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梅毒検査の成績―CID2019

Performance of Treponemal Tests for the Diagnosis of Syphilis

Park IU, et al. Clin Infect Dis 2019;68:913

 

  • 梅毒診断はlecithin、cardiolipin、cholesterolなどのlipoidal antigensに対する反応をみるnontreponemal serology (rapid plasma reagen (RPR), Venereal Disease Research Laboratory (VDRL))と、確認検査であるtreponemal test (Treponema pallidum particle agglutination assay (TPPA))によってなされる。
  • nontreponemal検査は安価でモニタリングに有用だが、検査技師に負担がかかる。またprimary diseasesではTPPAよりも感度が劣り、生物学的偽陽性も知られる。
  • 新規の検査法として、enzyme immunoassay (EIA)、chemiluminescence immunoassay (CIA)、microbead immunoassay (MBIA)などがある。検査は自動化されており、手間が減り、結果も早く得られる。
  • reverse sequence algorithmとは、初めにtreponemal immunoassayを行って診断し、その後nontreponemal testを行う診断方法だが、RPRよりもimmunoassayのほうが感度が悪いこともあり、有用性は不明である。(注:従来はまずRPR、続けてTPPAで確認。診断を先に行うという意味でreverse sequence)
  • 結果に乖離がある、例えばEIA-positive、RPR-nonreactiveのときは、EIAの偽陽性、梅毒既往、早期のためRPRがまだ上がっていないなどの可能性がある。Early-generationのEIAの研究で、EIA-reactiveの31%でTPPAが陰性であったというデータもあり、偽陽性は多そうだが、梅毒診断にはgold standardがなく解釈は困難である。
  • これまで、トレポネーマの各検査をhead-to-headで調べた報告は少ない。
  • 本研究の目的は、新規の検査(EIA、CIA、MBIA)と従来のFTA-ABS、TPPAを比較し、各stageの梅毒における感度、特異度を検討することである。

 

Materials and methods

Study population

  • Kaiser Permanente Northern California (KPNC)、Kaiser Permanente Southern California (KPSC)と、San Francisco Department of Public Health (SFDPH)の2012年5月~2013年3月の検体がCDC Syphilis Reference Laboratoryに送付される。
  • KPNCとKPSCは私的保険で、それぞれ400万人の会員がいる。ラボはreverse sequence screeningを使用し、KPNCはLIAISON CIA、KPSCはTrep-Sure EIAを最初のスクリーニングを行っている。Seroprevalenceは2%。
  • SFDPHからのサンプルは市の性感染症クリニックで陽性になったものを使用。まずPoint-of-careでRPRが施行され、陽性のサンプルがVDRL、TPPAを施行される。RPRが陰性でも医者が疑えばTPPA・VDRLがオーダーされる。

 

Treponemal testing

  • 全てのサンプルが7つのtreponemal assaysで検査される。CDCの判定者は臨床状況や当初の検査結果を知らされない。1、2、5、7はreverse sequence algorithmの最初のスクリーニングでよく用いられるもの。

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Case definitions

  • 過去のデータを参照し、以下のように梅毒を分類。1995検体のうち、1036 (52%)は診療情報か検体量が不足していた。判定者のうち2人だけが、CDCラボの7つのserologyの検査結果を知らされた。
  • primary syphilisは性器病変があり、①または②。①「暗視野顕微鏡でスピロヘータあり」かつ「reactive nontreponemal or treponemal serology」 ②「暗視野顕微鏡でスピロヘータなしか施行せず」かつ「reactive nontreponemal and treponemal serology」
  • secondary syphilisは全身性の皮膚病変+「reactive nontreponemal and treponemal serology」
  • early latent syphilisは症状がなく、検査結果は「reactive nontreponemal and treponemal serology」か「treponemal testsのいずれか2つが陽性」。梅毒の既往はなく、「梅毒患者と12ヶ月以内に性的接触がある」または「12ヶ月以内にいずれかの梅毒検査でnonreactiveであった検査結果がある」。
  • late latent syphilisは症状がなく、 検査結果は「reactive nontreponemal and treponemal serology」か「treponemal testsのいずれか2つが陽性」。梅毒既往はなく、「過去12ヶ月以内に梅毒検査結果がない」かつ「12ヶ月以内に梅毒患者と性的接触がない」。
  • prior treated syphilis onlyは梅毒既往があるが、サンプル採取日に梅毒の症状所見がなく、採取日から6ヶ月以降も梅毒の診断がなされない。
  • no syphilisはサンプル採取日にも、採取日以降6ヶ月経っても梅毒診断がなされず、梅毒既往がなく、これまでの梅毒検査がすべてnonreactiveで、今回行った7種類の検査のうち4つ以上が陰性であったとき。

 

Data analysis

  • 95%信頼区間。t検定、χ2乗検定を使用。P値は<.05。

 

Results

  • 959人。current syphilis患者は高齢者、男性、MSM、HIV陽性が多かった。(すべてP < .05)。

 

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  • 感度はFTA-ABSが90%で他のものよりやや低かった(TPPAと比べてp=.038、ほかp<.001)。特にsecondary syphilisでは、ほかの検査が感度100%であったのに、FTA-ABSでは92%であった。
  • 特異度にはばらつきがあり、Trep-Sure EIAは82%とやや低かった。TPPAは特異度100%。
  • 今回は41人が、カルテ情報と7つの検査中陽性が3つ以下という条件から「梅毒ではない」と判定されたが、その中で陽性に出たのは、Trep-Sure 85%、Centaur 61%、LIAISON 37%、INNO-LIA 25%、Bioplex 26%、FTA-ABS 2%。

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  • prior syphilisではFTA-ABSとTPPAは陽性がともに<95%。Immunoassaysの陽性率は高い。

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Discussion

  • 4つのimmunoassays (LIAISON、ADVIA Centaur、Trep-Sure、Bioplex)は、梅毒のステージに関わらず高い感度を示した。
  • FTA-ABSは特にprimary syphilisにはやや感度が低かった。FTA-ABSは1990年代の研究などでは梅毒のゴールドスタンダードとして使われていた時期もあったが、現在ではその有用性は揺らいでいると言える。ただし、神経梅毒診断には重要な検査である。
  • TPPAの特異度は100%で、ほかの検査結果が割れたときにはTPPAを信用してもよさそう。
  • Trep-Sureの特異度がやや低かった。TPPA、FTA-ABSをレファレンスに使用した研究で、Trep-Sureの特異度はそれぞれ99%、94%という数値があるが、CDCの検討ではTrep-Sureでreactiveだった人のうち18.6%-25.2%がTPPA nonreactiveであった(おそらく偽陽性)という検討もある。現時点ではTrep-Sureはwould not be a preferred immunoassay。
  • immunoassaysを用いてreverse sequence screeningをする場合、重要なのはEIA-reactive、RPR-nonreactiveの場合、TPPAを行って確認することである。
  • 梅毒の有病率が低い集団では、特異度の低い検査は偽陽性につながる。本研究はTPPAが最も特異度が高いことを示している。
  • 梅毒検査陽性はprior treated infectionでもpersistするが、primary stageで治療された人、HIVのある人では時間とともに弱まりやすい。本研究では、prior treated syphilisがどのstageで治療されたかについては検討していない。この点で層別化するのは有用かもしれない。

 

  • limitation

・検体は凍結された。凍結の影響は不明である。

FDAが承認したその他のimmunoassayもある。

・それぞれのimmunoassayの感度は同様であったが、<4%の差異を検出するパワーはない。

・primary syphilisでは、treponemalもnontreponemalも陰性となることがある。

・serologyだけで梅毒を診断するのは不十分である。患者の性的活動、梅毒既往、現在の症状・所見を考慮する。CDCガイドラインでも、serologyの結果が出る前でも、梅毒症状とリスクがあればpresumptiveに治療することをrecommendしている。