麻疹について復習
忘れたころにやってくる感染症のひとつ、麻疹。
国内では2019年に744例が報告されるなど警戒されたが、COVID流行後は海外からの入国が制限されたこともあり減少。2020年は10例、2021年は6例のみ。2023年はインバウンドの増加によってやや増加に転じ、30週(~7/30)までの集計で22人。
日本は2015年にようやく麻疹の排除認定をされている。現在は輸入感染症の側面が大きく、渡航歴は非常に重要。ワクチン歴も確認を。
潜伏期間は一般に発熱まで10日、発疹まで14日。
診断はPCR(保健所)やIgM抗体。IgM抗体は発疹出現の72時間以内に75%、4日以内にほぼ全例で陽性になる(J Infect Dis 1997;175:195)。
疑うことが大事。疑ったら空気感染対策を。
接触者のリストアップも。会話などの接触があった者のほか、共通の空調を使用している空間に滞在した者も。初期は感冒症状のみ。前医の受診歴があれば連絡を。
播種性帯状疱疹と汎発性帯状疱疹の違い
以前、帯状疱疹について皮膚科の先生とお話をしていたとき、「播種性帯状疱疹」という用語を何気なく口にしたら、なにそれ、汎発性帯状疱疹じゃないの? みたいなことを言われたことがあって、以来、これらの表現が気になっている。
グーグルの検索窓にも「播種性帯状疱疹 汎発性帯状疱疹 違い」と候補が出てくるのだけれど、めぼしい情報が出てこない。しかたないので自分で考えてみる。
帯状疱疹とは、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による感染症である。VZVは、初感染時に基本的には「水痘」として発症する。ウイルスは全身に広がり、したがって発疹も全身におよぶ。このとき脳神経・知覚神経節にウイルスが潜伏し、高齢、各種疾患・治療の影響でウイルスが再活性化すると「帯状疱疹」を発症する。
免疫が正常の患者(免疫が低下したから帯状疱疹を発症するわけで正常とはいいがたいが)では、帯状疱疹はひとつ、あるいはせいぜい隣接するいくつかのデルマトーム(皮膚分節)にのみ発疹を発症する。これが限局性帯状疱疹である。英語ではlocalized zosterと表現される(up to date、CDC(Immunization of Health-Care Personnel))。
一方で、免疫不全の患者(まれに免疫が正常な患者でも。というか免疫というのは正常から不全までグラデーションになっているだろうから厳密に区別されるものでもないが)では、隣接したデルマトームだけでなく、より広い領域の皮膚に発疹が出現することがある。ときに発疹は全身におよぶ。発疹を全身に認めるということは、すなわち、ウイルスが全身で再活性化・増殖していることのあらわれであり、各種内臓病変をともなうことも多い(肺炎、腹部臓器病変、中枢神経病変など)。当然、死亡率も高くなる。この病態を播種性帯状疱疹と呼ぶ。英語ではdisseminated zosterと表現される(up to date、CDC(Immunization of Health-Care Personnel))。
限局性帯状疱疹では、発疹からにじみ出る液体にのみ感染性があり、標準予防策のみで対応可能である。播種性帯状疱疹ではウイルス量が多く、水痘と同様に空気感染対策と接触感染対策が必要となる。
内科医の立場では、限局性(localized)と播種性(disseminated)の区別を判断すれば十分であり、それ以外の分類は必要ない。では、この「汎発性帯状疱疹」とは何だろうか?
明確な文献がないため個人的な考えになるが、汎発性帯状疱疹とは皮膚病変にのみ着目したときの表現と思われる。医中誌を検索すると「汎発性帯状疱疹」との用語はそれなりにヒットする。特に皮膚科の先生はよく使われるようだ。
汎発性帯状疱疹を起こしていれば、当然、全身へのウイルスの播種は起きているものと思われる。一方、播種しているからといって、皮膚病変が汎発性とは限らない(内臓病変だけかもしれない)。汎発性帯状疱疹とは、播種性帯状疱疹の症候のひとつと考えてよいだろう。
感染症領域では、播種性MAC症や播種性糞線虫症などその他の感染症にも「播種性」と使うし、「菌血症から肺に播種する」と使うこともあるためイメージしやすい。皮膚科の先生だと、もしかしたら、「播種」の表現にそこまでなじみがないのかもしれない。
しかしあらためて考えてみると、「播種性の帯状疱疹」というこの病名がそもそも微妙な気もする。「帯状疱疹」はあくまで皮膚病変のことだ。播種性VZV感染症(再活性化)とでもすればよいのだろうが……病名とは難しい。
バンコマイシン投与方法 ガイドライン2022から
抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022を参考にする。
トラフ値⇒AUCによる調整に変更
・これまではトラフ値がAUCの代替として用いられていたが、ガイドラインには「トラフ値はAUCの代替指標とはいえない」と明記。なお安全性についてはAUCによる調整がトラフ値のみによる調整よりも優れていることが確認されているが、有効性については確認されていない。
・トラフ値1ポイントでもAUCの計算は可能だが、できればトラフ値(投与の前30分以内)とピーク値(投与終了の1時間~2時間後)を測定する。特に、重症・複雑性のMRSA感染症、腎機能低下例、利尿薬使用やTAZ/PIPC使用例などでは2点取る。
TDMのタイミング
・軽症例やソフトウェアを使用しない場合は4回目または5回目の投与の際に。
・重症例やソフトウェアを使用する場合は3回目の際に。
・以降は週1回。
AUCの目標値
・AUC/MIC≧400が目標である。
・MRSA株のMICを1と想定して、AUC≧400が目標となる。
・腎障害を考慮し、上限はAUC≦600とする。
・MRSA以外の菌種にどこまで適応できるかは不明。上限は600としつつ、400以下の場合の調整は臨床的判断。
・トラフ値そのものは参考程度だが、10-20が現実的。
初期投与量
・実測体重を使用する。
・初回は25-30 mg/kg(上限3 g)。
・以降、20 mg/kgを12時間ごと。eGFR>130では8時間ごとを考慮。基本的に1日4 gを超えない。
小児
・ガイドラインに表あり。
・基本的に15 mg/kg、1日3回または4回(年齢による)
肥満者
・初回は20-25 mg/kg (実測体重、上限3 g)。
・以降、10-15 mg/kg(上限2 g)、12時間ごと。
・ソフトウェアを用いる場合、補正体重を用いた腎機能の調整が必要(補正体重=理想体重+0.4×(実測体重-理想体重))。
腎障害
・eGFR<30では代替薬を考慮するが、禁忌ではない。
・ガイドラインに表あり。
・例 体重50 kgの人では、初回は1.5 g。CCr 80-90→1 g・2回、CCr 60-70→0.75 g・2回、CCr 40-50m→0.5 g・2回。
HD
・使用可能なソフトはない。
・初回25-30 mg/kg(ドライウェイト)
・以降、HD後に7.5-10 mg/kg(ドライウェイト)
・血中濃度はHD実施前濃度 15-25を目標とする。
CHDF
・初回20-30 mg/kg(実測体重)
・以降、7.5-10 mg/kg(実測体重)、24時間ごと。
・血中濃度測定は3日目に。ただし濃度が安定しないため短期間での再検を考慮。2回目は初回の72時間後、など。
・重症例ではトラフ値15-20が目標、AUCは400-600が目標。
虫垂炎のフィジカル
参考:おなかのフィジカル診断塾第1回
medicina 2022;59:597
典型的な推移:PATFL
Pain 心窩部の内臓痛
⇩Anorexia, Nausea, Vomiting 食欲低下、嘔気嘔吐
⇩Tenderness 圧痛、特に右下腹部の体性痛
⇩Fever 虫垂炎だけで38℃を超えることはまずない。超えていれば腹膜炎か。
⇩Leukocytosis 白血球増多
症状について
・嘔吐が先行する腹痛では虫垂炎の可能性は低いだろう
・嘔気、食欲低下は8割ほどで見られる。食事を十分に摂っていると言う人は虫垂炎ではなさそう。
・下痢の訴えあり。骨盤腔深くの虫垂炎では直腸周囲の炎症のためテネスムスが起きる(便意が強いが少量の便のみ:うんちしたい症候群:直腸がん、AAA、異所性妊娠なども)
・炎症が膀胱におよべば頻尿、血尿
フィジカル
・McBurney:虫垂の付着部。右上前腸骨棘~臍の外1/3の点。
・Lanz:虫垂の先端。左右の上前腸骨棘の右外1/3の点。
・腹膜刺激:Blumbergは痛いからやめてもいいかも。percussion tendernessや咳嗽、歩行による増強で十分。
・Rovsing:仰臥位で下行結腸を下から右に押すと右下腹部痛が増強。
・Rosenstein:左臥位で圧痛増強。虫垂がのびるから?
・閉鎖筋徴候:仰臥位で右膝を立て、そのまま右膝を左右に振る。股関節を動かす。
・直聴診:虫垂の炎症を触れる(圧痛)ことがある。
巨赤芽球性貧血とビタミンB12欠乏
定義
●巨赤芽球性貧血とは、ビタミンB12もしくは葉酸の欠乏・利用障害による貧血のことで、多くがビタミンB12関連。数%が葉酸関連である。
巨赤芽球性貧血の原因
●ビタミンB12欠乏
・菜食主義
・悪性貧血:抗内因子抗体
・胃切除:ふつうは全摘。まれに部分切除でも。
・加齢による慢性萎縮性胃炎
・慢性膵炎
●葉酸欠乏
・アルコール多飲、偏食
・小腸手術後
・吸収不良症候群
・妊娠
・薬剤:メトトレキセート、抗けいれん薬、ST合剤、アルコール
血球の形態異常
●巨赤芽球性貧血の骨髄では、巨赤芽球、巨大後骨髄球、巨大桿状核好中球がみられる。末梢血では、大型卵型赤血球、破砕赤血球、Howell-Jolly小体、Cabot環、巨大桿状核好中球、過分葉好中球(5分葉、6分葉など)などがみられる。
●巨赤芽球性貧血と骨髄異形成症候群はときに鑑別が難しい。
・MDSでも大球性になる。ただしMCVは100-110 fL程度。MCVが120、あるいは130 fLとなるケースはほぼ巨赤芽球性貧血(あるいは薬剤や自己免疫性溶血性貧血)。巨赤芽球性貧血でも、たとえば鉄欠乏が合併すればMCVはやや低めになるので注意。
・MDSでの骨髄でも巨赤芽球様変化や、異常に大きい顆粒球、過分葉好中球がみられることがある。
・MDSでみられる低分葉好中球や脱顆粒好中球は、巨赤芽球性貧血ではまずみられないので鑑別の参考になる。
ビタミンB12欠乏の確認
●ビタミンB12欠乏巨赤芽球性貧血でも、血清ビタミンB12が下がっていないことがある。「血清ビタミンB12<200」の「臨床的ビタミンB12欠乏症」における感度65-95%、特異度50-60%。特に、特異度は高くなく、除外には使えない。
●CLEIA法では内因子を検査に用いる。抗内因子抗体があると(悪性貧血)、ビタミンB12が高いという結果が出てしまう(偽正常、偽高値)。
●ビタミンB12欠乏では、血中ホモシステイン高値、尿中メチルマロン酸高値が有用。葉酸欠乏でも血中ホモシステイン高値がみられる(尿中メチルマロン酸は正常)。ただし尿中メチルマロン酸は保険未収載。