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医師の自学自習のためのブログ

抗菌薬内服スイッチ

感染症治療で内服・スイッチは可能か?

 

サウスオーストラリアのガイドライン

IV to Oral Switch Clinical Guideline for adult patients: Can antibiotics S.T.O.P

Version No.: 1.1, Approcal date: 23 October 2017

South Australian expert Advisory Group on Antimicrobial Resistance (SAAGAR)

 

Background

・重症感染症を治療する際、感染巣における十分な抗菌薬濃度を確保するために静脈注射(IV)による治療が開始される。

・不必要に長期な抗菌薬使用は抗菌薬耐性の原因となる。

・長期の静脈注射は入院期間延長、看護、IVライン確保、薬剤準備、投与のための時間・コスト増大、ライン感染と関連する。

・静脈注射から内服への投与経路スイッチは、適切な患者においては非常に有用である。

・以下の感染症では特にスイッチを検討するべきである。

 ―肺炎

 ―皮膚軟部組織感染症

 ―尿路感染症

 ―複雑性でないグラム陰性菌菌血症

 ―膿瘍を伴わない腹腔内感染症

 

When to Switch

・スイッチを考慮する適切な時期は、静脈注射を2-4日行った頃である。この頃には起因菌や感染巣、治療への反応性をある程度評価できていることが多い。

・多くの研究が、このタイミングでのスイッチが治療効果や副作用に大きな影響を及ぼさないことを示している。

 

フローチャートを示す(STOP?の語呂合わせ)

・血液培養が陰性で、IV投与を開始後48時間以上経過した患者ではスイッチを考慮する。

 

 ―S Signs of clinical improvement? (Box 1)

・解熱している(>36℃かつ<38℃が48時間以上続いている)

CRPが低下傾向である

WBC >4000かつ<12000、または正常範囲に近づいている

・説明不能な頻脈、低血圧、呼吸不全がない。

 

 ―T Tolerating oral medicines? (Box 2)

  ・飲食禁止でない

  ・経口の食事または経管栄養が可能である。経管での投与の際には薬剤師に相談する。

  ・経口投与による薬剤吸収が期待できる(下痢・嘔吐・吸収不良・意識障害・嚥下障害など)

 

 ―O Oral option available? (Box 3)

・Box 3に抗菌薬の種類と用量のオプションを示す:アモキシシリン、アモキシシリン/クラブラン酸、セファレキシン、シプロフロキサシン、クリンダマイシン、フルクロキサシリン、メトロニダゾール、アジスロマイシン、リネゾリド、フルコナゾール、ST合剤

 

 ―P Possible to switch?

  ・一部の感染症は長期のIV投与が必要である。

   ―膿瘍

髄膜炎脳炎

―壊死性軟部組織感染症

―人工物の感染

黄色ブドウ球菌菌血症

―骨髄炎、化膿性関節炎

―感染性心内膜炎

 

 ―? Is antibiotic therapy still required?

  ・Yes → SWITCH

  ・No → STOP antibiotic

 

感染症専門家へのコンサルテーションを考慮する。

・スイッチの前には、培養結果を再確認することが重要である。

 

・抗菌薬選択の際には抗菌薬投与の原則(MINDME)に沿ったものとする。

 ―M    Microbiology guides therapy wherever possible

(培養検査を行う)

 ―I      Indications should be evidenced based

(エビデンスを確認する)

 ―N    Narrowest spectrum therapy required

(なるべく狭域に)

 ―D    Dosage individualized to the patient and appropriate to the site and type of infection

(個々の患者毎の投与量を、また感染部位に応じた投与量を検討する)

 ―M    Minimise duration of therapy

(投与期間は可能な限り短く)

 ―E     Ensure oral therapy is used when clinically appropriate

(経口投与も考慮する)

 

 

その他論文 アブストラクト レビュー 

肺炎

Early switch to oral treatment in patients with moderate to severe community-acquired pneumonia: a meta-analysis. Drugs. 2008;68(17):2469-81.

6つのRCT、1219患者のメタアナラシス。ITT解析で早期の経口スイッチをした群と静脈注射のみで治療した群で治療成功に差はなかった(OR 0.76; 95% CI 0.36, 1.59)。死亡(OR 0.92; 0.61, 1.39)・肺炎再発(OR 1.81; 0.70, 4.72)。入院期間は短く(weight mean difference -3.34; -4.42, -2.25)、副作用もすくなかった(OR 0.65; 0.48, 0.89)。

 

尿路感染症

Modes of administration of antibiotics for symptomatic severe urinary tract infections. Cochrane Database Syst Rev. 2007 Oct 17;(4):CD003237.

15のRCT、1743患者。経口vs非経口(1研究)、経口vsスイッチ(5研究)、スイッチvs非経口(6研究)、1日1回非経口からのスイッチvs経口(1研究)、1日1回非経口からのスイッチvsスイッチ(3研究)。いくつかの短期・長期アウトカムが設定されていたが、pooled outcomesでは有意差がみられなかった。各研究の希望は大きくなく、メタアナラシスを行うようなアウトカムはなかった。

 

憩室炎

Prospective randomized clinical trial assessing the efficacy of a short course of intravenously administered amoxicillin plus clavulanic acid followed by oral antibiotic in patients with uncomplicated acute diverticulitis.  Int J Colorectal Dis. 2010 Nov;25(11):1363-70.

非複雑性の憩室炎で内服可能になったのちすぐにAMPC/CVA内服を開始する群(25人)と7日間のAMPC/CVA注射を行った患者で、failure of treatmentを比較。予定日に退院できない、救急外来受診、再入院で定義。有意差なし。1244ユーロ/患者の節約。

 

穿孔した虫垂炎小児

A complete course of intravenous antibiotics vs a combination of intravenous and oral antibiotics for perforated appendicitis in children: a prospective, randomized trial. J Pediatr Surg. 2010 Jun;45(6):1198-202.

穿孔している虫垂炎の小児120人をランダムに、CTRX+MNZ最短5日間静注する群と、食事開始したのちすぐにAMPC/CVAを投与した群に割り付け。術後膿瘍の有意差なし。

 

特発性細菌性腹膜炎

Switch therapy with ciprofloxacin vs. intravenous ceftazidime in the treatment of spontaneous bacterial peritonitis in patients with cirrhosis: similar efficacy at lower cost. Aliment Pharmacol Ther. 2006 Jan 1;23(1):75-84.

116人の特発性細菌性腹膜炎の肝硬変患者をシプロフロキサシンへのスイッチ(61人)とセフタジジム静注(55人)に割り付け。改善が得られたのはそれぞれ80%、84%で有意差なし。スイッチ群で早く退院が可能であった。

 

発熱性好中球減少症

Monotherapy with intravenous followed by oral high-dose ciprofloxacin versus combination therapy with ceftazidime plus amikacin as initial empiric therapy for granulocytopenic patients with fever. Antimicrob Agents Chemother. 2000 Dec;44(12):3264-71.

シプロフロキサシン静注からスイッチ118人とセフタジジム+アミカシン静注のみ113人で、治療効果を比較。48%vs49%、有意差なし。

 

蜂窩織炎

Oral versus parenteral antimicrobials for the treatment of cellulitis: a randomized non-inferiority trial. J Antimicrob Chemother. 2015 Feb;70(2):581-6.

24人を内服セファレキシン、23人を注射セファゾリンで加療。注射群は改善したのち内服へ変更する。プライマリアウトカム(days until no advancement of the area of cellulitis)についてセファレキシンが非劣性であった。セカンダリアウトカム(fail)は注射群で5人、内服群で1人で有意差はなかった。