されない。

 

Immune responses

●免疫はウイルス排除や感染防御に役立つが、麻疹の臨床症状にも深く関わっている。例えば麻疹の皮疹は組織学的には血管周囲のリンパ球浸潤である。2つの非構造蛋白(VC)がホストのインターフェロンを抑制する。細胞性免疫、液性免疫が機能し、それぞれ感染からの回復と、長期の免疫に関与する。液性免疫ではIgMがまず増加する。発疹出現から6-8週高値が続く。IgMは診断に有用だが、発疹出現直後では陰性となることがあり注意する。続けてIgGが産生される。母体由来のIgGや暴露後の免疫グロブリン投与が有効であることから、IgG単体で麻疹からの感染予防に有用と考えられる。細胞性免疫はウイルス除去、回復に働く。小児の無ガンマグロブリン血症では麻疹から回復するものの、T細胞不全患者では致死的であることはこれを示す。

●麻疹は免疫抑制的な感染症である。二次的な細菌性・ウイルス性感染を起こしやすくなる。一時的なリンパ球減少が起きるが、これは末梢血からリンパ組織への移行による。Ex vivoでは、リンパ球の増殖や樹状細胞機能が低下する。In vivoでのメカニズムは不明である。Th2の抑制は細胞内寄生菌への感受性を増す。血漿IL10増加も免疫抑制に関連するかもしれない。また、麻疹に特異的に反応するリンパ球の増加により、他のメモリー細胞が減少するという仮説もある。

●麻疹後は数週から数ヶ月、二次的な感染症を発生するリスクが高まる。あるいは2-3年かもしれない。

●麻疹ワクチンが他の感染症をも減らすという議論もある。

 

Cinical presentation, complications, and outcomes

●発熱+3つのCCoughcoryzaconjunctivitisが重要。コプリック斑は発疹出現の1-2日前から。発疹は発熱出現の3-4日後に出現し、初めは顔面・耳の裏、さらに体幹・四肢に広がる。ワクチンによる修飾麻疹では発疹はminimalなことがあり、3つのCも欠くかもしれない。HIV感染など細胞性免疫不全では、発疹を欠くか遅れることがある。Uncomplicated症例では発熱後1週間以内に快方に向かう。

●すべての臓器に合併症がありうる。特に新生児、20歳以上の成人、妊婦、免疫不全、栄養不良、ビタミンA欠乏。肺炎は多く、死亡率にもかかわる。肺炎は二次性の細菌性・ウイルス性のほか、麻疹そのものでも発症しうる。クループや中耳炎も多い。起因菌は特徴的なものはない。下痢も致死的で、細菌性、原虫など様々。妊婦の麻疹は低出生体重児、流産、子宮内胎児死亡、母体死亡のリスクを上げる。

3つの神経系の合併症は重要である。

Acute disseminated encephalomyelitis (ADEM)脱髄性自己免疫性の脳炎で、麻疹発症の数日から数週以内に発生する。麻疹1000例に1例みられる。発熱のほか、けいれんやその他の神経兆候をきたす。

measles inclusion body encephalitis (MIBE)はウイルスの脳への感染で、免疫不全者において麻疹発症後数ヶ月以内に発生する。臓器移植や、HIV感染者で報告がある。

subacute sclerosing panencephalitis (SSPE)は麻疹1万~10万例に1例発生する、遅発性の合併症で、麻疹発症の5-10年後に発症する(caused by the host response to production of mutated virions with defective assembly and budding)。特に2歳未満で麻疹を発症した患者にみられ、痙攣、進行性の認知機能・運動機能、死亡が特徴的。アメリカからの報告(Clin Infect Dis 2012:参考文献89)で、1歳未満の麻疹では1:6095歳未満の麻疹では1:1367SSPEを発症したとしている。

●麻疹の死亡は1000人に1人、5%サブサハラやアジア)、20-30%(難民キャンプなど)など。

 

Diagnosis

●見慣れた医師が診察すれば、鑑別に挙げるのは比較的容易である。他のウイルス性発疹症、つまり風疹、HHV6、パルボウイルスB19、デングなどに注意。経過のほか、合併症にも注意する。肺炎、中耳炎、角結膜炎、下痢など。免疫不全は重要で、ビタミンA欠乏とHIVにも注意。空気感染対策。麻疹を見たことのない医師、典型的でない症状の場合、診断は簡単ではない。特に免疫不全、ワクチン接種歴、比較的長い潜伏期、典型的でない皮疹の場合。

IgMは診断に有用だが、発疹出現の4日以内は陰性に出やすい。72時間以内に75%4日以内にalmost all患者でIgMが陽性になったという報告あり(文献93)。IgM1-3週でピーク、4-8週で検出できなくなる。ペア血清によるIgG4倍以上の上昇も有用である。抗体は酵素免疫法よりも中和アッセイのほうが感度が高い。IgMが陰性の時期でも咽頭・鼻・尿サンプルのRT-PCRでウイルスRNAが検出可能。

oral fluiddried blood spotからIgMIgG、ウイルスRNAを検出する技術も開発されている。

 

Management

●支持療法と合併症の検索

WHO1歳以上の麻疹患者に20IUのビタミンA2日間投与することを推奨(1歳未満は適宜減量)。2回のビタミンA投与が、2歳未満の小児の死亡率(RR 0.18 (95%CI 0.03-0.61))、肺炎による死亡率(RR 0.33(0.08-0.92))を減少させた報告あり(文献100)。

●重症麻疹でリバビリンインターフェロンα、その他抗ウイルス薬を使用したという報告あり。

●予防的抗菌薬投与は推奨されていない。

 

Prevention

●風疹(MR)、ムンプス(MMR)、水痘(MMR-V)との混合ワクチンが有用。

●最初のワクチン(Edmonston B strain)は1963アメリカで承認されたが、軽度の麻疹を頻繁に引き起こしたためガンマグロブリンと一緒に投与されていた。1960年代には改善され、Schwarz and Moraten株などが現在も使用されている。

WHOの推奨では、初回(measles-containing vaccineMCV1)をendemic areaでは9ヶ月児に接種、状況によっては6ヶ月で打ってもよいとしている:アウトブレイクの最中、難民キャンプ、HIV、暴露の可能性が高いなど。ワクチン後に有効な抗体価が達成される割合は9ヶ月児の接種で85%12ヶ月児で95%9ヶ月未満で打つとこの割合はさらに低い。母体由来の抗体がワクチン株を阻害するためと考えられている。12-15ヶ月で打つのが最も免疫がつきやすいが、麻疹リスクの低いエリアでのみ推奨される。

●流行を防ぐには2回目の接種が重要。ルーチンのサービスとして打つ(MCV2)か、ワクチンキャンペーンとして打つ(supplemental immunization activities (SIAs)と呼ばれる)か。MCV19ヶ月で打たれる地域ではMCV215-18ヶ月で打つ。MCV112ヶ月で打たれる地域では15-18ヶ月もしくは学校に入る年齢でMCV2を打つ。

●世界のMCV1の接種率は、2000年(72%)から2010年(85%)に上がったが、2015年は85%と変わらなかった。残り15%をいかに接種するかが根絶に向けて重要。2015年にMCV1を打たなかった2080万人の子供たちのうち、53%が次の6つの国に住んでいる:インド、ナイジェリア、パキスタンインドネシアエチオピアコンゴ民主共和国

MCV22015年では61%SIAとして打つ人も多いが、高価でリソースも必要。

 

Elimination and eradication

The future of measles