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医師の自学自習のためのブログ

死亡診断書記入マニュアルを読んで

平成31年版の死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルを読んで感じたこと。

特にことわりがない引用は記入マニュアルからの引用です。また、厚労省通知「医師による異状死体の届け出の徹底について」および厚労省事務連絡「「医師による異状死体の届け出の徹底について」に関する質疑応答集(Q&A)について」からも引用しています。

 

1 死亡診断書(死体検案書)の意義

死亡診断書(死体検案書)は2つの大きな意義を持っています。

 

① 人間の死亡を医学的・法律的に証明する。

死亡診断書(死体検案書)は、人の死亡に関する厳粛な医学的・法律的証明であり、 死亡者本人の死亡に至るまでの過程を可能な限り詳細に論理的に表すものです。

したがって、死亡診断書(死体検案書)の作成に当たっては、死亡に関する医学的、 客観的な事実を正確に記入します。

 

② 我が国の死因統計作成の資料となる。

死因統計は国民の保健・医療・福祉に関する行政の重要な基礎資料として役立つとともに、医学研究をはじめとした各分野においても貴重な資料となっています。

厚生労働省では、我が国の基幹統計である人口動態統計として公表しています。 

 

事件・事故や災害のニュースで「心肺停止」という言葉をよく耳にします。明らかに死亡している状態(白骨化している、腐乱している、ばらばらになっているなど)はともかく、ぱっと見ただけでは亡くなっているのかどうか判然としない場合、正確性を期して、あるいは責任を回避する意味で、「心肺停止」を使用するのは妥当かと思います。

「死亡」を含め、ある人が何らかの病状であるかどうか判断する作業を「診断」と呼んでいますが、「診断」ができるのは医師のみだからです。(医師法17条)

「診断」を記載した書類を「診断書」と呼び、医師には(求めがあれば)診断書を作成する義務があります。(医師法19条)

医師法

第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
 
第十九条 2 診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。

 

2 死亡診断書と死体検案書の使い分け

医師は、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」には「死亡診断書」を、それ以外の場合には「死体検案書」を交付してください。

交付すべき書類が「死亡診断書」であるか「死体検案書」であるかを問わず、異状を認める場合には、所轄警察署に届け出てください。その際は、捜査機関による検視等の結果も踏まえた上で、死亡診断書もしくは死体検案書を交付してください。

 

普通の医者は「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」以外の場合に遭遇することはあまりないと思います。

事件・事故、災害、明らかに死亡している状態(白骨化している、腐乱している、ばらばらになっているなど)などが当てはまるでしょうが、こういうときは嫌でも警察の方々が介入しますから、自分ひとりの判断で書類を作ることはありえません。

 

医学的観点からいえば「死亡」と見なされるが、明らかに死亡している(白骨化、腐乱、ばらばら)とまでは言えないときは難しいです。こういう場合、医者が「この人は死亡している!」と宣言するまでは一応「生きている」と判断するのも妥当なわけですから、その間になんやかんやと検査して、例えば「大動脈瘤破裂でした」などと診断を付け、それ(生前に診療していた傷病)に関連して死亡したと医者が認めれば、(検案書ではなく)死亡診断書を書ける。

いい加減とは言いませんが、医者が自身の良心と見識に基づいて、ある程度自由に、勝手に判断できる、というかそう判断せざるをえない。

 

例えば朝起きたら冷たくなっていた患者について、死因がわからない、判断できないという事態がありえます。これは死体検案書を書く条件そのものです。そしてそういう場合、往々にして警察に届け出られます。

ただしマニュアルにもある通り、診断書か検案書かの判断と、警察に届け出るか否かの判断は別物です。医師法では「異状」があると認めたときは届け出なければならないと義務付けられているのですが……

医師法

第二十一条 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

ここがよくわからない。

「死体」を「検案」して「異状」があれば、というのは(死亡診断書ではなく)死体検案書を交付すべき状況が念頭にあるように思われる。

なぜなら死亡診断書を書くというのは、疾患の診療→疾患の悪化→死亡というシークエンスを、医者が把握しているときに可能なわけで、ここに「検案」が入り込む余地がないからです。逆に、このシークエンスを把握できていないときは死亡診断書は書けず、死体検案書を書かなければならない。死体検案書を書こうと検案をした際に、異状があると思えば警察に届け出る、異状があると思わなければ届け出ない。

死亡診断書を書いたものの、例えば犯罪性があると思ったがために警察に届け出る、というのは、医師法が定めた義務ではなく、あくまで良識ある市民としての義務のように思います。

 

 「検案」とは何か。これはすでに示されています。

平成26年6月10日参議院厚生労働委員会会議録(抄)

田村厚生労働大臣 医師法第二十一条でありますけれども、死体又は死産児、これにつきましては、殺人、傷害致死、さらには死体損壊、堕胎等の犯罪の痕跡をとどめている場合があるわけでありまして、司法上の便宜のために、それらの異状を発見した場合には届出義務、これを課しているわけであります。医師法第二十一条は、医療事故等々を想定しているわけではないわけでありまして、これは法律制定時より変わっておりません。ただ、平成十六年四月十三日、これは最高裁の判決でありますが、都立広尾病院事件でございます。これにおいて、検案というものは医師法二十一条でどういうことかというと、医師が死因等を判定をするために外表を検査することであるということであるわけであります。一方で、これはまさに自分の患者であるかどうかということは問わないということでありますから、自分の患者であっても検案というような対象になるわけであります。さらに、医療事故調査制度に係る検討会、これ平成二十四年十月二十六日でありますけれども、出席者から質問があったため、我が省の担当課長からこのような話がありました。 死体の外表を検査し、異状があると医師が判断した場合には、これは警察署長に届ける必要があると。一連の整理をいたしますと、このような流れの話 でございます。

 

「外表を検査する」とは「解剖はしない」ということでしょう。いわゆるAIも含まない。ただし外表を検査するといっても「ぱぱっと見て終わりではダメですよ、ちゃんと考えてくださいね」ということは指摘されています。

 

医師による異状死体の届け出の徹底について(通知)

平成31年2月8日医政医発0208第3号(抄)

医師が死体を検案するに当たっては、死体外表面に異状所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署に届け出ること。

 

平成24年10月26日第8回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会議事録(抄)

中澤構成員 それは、外表を見てということは、外表だけで判断されるということでよろしいわけですね。

田原医事課長 基本的には外表を見て判断するということですけれども、外表を見るときに、そのドクターはいろんな情報を知っている場合もありますので、それを考慮に入れて外表を見られると思います。ここで書かれているのは、あくまでも、検案をして、死体の外表を見て、異状があるという場合に警察署のほうに届け出るということでございます。これは診療関連死であるかないかにかかわらないと考えております。

中澤構成員 そうすると、外表では判断できないものは出さなくていいという考えですか。

田原医事課長 ですから、検案ということ自体が外表を検査するということでございますので、その時点で異状とその検案した医師が判断できるかどうかということだと考えています。

中澤構成員 判断できなければ出さなくていいですね。

田原医事課長 それは、もしそういう判断できないということであれば届出の必要はないということになると思います。

 

なお一番の問題である「異状とは何か」について、法的な、あるいは国として明確な結論は出ていないようです。日本法医学会が「異状死ガイドライン」を出していますが、あくまで一学会のガイドラインであり、異論も出ています。

「おかしいな」「変だな」「あやしいな」「わからないな」と思ったら異状であるとしてよいと思います。そして異状だからと警察を呼べば、警察のほうでしかるべき対応をしてくれます。かといって何でもかんでも「わからないから」と警察を呼んでいては警察も困りますので、そのあたりの塩梅は経験次第でしょうか。