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梅毒 自然経過とステージ

NEJM 2020;382:9

The Modern Epidemic of Syphilis(Review)

・Natural history and clinical recognition of syphilisの項をまとめた。

・用語の日本語などは「梅毒診療ガイド」(2018年)を参照。

 

感染早期

●梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)は感染後数日で離れた臓器・組織へ播種する。中枢神経や、妊婦であれば経胎盤的に胎児へも移行しうる。

●中枢神経への浸潤(CNS invasion)は感染者全体の40-50%に起きているという。

●通常1期、さらに2期梅毒へと進むが、ほとんど症状がないまま潜伏梅毒となる場合もある。

 

1期梅毒 primary syphilis

●感染から2-6週後にみられ、陰部の硬性下疳chancreが特徴的。硬く(indurated)、潰瘍性(ulcerative)。ヘルペスなどに似る。

●Chancrepainlessが多いが、painfulでもよい。外性器のほか、肛門、直腸、口腔内に見られることもある。

●鼠経などのリンパ節腫脹regional lymphadenopathyもみられる。

 

2期梅毒 secondary syphilis

●1期梅毒の後1-2ヶ月でみられる。nonpruritic rashが特徴的で、手掌・足底含め全身に見られる。梅毒性バラ診、丘疹性梅毒診、扁平コンジローマなど(※)。1期の病変(chancreなど)と2期の病変(rashなど)が同時にみられる例も9%あるという。

●他に様々な全身症状がみられる。発熱、全身のリンパ節腫脹、粘膜病変、脱毛、骨膜炎periostitis、肝炎、腎炎など。

●肝炎ではALPが高く、アミノトランスフェラーゼはminimally elevatedとされる。

 

早期潜伏梅毒 early latent syphilis

●1期と2期の間の時期や、2期の症状が自然軽快した後の無症状の状態。

●Early latent24%で、rashなどの症状が再燃することがある(recurrent secondary syphilis)

●1期や2期でも、症状が軽微なために患者自身や医療者が気付かなかったり、受診しても診断に至らなかったりすることも多い。CDCearly latent stageを感染から1年以内としているが、これは1年以内ではrelapseしやすいためである。

 

後期潜伏梅毒 late latent syphilis

●感染から1年以上経過して無症状な状態は後期潜伏梅毒(late latent syphilis)。1年以上経つと2期の症状が再燃することはまれになる。

70%は生涯無症状のままだが、30%2-50年の経過でtertiary syphilisへ進む。

 

3期梅毒 tertiary syphilis

●過去には「晩期梅毒」とも。

●下記のlate neurosyphilisのほか、ゴム腫gummatous disease、心血管病変、眼、耳病変をきたす。

 

神経梅毒 neurosyphilis

●1期、2期、潜伏梅毒、3期のいずれの病期に存在していてもよい。

●脳脊髄液の異常所見を伴う中枢神経へのトレポネーマ浸潤(CNS invasion)は、感染早期の50%の患者に起きている。症状がないことも多い(=asymptomatic neurosyphilis)。脳脊髄液の異常は通常の治療によって改善する。

early neurosyphilismeningeal syphilismeningovascular syphilisを呈しやすい。厳密にはCNSではないが、眼や耳の梅毒もみられることがある。

late neurosyphilisは感染から概ね5-12年ほどの経過で、血管meningovascular、実質parenchymatousが障害される。片麻痺hemiplegia、失語aphasia、痙攣など。脊髄の血管もよく障害され、脊髄炎、脊髄血管炎をきたす。実質の障害では、general paresisや脊髄癆tabes dorsalisを呈する。