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医師の自学自習のためのブログ

播種性帯状疱疹と汎発性帯状疱疹の違い

以前、帯状疱疹について皮膚科の先生とお話をしていたとき、「播種性帯状疱疹」という用語を何気なく口にしたら、なにそれ、汎発性帯状疱疹じゃないの? みたいなことを言われたことがあって、以来、これらの表現が気になっている。

グーグルの検索窓にも「播種性帯状疱疹 汎発性帯状疱疹 違い」と候補が出てくるのだけれど、めぼしい情報が出てこない。しかたないので自分で考えてみる。

 

帯状疱疹とは、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による感染症である。VZVは、初感染時に基本的には「水痘」として発症する。ウイルスは全身に広がり、したがって発疹も全身におよぶ。このとき脳神経・知覚神経節にウイルスが潜伏し、高齢、各種疾患・治療の影響でウイルスが再活性化すると「帯状疱疹」を発症する。

免疫が正常の患者(免疫が低下したから帯状疱疹を発症するわけで正常とはいいがたいが)では、帯状疱疹はひとつ、あるいはせいぜい隣接するいくつかのデルマトーム(皮膚分節)にのみ発疹を発症する。これが限局性帯状疱疹である。英語ではlocalized zosterと表現される(up to date、CDC(Immunization of Health-Care Personnel))。

一方で、免疫不全の患者(まれに免疫が正常な患者でも。というか免疫というのは正常から不全までグラデーションになっているだろうから厳密に区別されるものでもないが)では、隣接したデルマトームだけでなく、より広い領域の皮膚に発疹が出現することがある。ときに発疹は全身におよぶ。発疹を全身に認めるということは、すなわち、ウイルスが全身で再活性化・増殖していることのあらわれであり、各種内臓病変をともなうことも多い(肺炎、腹部臓器病変、中枢神経病変など)。当然、死亡率も高くなる。この病態を播種性帯状疱疹と呼ぶ。英語ではdisseminated zosterと表現される(up to date、CDC(Immunization of Health-Care Personnel))。

 

限局性帯状疱疹では、発疹からにじみ出る液体にのみ感染性があり、標準予防策のみで対応可能である。播種性帯状疱疹ではウイルス量が多く、水痘と同様に空気感染対策と接触感染対策が必要となる。

内科医の立場では、限局性(localized)と播種性(disseminated)の区別を判断すれば十分であり、それ以外の分類は必要ない。では、この「汎発性帯状疱疹」とは何だろうか?

明確な文献がないため個人的な考えになるが、汎発性帯状疱疹とは皮膚病変にのみ着目したときの表現と思われる。医中誌を検索すると「汎発性帯状疱疹」との用語はそれなりにヒットする。特に皮膚科の先生はよく使われるようだ。

汎発性帯状疱疹を起こしていれば、当然、全身へのウイルスの播種は起きているものと思われる。一方、播種しているからといって、皮膚病変が汎発性とは限らない(内臓病変だけかもしれない)。汎発性帯状疱疹とは、播種性帯状疱疹の症候のひとつと考えてよいだろう。

 

感染症領域では、播種性MAC症や播種性糞線虫症などその他の感染症にも「播種性」と使うし、「菌血症から肺に播種する」と使うこともあるためイメージしやすい。皮膚科の先生だと、もしかしたら、「播種」の表現にそこまでなじみがないのかもしれない。

しかしあらためて考えてみると、「播種性の帯状疱疹」というこの病名がそもそも微妙な気もする。「帯状疱疹」はあくまで皮膚病変のことだ。播種性VZV感染症(再活性化)とでもすればよいのだろうが……病名とは難しい。