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医師の自学自習のためのブログ

新型コロナウイルス感染症の薬物治療(JAMA Review)

Pharmacologic Treatments for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). A Review. JAMA. Published online April 13, 2020.

Review

 

●2020年3月25日までの英語論文を検索。ケースレポート、ケースシリーズ、レビューも含め、1315論文を対象とした。

SARS-CoV-2はエンベロープのある一本鎖RNAウイルスで、ウイルス表面のspike protein(S)を宿主のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合させて感染する。このとき宿主のtype 2 transmembrane serine protease(TMPRSS2)も、ウイルスの侵入に関与する。

●ウイルスRNAからpolypeptidesが翻訳され、さらに非構造蛋白へと分解(proteolysis)。RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)によってRNAが合成され、ここからウイルス粒子を構成するのに必要な構造タンパクが翻訳される。

 

クロロキン、ヒドロキシクロロキン

マラリア、および全身性エリテマトーデス・関節リウマチの治療薬として歴史が長い。

●ウイルスのエントリーを阻害するようだ。また宿主のサイトカイン産生の抑制、オートファジーやlysosomal活性を抑制する(immunomodulatory effect)。

●これまで中国やフランスで小規模の臨床研究が行われている。RCTが進行中。

●主な副作用としては、QT延長、低血糖、神経・精神症状、網膜症など。妊婦への投与は概ね問題ないとされている。

 

ロピナビル/リトナビル、その他の抗HIV

●ウイルスタンパクのproteolysisに関与する3-chymotrypsin-like proteaseを阻害する。SARSで少数の試験があったが、進行した症例での効果は認められなかった。

●COVID-19 199例のオープンラベルのRCTがあるが、効果は見られなかった。

●ロピナビル/リトナビルの副作用には嘔気・下痢(up to 28%)、肝障害(2-10%)がある。COVID-19の20-30%でも肝障害が見られるとされ、肝障害には注意である。

●その他のの抗HIV薬では、ダルナビルがin vitroでのウイルス活性を示した。

 

リバビリン

●グアニンのアナログで、ウイルスのRNA-dependent RNA polymeraseを阻害する。

SARSの研究では30研究中26で、inconclusiveな結果であり、4つでは副作用のため有害である可能性を示された。MERSでも有効性は示されず。

●副作用は用量依存性の重度の肝障害や溶血性貧血が知られる。

●副作用も強く、COVID-19において有望とは言えない。

 

umifenovir(Arbidol)

●S proteinとACE2の相互作用をターゲットにする。ロシアと中国でインフルエンザの治療、予防に使われており、COVID-19でも注目されている。

 

nitazoxanide

クリプトスポリジウムやアメーバ、ジアルジアなどに使用する抗寄生虫薬。

●MERS、COVID-19でin vitroでの活性が示されている。

 

camostat mesylate(フサン)

●日本で膵炎に対して使用する薬剤。TMPRSS2を阻害してウイルスのエントリーを防ぐ。

 

remdesivir

●C-adenosine nucleoside triphosphateアナログとして働くプロドラッグ。もともとコロナウイルス、フラビウイルスの研究でRNAウイルスに対する活性を期待されて作られ、エボラでも可能性が期待された。

●MERSのマウスモデルでは他の薬剤より肺出血の低下、ウイルス量の抑制を示した。

●COVID-19でも臨床試験が開始されている。

 

fabipirabir(アビガン)

●プリンアナログのプロドラッグで、RNA polymeraseを阻害してウイルス複製を抑制する。インフルエンザウイルス、エボラウイルスでデータが示されているが、他のRNAウイルスでも効果が期待されている。

 

ステロイド

SARSやMERSでの観察研究では死亡率を改善せず、ウイルスのクリアランスの遅れ、副作用の増加が見られた。

●インフルエンザ肺炎の10の観察研究のメタアナでは、ステロイド投与によって死亡率の上昇が見られ、二次感染が2倍になった。

●ただ、ARDSをきたしたCOVID-19 201人の中国での後方視的研究では、ステロイド投与によって死亡リスクが低下した(HR 0.38)。

●今のところステロイドが有用かどうか不明である。

 

抗サイトカイン薬、免疫調整役

●サイトカインストームを抑制するのに有用かもしれない。

●IL-6のモノクローナル抗体であるトシリズマブ(アクテムラ)は関節リウマチ、chimeric antigen receptor T-cell治療後のサイトカインリリース症候群で用いられるが、COVID-19にも有用かもしれない。単アームのケースシリーズがあり、21人中19人で改善が見られたという。RCTが行われている。

 

 

デノシン・バリキサ・ホスカビル 腎障害時の用量

ガンシクロビル

商品名:デノシン

 1V=500mg(12079円)

 

通常用量

 1回5mg/kg・1日2回

 

腎障害時の用量(添付文書)

CCr

 50~69 1回2.5mg/kg・1日2回

 25~49 1回2.5mg/kg・1日1回

 10~24 1回1.25mg/kg・1日1回

 透析 1回1.25mg/kg・週3回

 

バルガンシクロビル

商品名:バリキサ

 1錠=450mg(3016円) ※ドライシロップ製剤あり

 

通常用量

 初期治療 1回900mg・1日2回

 維持治療 1回900mg・1日1回

 

腎障害時の用量

CCr

 40~69 1回450mg・1日2回

 25~39 1回450mg・1日1回

 10~24 1回450mg・2日に1回

 透析 1回1.25mg・週3回

 

ホスカルネット

商品名:ホスカビル

 1A=24mg/mL(9130円)

 

通常用量

 HIVのCMV網膜炎、造血幹細胞移植のCMV感染症

  初期治療 1回60mg/kg・1日3回 or 1回90mg/kg・1日2回     

  維持治療 1回90-120mg/kg・1日1回

  造血幹細胞移植のCMV血症

  初期治療 1回60mg/kg・1日2回

  維持治療 1回90-120mg/kg・1日1回

 造血幹細胞のヒトヘルペスウイルス6脳炎

  1回60mg/kg・1日3回

 

腎障害時の用量

 CCr 1.4mL/min/kg以下で段階的に減量基準あり

 (複雑なので省略:添付文書参照)

新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害

COVID-19で嗅覚・味覚障害が出るのか?

昨今話題の嗅覚・味覚障害ですが、確かに他の疾患でも出現しうるとはいえ、注目すべき症状かと思います。

嗅覚障害の症例報告です。

 

Letters

Sudden and Complete Olfactory Loss Function as a Possible Symptom of COVID-19.

JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. Published online April 8, 2020.

 

症例報告

●40歳女性。急性の嗅覚障害(acute loss of the olfactory function)を主訴に来院。鼻閉(nasal obstruction)はない。

味覚障害(dysgeusia)はない。塩味、甘味、酸味、苦味、すべて問題ない。

●嗅覚障害の出現する数日前に咳、頭痛、筋肉痛があった。発熱や鼻汁はなし。

●耳鏡、鼻鏡では所見なし。

 

●5つの香料を用いたテストでは、phenyl-ethyl-alchole(花)、cyclotene(キャラメル)、isovalenric acid(チーズ)、undecalactone(果物)、skatole(糞便)のいずれも匂いが分からなかった。

●CT、MRIで副鼻腔を撮影したところ、鼻裂に炎症性の肥厚、閉塞を認めた。嗅球には異常は見られなかった。

 

●夫が新型コロナ陽性となったためこの方も検査されたところ陽性であった。

 

discussion

●上気道感染症は嗅覚障害の最多の原因で、22-36%を占める。

●重症の鼻・咽頭感染において鼻裂の閉塞が見られるとされるが、今回の患者では鼻閉や鼻汁の症状はなく、重症の鼻・咽頭感染とは言えない。

●一般にコロナウイルスは篩骨を経て嗅球・嗅細胞に到達し、これを障害することがある。新型コロナウイルスでもそうなのかもしれない。

●Liggetらはcentral cortical neurons、血管平滑筋細胞、気道上皮細胞に発現するolfactory receptor familyを報告しているが、新型コロナウイルスはこの受容体を介して選択的に嗅細胞に感染するのかもしれない。

新型コロナ患者の入院に関する厚労省の通知

新型コロナウイルス感染症感染症法における位置づけ

前提として、新型コロナウイルス感染症の法的な位置づけを確認します。

 

新型コロナウイルス感染症新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令に基づき、令和2年2月1日より新型コロナウイルス感染症の名称で感染症法上の「指定感染症に指定されています。

「指定感染症」とは耳慣れないです。

 

感染症法より;

 

第六条 この法律において「感染症」とは、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症をいう。

 

第六条の8 この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。

 

第七条 指定感染症については、一年以内の政令で定める期間に限り、政令で定めるところにより次条、第三章から第七章まで、第十章、第十二章及び第十三章の規定の全部又は一部を準用する。

 

今回の「新型コロナウイルス感染症」について、感染症法をどのように適用させるかは新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令に細かく規定されています。

入院に関わる条文(第十九条・第二十条)も「新型コロナウイルス感染症」に適応されます。第十九条は次のようにありますが、この中の「一類感染症」を「新型コロナウイルス感染症」に読み替えます。

 

感染症法より;

 

第十九条 都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の患者に対し特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院し、又は当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。

 

したがって法的には、

新型コロナウイルス感染症は指定医療機関へ入院させる

●ただし緊急時であれば指定医療機関以外の医療機関への入院も可能

「入院させなければならない」とは書いていないですが、基本的には入院を要するという理解でよいと思われます。

 

とはいえ指定医療機関への入院が望ましい

令和2年2月9日の結核感染症課長事務連絡新型コロナウイルス感染症患者等の入院病床の確保について(依頼) 」では、次の旨が記載されています。

 

●緊急時であれば指定医療機関でなくても入院させてよい(感染症法の確認)

●ただ基本的には指定医療機関に入院させる。感染症病床でなくてもよい。

 

患者が増えれば軽症・無症状は入院しないことも

令和2年3月1日の厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の事務連絡「地域で新型コロナウイルス感染症の患者が増加した場合の各対策 (サーベイランス、感染拡大防止策、医療提供体制)の移行について 」では次の通り。

 

患者が大幅に増加し、重症者の入院に支障が出るようになれば

・指定医療機関以外の医療機関でも積極的に受け入れる

・無症状・軽症状者は自宅で安静・療養する(高齢者、基礎疾患がある、免疫抑制剤抗がん剤等を用いている、 妊産婦は除く)。

 

宿泊施設・自宅療養における指針が提示

令和2年4月2日の事務連絡新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養 の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」および「「新型コロナウイルス感染症の軽症者等の宿泊療養マニュアル」について」で宿泊施設・自宅での療養についての指針が示されています。

 

●流行の拡大が前提(入院できるなら入院したほうがよい)

●患者が、感染防止にかかる留意点が遵守できて、無症状・軽症者であれば、入院勧告の対象とならない。

●高齢者、基礎疾患あり、免疫抑制剤抗がん剤等使用中、 妊産婦は除外。またこれらに該当する人と同居する患者もなるべく入院。

●基本的には都道府県の用意した宿泊施設で療養する。宿泊施設がムリなら自宅で療養するが、高齢者と同居している場合や、高齢者と頻繁に接する業務にあたる人(医療・介護従事者など)と同居している場合は優先して宿泊施設へ。

●療養の終了基準は、退院基準と同様(PCR2回陰性など)。

 

東京都で宿泊施設での療養開始

実際、4月7日に東京都で患者のホテルへの移動が始まりました。

以下、東京都、コロナ感染軽症者の療養ホテルを公開 - 社会 : 日刊スポーツより

東京都は7日、無症状や軽症の新型コロナウイルス感染者を入院先から移し、療養や健康観察を受ける都内のホテルを公開した。より症状の重い感染者に病床を優先し、医療崩壊を防ぐ狙いがある。軽症者らは同日から、都が借り上げたホテルに順次移り、最終的に100人程度が収容される。都は同様の取り組みを進め、宿泊施設の1000室確保を目指している。

 

ホテルは中央区の「東横イン東京駅新大橋前」。都は24時間以内に37・5度以上の発熱がない感染者を対象とし、移送や食事、滞在などの費用は公費で賄う。ホテルには都の職員や看護師が交代で常駐し、日中は医師も待機する。職員らと感染者は接触しないようにエレベーターや通路を使い分けるとしている。

 

7日朝、ホテルでは災害派遣要請を受けた陸上自衛隊員が、ビニール手袋など物資を運び込み、受け入れ準備を進めていた。

 

都内では6日までに感染者数が累計1100人を突破した。感染拡大のペースが速く、都は医療機関の協力を得て空き病床の確保を急ぐ。複数の入所者が感染した大田区特別養護老人ホームでは、入院先が決まらずに一時的に待機するケースも出ている。

 

小池百合子知事は6日の記者会見で「今後、宿泊療養施設を1000室まで準備し、重症者の病床を確保したい」と話した。

 

プレセデックス(デクスメデトミジン)の使用法

一般名:デクスメデトミジン塩酸塩

 

形状

200 µg/2 mL/瓶 →生食48 mLを加え200 μg/50 mLとして使用する

200 μg/50 mL/シリンジ

 

用法用量

初期負荷投与:6 µg/kg/hの投与速度で10分間投与(=1μg/kg)

維持量:0.2-0.7 µg/kg/hで持続投与

※維持投与から開始してもよい

 

通常は4 µg/mLにして使用する。

4 mL/hなら16 μg/h、5 mL/hなら20 µg/h。これを体重で割ればよい。

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(プレセデックス適正使用ガイドより) 

 

注意

循環血液量が低下している状態では血圧低下をきたしやすい

ボーラス投与、急速な静脈投与は避ける

徐脈が現れることがある