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医師の自学自習のためのブログ

航空機内の緊急事態―Review

In-Flight Medical Emergencies

Review

Martin-Gill C, et al. JAMA 2018;320:2580

 

Introduction

In-flight medical emergencies (IMEs)は、高度35000フィートの中、限られた器具と人員、慣れない環境下で提供される特殊な医療である。本レビューは、文献検索を基にIMEのデータを提供し、医療関係者がこの事態に遭遇した際の手助けになるようまとめられた。

 

Methods

199011日~201862日に発表された英語論文をPubMed/MEDLINEを検索した。検索語(air emergencyなど)を用いて14842本の論文を抽出し、その中からタイトルをチェックして関連する765本に、さらに内容を見て317本に絞った。

 

Observations

Epidemiology

●地上にコンサルトされた11920件のレビューから、IME604フライトに1回発生すると推定された(コンサルトされない例があるので過小評価しているはずだが)。24-130/100万人のIMEsが発生するという推計を用いると、世界中で年間40億人がコマーシャルの航空機利用をするとして、260-1420/日のIMEsが発生している。

14本の論文がIMEの病態の内訳を検討していた(Table 1)。計49100件のIMEにおいて、syncopeまたはnear-syncopeが最も多かった(32.7%)。ほかに、胃腸(14.8%)、呼吸(10.1%)、心血管(7.0%)。心停止は0.2%だった。

IMEによる行先変更(diversion)は56599件のIME中、2515件で行われた(4.4%)(Table 2)。

 

Pathophysiology

●航空機は通常高度30000-40000フィートを飛行し、客室は11-12 psi(重量ポンド毎平方インチ、1 psi = 6894 Pa1気圧=14.6 psi)に加圧される。11-12 psiは地上では標高5000-8000フィート(1524-2438 m)に相当。地上より圧は低いため気体が貯まる空間(生理的:副鼻腔や中耳、非生理的:気胸、胃腸、眼・頭蓋内手術後)は広がる。標高8000フィートの場所に相当する圧の元では、気体は約30%体積を増す。上気道(副鼻腔、中耳)に炎症がある場合、不快感(discomfort)を増強する可能性がある。

●客室の酸素分圧も低くなり、健常者でも平均SaO297%から93%に下がる。呼吸器疾患などでもともと酸素化が悪い場合は、酸素吸入を行う、もしくはもとの酸素流量を増やすといった対応が必要である。

●長時間の座位と低酸素血症は、静脈血流の低下、全身性の炎症、血小板機能の活性化をもたらし、静脈血栓塞栓症の引き金となる。DVT/PEは飛行機を降りてから数時間~数日後が最も発生しやすいが、搭乗中に発生することもある。下肢DVTはハイリスクの乗客では、1フライトあたり5%。無症状のVTEは長時間のフライト(4時間以上)で10%に起こるというデータあり。

●機内は乾燥しており脱水になりやすい。機内の空気の還流はアレルギーや感染性疾患の原因となる。

 

Emergency Medical Equipment

●連邦航空局(Federal Aviation Administration: FAA)はアメリカ国内の航空路線で最低限常備すべき医療器具を定めている。Non-USの航空路線はそれぞれ規定がある。例えばUSの路線ではAEDは必須だが、ヨーロッパの一部の航空会社では必須とはされていないところもある。Table 3に器具と薬品の一覧を示す。静脈路確保、バイタル・血糖測定、尿道カテーテル、鎮痛薬、いくつかの心疾患などに対応できる。酸素は事故などの際に一般乗客に用いるときのため、2-4L/minで投与できる設備があるが、それ以上の流量や、長時間の投与は難しい。小児用の器具、major analgesic、ナロキソン、抗菌薬なども必要とする意見があるが、常備されていないのが普通である。

●航空会社はIMEpreflight screeningsに対応するためground-based medical supportの契約を結んでいる。IMEが発生するとパイロットから地上に連絡が取られ、助言を受けられるようになっている。このサポートがIMEの予後を改善するかどうか検討された研究はない。

 

The Medical Volunteer Role

●各航空会社のポリシーに従い、搭乗者の中から医療ボランティアを募る。ふつうは医師免許などの証明を必要としないが、航空会社によっては求められるかもしれない。医療ボランティアは自らの技量・経験を正直にconsiderしなければならない。アルコールやその他薬物の影響下にあってもいけないIME aidの半数で医師が、25%は看護師やその他の医療職が、25%はクルーだけで対応したという報告あり。ボランティアが複数いれば、技量・経験に応じて対応を検討する。

●医療ボランティアが行うのは、情報収集、患者評価、ground-based supportとのやり取り、投薬・処置である。クルーは医療ボランティアとground-based support双方に意見を求めるが、最終的なrecommendationground-based supportの医師の意見を参考にするのが普通である。

The key to success is for everyone involved to contribute their expertise as part of a collaborative team, with the sole goal of ensuring the best interest of the patient with the IME in consideration of all passengers on board. (力を合わせて患者を救おう(?))

 

Legal and Ethical Considerations for Medical Volunteers

US内では、the Aviation Medical Assistance Act (「よきサマリア人法」の名で知られる)によって、医療提供者の責任は免除される。ボランティアの中には見返り(金銭、席のグレードアップ、マイレージ、その他)を求める者がいるかもしれないが、自らの立場を危うくする。

US以外、国際路線などでは、各種条約など(Warsaw ConventionMontreal ConventionTokyo Conventionなど)で規定されている。「よきサマリア人法」の適応は国毎に異なる。また、医療関係者にIMEへの対応を義務付けている国もある。例えばUS、カナダ、イングランドシンガポールでは業務中でない医療者はIMEに対応するlegal dutyはない。一方で、オーストラリアやヨーロッパの一部の国では、医師がIMEに対応することを法律でrequireしている。現在の国際的取り決めにおいては、航空機内での医療行為について法的責任を問われるリスクはほとんどないし、そもそも航空医学のエキスパートのサポートも得られる(ので積極的に関わろう)。

 

Aircraft Diversion

●行先変更にはIME患者の病態以外にも考慮すべき事柄が多くある。最も近い空港の周辺に患者を収容できる医療施設がないかもしれない。飛行高度からすぐに着陸態勢に入っても着陸まで30分はかかるので、行先変更をしても意味のある時間短縮にならないこともある。患者自身が行先変更を望まないかもしれない。

●機長は上記ほか様々な要因を考慮し、最終的に行先変更を行うか決定する。

●行先変更にかかるコストは、乗客数や本来の行先によって変わるが、20000-725000ドルというデータがある。ある研究では、行先変更を要した病態は、心停止、産科救急、心疾患、脳卒中疑いであった。

●行先変更をしても着陸まで30分以上要する。心停止患者では、蘇生がfailした際、本来の目的地の近くに家族がいるなどの事情があれば、行先変更はデメリットが大きい。

 

Clinical Assessment and Management

General Approach to an IME

●クルーからの要請に従い、医療ボランティアは自分の専門を申告する。次に、症状の性状と持続時間、危険な症状の有無(胸痛、息切れ、麻痺など)、バイタル、意識、身体所見をチェックする。クルーは医療器具を準備、必要なら酸素を投与、患者の情報を集め、ground-based supportに状況を報告し、推奨があれば投薬や処置を行う。多くの航空会社は症状に応じて標準化された対応マニュアルがある(Figure 1, 2)。IMEで頻度の高い疾患をTable 4に記載する。

 

Considerations for Specific Conditions

●失神はIMEで最も重要である。Vasovagal、脱水、低血糖が多い。Vasovagalでは、通常臥位、下肢挙上により15-30分で改善する。徐脈、低血圧が参考になる。

●胸痛は心血管、肺疾患が多く、機内の設備で治療できる病態は少ない。行先変更が選択肢である。

●痙攣の既往、抗てんかん薬の常用は痙攣である可能性、再発の可能性を高くする。数秒の痙攣はnongeneralized 痙攣、vasomotor失神を示唆する。痙攣後、15-30分、反応が鈍くなることがある。改善しない痙攣、postictal stateから改善しない場合は行先変更がオプションとなる。

●航空機内での外傷が重傷であることは少ない。転倒や荷物がぶつかったことによる頭部外傷が問題となることがある。

●様々なpsychiatricな症状は、精神病よりは単純な不安が多い。不安は身体症状を引き起こすことがある。不安が閉鎖的な空間で問題となる(パニック)。Agitationのときに用いる薬剤はFAAが指定するキットには含まれない。

●アレルギー症状は頻度が高いが、重症のものは少ない。ピーナッツによる食物アレルギーが多い。動物やその他の環境因子も原因となる。ジフェンヒドラミン、アドレナリン、酸素を用いる。キットの中にはコルチコステロイドが含まれるものがある。

●産科的救急は困難が大きい。ほとんどの医療関係者は36週以降の妊婦の飛行機旅行を勧めていない。20週以前の出血、腹痛はふつうは行先変更や特別な措置を必要としない。20週以降は緊急に措置を行う必要が出てくる。

●心停止の場合は、蘇生処置を行う。胸骨圧迫(100-120/min)単独か、5-6秒に1回の呼吸を併用。AEDを用いる。静脈ルートを確保し、1mgアドレナリンを5分おき。リドカイン100mgVF、頻脈の際のオプション。20-30分蘇生処置を行い、循環が回復しない場合は中止を検討する。

 

Prevention of IMEs

●脱水予防の飲水、食事。持病がある場合は医者、看護師に相談する。例えば、糖尿病患者は血糖測定器、ブドウ糖補給、糖尿病薬を持参する。呼吸不全があれば、酸素を持参。航空機内の酸素の状況は地上でのPaO2PaCO2から推測する研究がある。酸素は十分量を持参する。機内での運動。

淋菌感染症

<参考>

性感染症ガイドライン2016

J-IDEO 2018;2:738 薬剤感受性検査の真意を紐解く

 

臨床病態:

・男性:尿道炎、精巣上体炎

・女性:子宮頚管炎、尿道炎、卵管炎、骨盤内炎症性疾患

・菌血症、播種性感染症(関節炎、膿疱)

・性行動の多様化により、咽頭感染(性器感染症患者の10-30%)、直腸感染、結膜炎もみられる

尿道炎、結膜炎は症状強いが、子宮頚管炎では無症状も多い。

・治療にあたっては抗菌薬の移行性が重要。性器・咽頭の同時感染例では、性器の淋菌が消失しても咽頭の淋菌が残ることもある。

 

耐性が進んでいる:

・ペニシリナーゼ産生淋菌(PPNG)は少ない(%)

PBP変異株が90%以上で、ペニシリンおよびβラクタム阻害薬配合ペニシリンも効果期待できない。

・テトラサイクリン、ニューキノロン耐性(DNA gyraseのサブユニットGyrA、トポイソメラーゼVのサブユニットParCの変異)70-80%以上。

・経口セファロスポリンも耐性進んでいる。最も強いセフィキシム(CFIX:セフスパン)200mg/回・12回・3日間は効果ある一方、無効との報告あり。

・保険適応があって確実なのはセフトリアキソン(尿道炎などには1g単回)、スペクチノマイシン(SPCM:トロビシン)。ただし咽頭感染にはスペクチノマイシンの有効性低い。

・セフトリアキソン耐性株(MIC 2μg/mL)も報告出てきている。

・アジスロマイシンはCLSIのブレイクポイントが設定されていない。おおむね(90%以上)有効と考えられるが、MIC0.5mg/L以上(日本のサーベイランスで5%)で治療失敗例が出現、1mg/Lで約40%が失敗したとするデータあり。

・ほぼ染色体性の耐性。淋菌は形質転換としての遺伝子獲得能力が高い。

 

診断:

クラミジアとの混合感染に注意(男性尿道炎では20-30%)PCRでは同時に両菌種を同定可能。

PCRでは感受性はわからないので培養も。保険上、PCRと培養は同時に提出できない。

・男性淋菌感染症では、検体は初尿or尿道分泌物。

・女性性器感染では、子宮頚管擦過検体。下腹部痛、右季肋部痛には注意。

 

治療:

・経口抗菌薬のみで治療することは現状推奨されない。

・セフトリアキソン、スペクチノマイシン以外には、アジスロマイシン(ドライシロップ2g)尿道炎、子宮頚管炎に適応あり、アジスロマイシン静注が骨盤内炎症性疾患に保険適応あり。アジスロマイシンはおおむね(90%以上)有効と考えられるが、MIC0.5mg/L以上(日本のサーベイランスで5%)で治療失敗例が出現、1mg/Lで約40%が失敗したとするデータあり。

・ピペラシリン、メロペネムは抗菌力があるが、保険適応はない

 

レジメン:

尿道炎・子宮頚管炎

1st セフトリアキソン静注1g単回 ※咽頭感染の同時治療可能

2nd スペクチノマイシン筋注2g単回

 

精巣上体炎・PID

セフトリアキソン静注1g/回・11-2回・1-7日間

スペクチノマイシン2g筋注単回、3日後に両臀部に2gずつ4g

※投与期間は症例毎に異なる

 

咽頭感染

セフトリアキソン静注1g単回

※スペクチノマイシンは不適

※セフェム使用不可症例では感受性をみてジスロマック2gミノマイシンなど

 

播種性淋菌感染症

セフトリアキソン1g/回・11回・3-7日間

※投与期間のエビデンスが確立していない

 

結膜炎

スペクチノマイシン筋注2g単回

セフトリアキソン静注1g単回 ※保険適応なし

 

直腸感染

セフトリアキソン静注1g単回                                        

スペクチノマイシン2g筋注単回

 

治療効果判定:

現時点でセフトリアキソン・スペクチノマイシンは有効率が高く、投与後の検査は必ずしも行わなくてもよい。症状(排尿痛、分泌物)は淋菌が残っていても消失することがある。白血球数も減少しうる。治療判定を行う場合は、淋菌が検出されないことを確認するべき。女性性器感染症では不妊などの原因となるため、できれば前例でPCRをチェックする。

アルコール量の換算と適正量

<単位>

日本:1単位=アルコール20g=日本酒(15%)1合・ビール500mLに相当

NIAAA:1 drink=アルコール10g

National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism: NIAAA 

 

<量の換算>

アルコール量(g):量(mL)×度数(%)×アルコール比重(0.8)

 ビール(5%)500mL 500×0.05×0.8=20

 日本酒(15%)1合 180×0.15×0.8=21.6

 

<適正量と疾患概念>

・NIAAA

Alcohol Use Disorder (AUD)

社会的、職業的、健康的な害があるにも関わらず、アルコール摂取をコントロールできない状態。DSM5ではmildmoderatesevereに分類。

 

Binge Drinking

血中アルコール濃度(BAC)0.08g/dLとなるようなアルコール摂取のこと。アルコール摂取量および摂取に要した時間が関与する。

通常男性で5ドリンク、女性で4ドリンクを2時間以内で摂取すると達する。SAMHSAによると、この量を過去1ヶ月に1/1日あった場合をBinge drinkingとしている。

 

Heavy Alcohol Use

SAMHSA1ヶ月に5回以上binge drinkingがあった場合。

 

Drinking at Low Risk for Developing AUD

女性では13ドリンク以下、または週に7ドリンク以下。男性は14ドリンク以下、週に14ドリンク以下。NIAAAの調査ではこの範囲のアルコール摂取でAUDに達するのは100人中2人である。

 

厚生労働省

節度ある適度な飲酒:1日平均純アルコールで20g程度

多量飲酒者:1日平均純アルコールで60gを超える

アダリムマブについて

アダリムマブ・ヒュミラ

皮下注、自己注射可能

インフリキシマブがヒトマウスキメラ抗体に対し、アダリムマブは完全ヒト型

 

 

添付文書

適応:既存の治療で効果不十分な以下の疾患

関節リウマチ アバタセプトとは併用しない

乾癬(尋常性、関節症性、膿疱性) 皮疹が10%以上

強直性脊椎炎

多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎

腸管型ベーチェット病

クローン病

潰瘍性大腸炎

非感染性のぶどう膜炎ベーチェット病birdshot網脈絡膜炎、Vogt-小柳-原田)

 

禁忌:

重篤感染症

活動性結核

過敏症の既往

脱髄疾患(多発性硬化症など)

うっ血性心不全

 

慎重投与:

感染症

結核の既往感染

脱髄疾患が疑われる、または家族歴

重篤な血液疾患(汎血球減少、再生不良性貧血など)

間質性肺炎の既往

高齢者

小児

 

重要な基本的注意:

感染症の惹起

悪性リンパ腫などの悪性腫瘍が増える

結核

B型肝炎ウイルスキャリア

生ワクチンは摂取しないこと

脱髄疾患に注意

アナフィラキシー

新たな自己抗体。ループス様症候群の発言あり。

既存の乾癬の悪化、新規発現あり

サルコイドーシス悪化

本剤への抗体産生あり

 

併用注意:

メトトレキサー

 

INTENSIVIST 2010;2(1):169

・インフリキシマブ/アダリムマブvsプラセボを対象としたメタアナラシス:重症感染症のオッズ比2.0(1.3-3.1)NNH3-12ヶ月で59

・日本のインフリキシマブ市販後調査5000例。細菌性肺炎2.2%(PCP0.4%結核0.3%)。肺炎罹患時期の平均は投与回数2.7(1か月後)

帯状疱疹。インフリキシマブ/アダリムマブHR1.82

・ニューモシスチス肺炎は5000例中22例。欧米よりも高い傾向。STの予防投与は一律には推奨されていないが、適宜投与。

抗菌薬内服スイッチ

感染症治療で内服・スイッチは可能か?

 

サウスオーストラリアのガイドライン

IV to Oral Switch Clinical Guideline for adult patients: Can antibiotics S.T.O.P

Version No.: 1.1, Approcal date: 23 October 2017

South Australian expert Advisory Group on Antimicrobial Resistance (SAAGAR)

 

Background

・重症感染症を治療する際、感染巣における十分な抗菌薬濃度を確保するために静脈注射(IV)による治療が開始される。

・不必要に長期な抗菌薬使用は抗菌薬耐性の原因となる。

・長期の静脈注射は入院期間延長、看護、IVライン確保、薬剤準備、投与のための時間・コスト増大、ライン感染と関連する。

・静脈注射から内服への投与経路スイッチは、適切な患者においては非常に有用である。

・以下の感染症では特にスイッチを検討するべきである。

 ―肺炎

 ―皮膚軟部組織感染症

 ―尿路感染症

 ―複雑性でないグラム陰性菌菌血症

 ―膿瘍を伴わない腹腔内感染症

 

When to Switch

・スイッチを考慮する適切な時期は、静脈注射を2-4日行った頃である。この頃には起因菌や感染巣、治療への反応性をある程度評価できていることが多い。

・多くの研究が、このタイミングでのスイッチが治療効果や副作用に大きな影響を及ぼさないことを示している。

 

フローチャートを示す(STOP?の語呂合わせ)

・血液培養が陰性で、IV投与を開始後48時間以上経過した患者ではスイッチを考慮する。

 

 ―S Signs of clinical improvement? (Box 1)

・解熱している(>36℃かつ<38℃が48時間以上続いている)

CRPが低下傾向である

WBC >4000かつ<12000、または正常範囲に近づいている

・説明不能な頻脈、低血圧、呼吸不全がない。

 

 ―T Tolerating oral medicines? (Box 2)

  ・飲食禁止でない

  ・経口の食事または経管栄養が可能である。経管での投与の際には薬剤師に相談する。

  ・経口投与による薬剤吸収が期待できる(下痢・嘔吐・吸収不良・意識障害・嚥下障害など)

 

 ―O Oral option available? (Box 3)

・Box 3に抗菌薬の種類と用量のオプションを示す:アモキシシリン、アモキシシリン/クラブラン酸、セファレキシン、シプロフロキサシン、クリンダマイシン、フルクロキサシリン、メトロニダゾール、アジスロマイシン、リネゾリド、フルコナゾール、ST合剤

 

 ―P Possible to switch?

  ・一部の感染症は長期のIV投与が必要である。

   ―膿瘍

髄膜炎脳炎

―壊死性軟部組織感染症

―人工物の感染

黄色ブドウ球菌菌血症

―骨髄炎、化膿性関節炎

―感染性心内膜炎

 

 ―? Is antibiotic therapy still required?

  ・Yes → SWITCH

  ・No → STOP antibiotic

 

感染症専門家へのコンサルテーションを考慮する。

・スイッチの前には、培養結果を再確認することが重要である。

 

・抗菌薬選択の際には抗菌薬投与の原則(MINDME)に沿ったものとする。

 ―M    Microbiology guides therapy wherever possible

(培養検査を行う)

 ―I      Indications should be evidenced based

(エビデンスを確認する)

 ―N    Narrowest spectrum therapy required

(なるべく狭域に)

 ―D    Dosage individualized to the patient and appropriate to the site and type of infection

(個々の患者毎の投与量を、また感染部位に応じた投与量を検討する)

 ―M    Minimise duration of therapy

(投与期間は可能な限り短く)

 ―E     Ensure oral therapy is used when clinically appropriate

(経口投与も考慮する)

 

 

その他論文 アブストラクト レビュー 

肺炎

Early switch to oral treatment in patients with moderate to severe community-acquired pneumonia: a meta-analysis. Drugs. 2008;68(17):2469-81.

6つのRCT、1219患者のメタアナラシス。ITT解析で早期の経口スイッチをした群と静脈注射のみで治療した群で治療成功に差はなかった(OR 0.76; 95% CI 0.36, 1.59)。死亡(OR 0.92; 0.61, 1.39)・肺炎再発(OR 1.81; 0.70, 4.72)。入院期間は短く(weight mean difference -3.34; -4.42, -2.25)、副作用もすくなかった(OR 0.65; 0.48, 0.89)。

 

尿路感染症

Modes of administration of antibiotics for symptomatic severe urinary tract infections. Cochrane Database Syst Rev. 2007 Oct 17;(4):CD003237.

15のRCT、1743患者。経口vs非経口(1研究)、経口vsスイッチ(5研究)、スイッチvs非経口(6研究)、1日1回非経口からのスイッチvs経口(1研究)、1日1回非経口からのスイッチvsスイッチ(3研究)。いくつかの短期・長期アウトカムが設定されていたが、pooled outcomesでは有意差がみられなかった。各研究の希望は大きくなく、メタアナラシスを行うようなアウトカムはなかった。

 

憩室炎

Prospective randomized clinical trial assessing the efficacy of a short course of intravenously administered amoxicillin plus clavulanic acid followed by oral antibiotic in patients with uncomplicated acute diverticulitis.  Int J Colorectal Dis. 2010 Nov;25(11):1363-70.

非複雑性の憩室炎で内服可能になったのちすぐにAMPC/CVA内服を開始する群(25人)と7日間のAMPC/CVA注射を行った患者で、failure of treatmentを比較。予定日に退院できない、救急外来受診、再入院で定義。有意差なし。1244ユーロ/患者の節約。

 

穿孔した虫垂炎小児

A complete course of intravenous antibiotics vs a combination of intravenous and oral antibiotics for perforated appendicitis in children: a prospective, randomized trial. J Pediatr Surg. 2010 Jun;45(6):1198-202.

穿孔している虫垂炎の小児120人をランダムに、CTRX+MNZ最短5日間静注する群と、食事開始したのちすぐにAMPC/CVAを投与した群に割り付け。術後膿瘍の有意差なし。

 

特発性細菌性腹膜炎

Switch therapy with ciprofloxacin vs. intravenous ceftazidime in the treatment of spontaneous bacterial peritonitis in patients with cirrhosis: similar efficacy at lower cost. Aliment Pharmacol Ther. 2006 Jan 1;23(1):75-84.

116人の特発性細菌性腹膜炎の肝硬変患者をシプロフロキサシンへのスイッチ(61人)とセフタジジム静注(55人)に割り付け。改善が得られたのはそれぞれ80%、84%で有意差なし。スイッチ群で早く退院が可能であった。

 

発熱性好中球減少症

Monotherapy with intravenous followed by oral high-dose ciprofloxacin versus combination therapy with ceftazidime plus amikacin as initial empiric therapy for granulocytopenic patients with fever. Antimicrob Agents Chemother. 2000 Dec;44(12):3264-71.

シプロフロキサシン静注からスイッチ118人とセフタジジム+アミカシン静注のみ113人で、治療効果を比較。48%vs49%、有意差なし。

 

蜂窩織炎

Oral versus parenteral antimicrobials for the treatment of cellulitis: a randomized non-inferiority trial. J Antimicrob Chemother. 2015 Feb;70(2):581-6.

24人を内服セファレキシン、23人を注射セファゾリンで加療。注射群は改善したのち内服へ変更する。プライマリアウトカム(days until no advancement of the area of cellulitis)についてセファレキシンが非劣性であった。セカンダリアウトカム(fail)は注射群で5人、内服群で1人で有意差はなかった。