MED INFO

医師の自学自習のためのブログ

心原性失神

medicina 2020;57(5):642 「心原性失神を疑う場合」

 

★まずは失神かどうか評価

★いかにリスクの高い患者を抽出するか。胸痛、心電図でST変化など虚血が疑われる場合は早急にコンサルトを。

 

 

●失神とは……

 一過性の意識消失によって姿勢が保持できなくなり、自然かつ完全に意識が改善するもの。「脳全体の一過性の低還流」が基本病態で、脳循環が6-8秒途絶し、収縮期血圧が60 mmHg以下となると失神するとされる。

 

●失神か非失神発作か……

 非失神発作には、てんかん、中毒、脳震盪などがある

 

●失神の原因……

 ①神経調節性失神

 ②起立性低血圧による失神

 ③心原性失神

Soteriadesらの報告(NEJM 2002;347:878)では、心原性失神は失神のうち10%未満だが、死亡リスクは2倍。

 

●病歴……

 失神直前にどんな症状があったか。呼吸困難(感度18%、特異度95%)、胸痛(感度6-19%、特異度95-98%)、動悸(感度13%、特異度93%)など。

 家族歴

 

●身体所見……

 心雑音重要。大動脈弁狭窄、肥大型心筋症などによる収縮期雑音。

 

●心電図

ESC(European Society of Cardioloty)ガイドラインEur Heart J 2018;39:1883)で①失神と診断可能なもの、②失神を示唆するものが記載されている。①には虚血、Mobitz IIまたは3度房室ブロック、徐脈(<40)、Brugada、QT延長などがある。

LRINECスコア

★有名なスコアなので知っておくに越したことはない。ライネック、ルリネックなどと読んでいる人がいる。

★「目の前の疑い患者」に有用かどうかは微妙。あくまで病歴、バイタル、身体所見を重視する。除外には使わない。かなり疑わしい患者に対して補助的に使用するのはありだろう。

 

元文献:

The LRINEC (Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) score: A tool for distinguishing necrotizing fasciitis from other soft tissue infections.

 Crit Care Med 2004;32(7):1535-1541

 PMID 15241098

 

シンガポール

・development cohortは壊死性筋膜炎necrotizing fasciitisの連続89人と、同時期に入院したsevere cellulitisまたはabscesses患者からランダムに抽出した225人

・validation cohortは別の施設の壊死性筋膜炎の連続56人と、同時期に入院したsevere cellulitisまたはabscesses患者からランダムに抽出した84人

 

CRP(mg/dL)

 <15 0点、≧15 4点

白血球(cells/µL)

 <15000 0点、15000-25000 1点、>25000 2点

ヘモグロビン(g/dL)

 >13.5 0点、11-13.5 1点、<11 2点

血清Na(mmol/L)

 ≧135 0点、<135 2点

血清クレアチニン(mg/dL)※元文献ではµmol/Lで表現(カットオフ141)

 ≦1.6 0点、>1.6 2点

血糖(mg/dL)※元文献ではmmol/Lで表現(カットオフ10)

 ≦180 0点、>180 1点

 

Validation cohort  Low(≦5点) Moderate(6-7点) High(≧8点)

necrotizing fasciitis  4(7.1)   9(16.1)     43(76.8)

control       77(91.6)  5(6.0)      2(2.4) n(%)

→5点以下と6点以上で分けたときに、陽性的中率92%、陰性的中率96%

 

 

問題点:

CRPのデータが14%で欠けている

・先行する抗菌薬投与の解釈

・壊死性筋膜炎の検査前確立が28%と高い

・後ろ向き研究であり、早期診断や予後改善に役立つかは不明

 

新型コロナウイルス感染症の薬物治療(JAMA Review)

Pharmacologic Treatments for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). A Review. JAMA. Published online April 13, 2020.

Review

 

●2020年3月25日までの英語論文を検索。ケースレポート、ケースシリーズ、レビューも含め、1315論文を対象とした。

SARS-CoV-2はエンベロープのある一本鎖RNAウイルスで、ウイルス表面のspike protein(S)を宿主のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合させて感染する。このとき宿主のtype 2 transmembrane serine protease(TMPRSS2)も、ウイルスの侵入に関与する。

●ウイルスRNAからpolypeptidesが翻訳され、さらに非構造蛋白へと分解(proteolysis)。RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)によってRNAが合成され、ここからウイルス粒子を構成するのに必要な構造タンパクが翻訳される。

 

クロロキン、ヒドロキシクロロキン

マラリア、および全身性エリテマトーデス・関節リウマチの治療薬として歴史が長い。

●ウイルスのエントリーを阻害するようだ。また宿主のサイトカイン産生の抑制、オートファジーやlysosomal活性を抑制する(immunomodulatory effect)。

●これまで中国やフランスで小規模の臨床研究が行われている。RCTが進行中。

●主な副作用としては、QT延長、低血糖、神経・精神症状、網膜症など。妊婦への投与は概ね問題ないとされている。

 

ロピナビル/リトナビル、その他の抗HIV

●ウイルスタンパクのproteolysisに関与する3-chymotrypsin-like proteaseを阻害する。SARSで少数の試験があったが、進行した症例での効果は認められなかった。

●COVID-19 199例のオープンラベルのRCTがあるが、効果は見られなかった。

●ロピナビル/リトナビルの副作用には嘔気・下痢(up to 28%)、肝障害(2-10%)がある。COVID-19の20-30%でも肝障害が見られるとされ、肝障害には注意である。

●その他のの抗HIV薬では、ダルナビルがin vitroでのウイルス活性を示した。

 

リバビリン

●グアニンのアナログで、ウイルスのRNA-dependent RNA polymeraseを阻害する。

SARSの研究では30研究中26で、inconclusiveな結果であり、4つでは副作用のため有害である可能性を示された。MERSでも有効性は示されず。

●副作用は用量依存性の重度の肝障害や溶血性貧血が知られる。

●副作用も強く、COVID-19において有望とは言えない。

 

umifenovir(Arbidol)

●S proteinとACE2の相互作用をターゲットにする。ロシアと中国でインフルエンザの治療、予防に使われており、COVID-19でも注目されている。

 

nitazoxanide

クリプトスポリジウムやアメーバ、ジアルジアなどに使用する抗寄生虫薬。

●MERS、COVID-19でin vitroでの活性が示されている。

 

camostat mesylate(フサン)

●日本で膵炎に対して使用する薬剤。TMPRSS2を阻害してウイルスのエントリーを防ぐ。

 

remdesivir

●C-adenosine nucleoside triphosphateアナログとして働くプロドラッグ。もともとコロナウイルス、フラビウイルスの研究でRNAウイルスに対する活性を期待されて作られ、エボラでも可能性が期待された。

●MERSのマウスモデルでは他の薬剤より肺出血の低下、ウイルス量の抑制を示した。

●COVID-19でも臨床試験が開始されている。

 

fabipirabir(アビガン)

●プリンアナログのプロドラッグで、RNA polymeraseを阻害してウイルス複製を抑制する。インフルエンザウイルス、エボラウイルスでデータが示されているが、他のRNAウイルスでも効果が期待されている。

 

ステロイド

SARSやMERSでの観察研究では死亡率を改善せず、ウイルスのクリアランスの遅れ、副作用の増加が見られた。

●インフルエンザ肺炎の10の観察研究のメタアナでは、ステロイド投与によって死亡率の上昇が見られ、二次感染が2倍になった。

●ただ、ARDSをきたしたCOVID-19 201人の中国での後方視的研究では、ステロイド投与によって死亡リスクが低下した(HR 0.38)。

●今のところステロイドが有用かどうか不明である。

 

抗サイトカイン薬、免疫調整役

●サイトカインストームを抑制するのに有用かもしれない。

●IL-6のモノクローナル抗体であるトシリズマブ(アクテムラ)は関節リウマチ、chimeric antigen receptor T-cell治療後のサイトカインリリース症候群で用いられるが、COVID-19にも有用かもしれない。単アームのケースシリーズがあり、21人中19人で改善が見られたという。RCTが行われている。

 

 

デノシン・バリキサ・ホスカビル 腎障害時の用量

ガンシクロビル

商品名:デノシン

 1V=500mg(12079円)

 

通常用量

 1回5mg/kg・1日2回

 

腎障害時の用量(添付文書)

CCr

 50~69 1回2.5mg/kg・1日2回

 25~49 1回2.5mg/kg・1日1回

 10~24 1回1.25mg/kg・1日1回

 透析 1回1.25mg/kg・週3回

 

バルガンシクロビル

商品名:バリキサ

 1錠=450mg(3016円) ※ドライシロップ製剤あり

 

通常用量

 初期治療 1回900mg・1日2回

 維持治療 1回900mg・1日1回

 

腎障害時の用量

CCr

 40~69 1回450mg・1日2回

 25~39 1回450mg・1日1回

 10~24 1回450mg・2日に1回

 透析 1回1.25mg・週3回

 

ホスカルネット

商品名:ホスカビル

 1A=24mg/mL(9130円)

 

通常用量

 HIVのCMV網膜炎、造血幹細胞移植のCMV感染症

  初期治療 1回60mg/kg・1日3回 or 1回90mg/kg・1日2回     

  維持治療 1回90-120mg/kg・1日1回

  造血幹細胞移植のCMV血症

  初期治療 1回60mg/kg・1日2回

  維持治療 1回90-120mg/kg・1日1回

 造血幹細胞のヒトヘルペスウイルス6脳炎

  1回60mg/kg・1日3回

 

腎障害時の用量

 CCr 1.4mL/min/kg以下で段階的に減量基準あり

 (複雑なので省略:添付文書参照)

新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害

COVID-19で嗅覚・味覚障害が出るのか?

昨今話題の嗅覚・味覚障害ですが、確かに他の疾患でも出現しうるとはいえ、注目すべき症状かと思います。

嗅覚障害の症例報告です。

 

Letters

Sudden and Complete Olfactory Loss Function as a Possible Symptom of COVID-19.

JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. Published online April 8, 2020.

 

症例報告

●40歳女性。急性の嗅覚障害(acute loss of the olfactory function)を主訴に来院。鼻閉(nasal obstruction)はない。

味覚障害(dysgeusia)はない。塩味、甘味、酸味、苦味、すべて問題ない。

●嗅覚障害の出現する数日前に咳、頭痛、筋肉痛があった。発熱や鼻汁はなし。

●耳鏡、鼻鏡では所見なし。

 

●5つの香料を用いたテストでは、phenyl-ethyl-alchole(花)、cyclotene(キャラメル)、isovalenric acid(チーズ)、undecalactone(果物)、skatole(糞便)のいずれも匂いが分からなかった。

●CT、MRIで副鼻腔を撮影したところ、鼻裂に炎症性の肥厚、閉塞を認めた。嗅球には異常は見られなかった。

 

●夫が新型コロナ陽性となったためこの方も検査されたところ陽性であった。

 

discussion

●上気道感染症は嗅覚障害の最多の原因で、22-36%を占める。

●重症の鼻・咽頭感染において鼻裂の閉塞が見られるとされるが、今回の患者では鼻閉や鼻汁の症状はなく、重症の鼻・咽頭感染とは言えない。

●一般にコロナウイルスは篩骨を経て嗅球・嗅細胞に到達し、これを障害することがある。新型コロナウイルスでもそうなのかもしれない。

●Liggetらはcentral cortical neurons、血管平滑筋細胞、気道上皮細胞に発現するolfactory receptor familyを報告しているが、新型コロナウイルスはこの受容体を介して選択的に嗅細胞に感染するのかもしれない。