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MRSA菌血症に対するβラクタム上乗せ(原著)

JAMA 2020;323(6):527-37

 

MRSA菌血症において、バンコマイシンorダプトマイシン)にMSSA用βラクタム(フルクロキサシリンorクロキサシリンorセファゾリン)をランダム化後1週間併用する群が、併用しない群と比べて、複合エンドポイント(90日死亡、5日目の持続菌血症、relapsefailure)が改善するかランダム比較。オープンラベル。

★併用群でAKIが多く、試験は途中でリクルート中止。

★複合エンドポイントは併用群で59/170人(35%)、68/175人(39%)(p=.42)。ただしDay 5の持続菌血症は併用群で有意に低かった(11% vs 20%, p=.02

AKIは併用群34人(23%)、非併用群9人(6%)(p<.001)。

 

背景

MRSA菌血症の治療において、MRSA薬とβラクタムを併用するとアウトカムが改善するという仮説がある。菌血症持続期間や死亡率の低下につながったとする報告もある。

 

方法

●オープンラベル、パラレル、ランダム化、優越性試験。20158月~20187月にオーストラリア、シンガポールイスラエルニュージーランド27施設からリクルート

●対象は入院患者、血培でMRSA陽性、初回血培陽性の72時間以内にランダム化可能、18歳以上、ランダム化後少なくとも7日は入院が見込まれる、など。主な除外はβラクタムにtype 1の過敏症既往あり、血培で複数菌種検出(コンタミと判断される場合は除外せず)、過去に本研究に参加歴あり、妊娠、担当医が患者の参加を許可しない(?)、βラクタム系抗菌薬をすでに使用中でやめられない、48時間以内の死亡する見込みが高い、など。

 

バンコマイシンかダプトマイシンかは担当医が選ぶ。

●βラクタム併用群では、フルクロキサシリン(2g, q6h, オーストラリアとニュージーランド)またはクロキサシリン(2g, q6h, シンガポールイスラエル)を、ランダム化日をday 1としてday 7まで併用される。Non type 1ペニシリンアレルギー歴がある場合はセファゾリン2g, q8hが投与。透析患者ではセファゾリン2g/回・週3回透析後が投与。

 

●プライマリエンドポイント:90日間の以下の項目による複合エンドポイント(全死亡、day 5時点での菌血症持続、microbiological relapse(血培陰性化後の72時間以内に再度血培からMRSA検出)、microbiological treatment failure(ランダム化後14日以降に無菌検体から再度MRSA検出))。

●その他のエンドポイント:144290日時点での全死亡、day 2での菌血症の持続、day 5での菌血症の持続、7日以内のAKImodified RIFLE criteriastage 1以上:血清クレアチニン値が1.5倍以上。ただし尿量の基準は含めず)または1-90日時点での新規の腎代替療法microbiological relapsemicrobiological treatment failure、静注抗菌薬投与期間。

●プライマリエンドポイントがコントロール群で30%に発生すると推定。臨床的に意味のある絶対リスク差を12.5%と設定し、α=0.05、パワー80%の検出率としてサンプルサイズを440と計算した。

 

●中途打ち切り:342人が参加した時点でAKIが併用群で有意に高く、新たなリクルートは中止された。

 

結果

1431人がスクリーニングされ、356人がランダム化。174人が併用群、178人が単剤群に割付。170人、175人がprimary analysisに回った。

●年齢中央値は64歳。男性6-7割。バンコマイシンの投与を受けた患者は98%1回以上ダプトマイシンを投与された患者は4%いた。

 

Primary outcome:併用群で59/170人(35%)、68/175人(39%)(リスク差-4.2%, p=.42)。per-protocolstudy site、透析有無で見た場合でも傾向は変わらなかった。

Secondary outcomes:死亡率などに有意差はなし。Day 5persistent bacteremiaは併用群で有意に低かった(11% vs 20%, p=.02)。AKIについて(ベースで透析している患者は解析から除外)は併用群で有意に高かった(34人(23% vs 9人(6%, p<.001)。

 

●併用群でAKIが多かったことから、クレアチニンについてpost hoc解析を行った。併用群でAKIを発症した34人(23%)のうち、6人が腎代替療法を必要とした。90日時点で2人は腎代替療法を継続。7人は死亡していた。単剤群でAKIを発症した9人(6%)のうち、2人が腎代替療法を要した。90日時点では腎代替療法を行っている患者はゼロ。3人が死亡していた。

●併用群では、90人がフルクロキサシリンのみ、21人がクロキサシリンのみ、27人がセファゾリンのみ投与され、AKIを発症したのはそれぞれ25人(28%)、5人(24%)、1人(4%)だった。

 

考察

●本研究では、βラクタム併用による臨床アウトカムの改善には有意差がつかず、またAKIの発症が多いという結果になった。

●血培陰性化までの時間(duration of bacteremia)は、菌血症治療の代理エンドポイントとして有用とされるが、本研究ではday 5の血培陰性化に有意差が付いているにもかかわらず、プライマリアウトカム全体では差がつかなかった。

セファゾリンが、抗ブドウ球菌ペニシリンよりもAKIの発症が少ないという知見は、過去のMSSA菌血症に関する後方視的研究で示されている(Clin Microbiol Infect 2019;25:818)。本研究ではさらに、MRSA菌血症においてバンコマイシンと併用した場合でも同様であることが示された。セファゾリンと抗MRSA薬の併用が、AKIのリスクを減らしつつMRSA菌血症を治療するよい選択肢である可能性は残っている。

limitationMRSAの感受性の問題があることから、研究を実施した地域以外の地域で結果をそのまま当てはめることはできない。本研究の大部分の患者はバンコマイシン+フルクロキサシリン/クロキサシリンを投与されている。ランダム化前72時間の抗菌薬投与には介入していない。61%は事前にβラクタム投与を受けていた。オープンラベルである。