IPF以外のfibrosing ILDでもニンテダニブは有効(原著)
IPF以外のfibrosing ILDでもニンテダニブは有効
(N Engl J Med 2019;381:1718-27)
INBUILD trial
★IPFではなさそうなILDでも「IPF」の診断名をつけてニンテダニブ(またはピルフェニドン)を投与することがある。
★これまでの試験と同様、52週のFVC低下をend pointとしてニンテダニブの有効性を示す。FVC低下はおよそ-80 mL vs -180 mL/52週。
背景
●ニンテダニブはチロシンキナーゼ阻害薬で、特発性肺線維症、全身性強皮症関連間質性肺疾患において、FVCの低下を和らげる効果が示されている。
●本研究では、progressive fibrosing interstitial lung diseases全般におけるニンテダニブの効果を検討する。
方法
●ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、phase 3、15ヶ国。2017年2月~2018年4月。
●18歳以上、physician-diagnosed fibrosing interstitial lung disease。IPFは極力排除。HRCTで肺全体の10%以上に線維化のみられる患者(central review)。詳細はAppendixで。
●悪化傾向のある間質性肺疾患が条件。スクリーニングの過去24ヶ月に、「FVCが相対量で10%の低下」または「5-10%の低下があり、症状or画像の悪化あり」または「FVC低下に関係なく、症状and画像の悪化」。ニンテダニブ・ピルフェニドンの使用はなし。
●登録時点で、FVCは予測値の45%以上、DLCOは予測値の30-80%。
●ニンテダニブ150 mg/日・1日2回かプラセボに割付。
●アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、リツキシマブ、シクロフォスファミド、20 mg以上の経口ステロイドで治療された患者は除外。
●Primary end pointは52週のFVCの低下。
結果
●663人がランダム化。ニンテダニブ群332人(うち314人が52週の治療完遂)、プラセボ群331人(うち311人が52週の治療完遂)。
●患者全体では、52週のFVC低下はニンテダニブ群では-80.8 mL、プラセボ群では-187.8 mL。差は107.0 mLで有意差あり(95%CI 65.4-148.5 mL)。
●UIP-likeパターン(患者全体の約6割)では、52週のFVC低下はニンテダニブ群では-82.9 mL、プラセボ群では-211.1 mL。差は128.2 mLで有意差あり(95%CI 70.8-185.6 mL)。
●下痢は最もコモンで、ニンテダニブ群で66.9%、プラセボ群では23.9%。ニンテダニブ群では肝障害も多くみられた。
結論
IPF以外のprogressive fibrosing interstitial lung diseasesでも、ニンテダニブ投与によってFVCの低下が和らぐ。
気管支喘息の治療(黒人)(原著)
黒人の小児で吸入ステロイド増量とLABAアドオンは同等
(N Engl J Med 2019;381:1227-39)
BARD trial
★黒人(祖父母の1人以上が黒人)で検討。
★吸入ステロイド増量、LABAアドオンなどいくつかの治療法を1対1で比較するやり方で検討。
★小児では吸入ステロイド増量とLABAアドオンが引き分け。
★12歳以上ではLABAアドオンのほうがよさそう。
背景
●黒人は白人よりも喘息のmorbidityが高いが、喘息治療に関する臨床試験の参加者としては、白人よりも割合が低い。
●これまでの研究では、コントロール不良の喘息では、吸入ステロイドの量を増やすよりも、LABAを併用したほうがよいとするデータが示されているが、人種別のデータは不足している。
方法
●ランダム化、二重盲検の試験2本。1つは小児(5-11歳)、もう1つは青年~成人(12歳以上)。
●参加者は少なくとも祖父母の1人以上が黒人で、吸入ステロイドまたは吸入ステロイド/LABAでコントロールが不良の患者。High-doseステロイド/LABAでコントロール不良の患者は除外。
●Run-in period 2-10週の間にコントロール不良が確認されたらランダム化可能。
小児では、フルチカゾンの初期量は50 µg/回・1日2回
・フルチカゾン100 µg/回・1日2回
・フルチカゾン100 µg+サルメテロール50 µg/回・1日2回
・フルチカゾン250 µg/回・1日2回
・フルチカゾン250 µg+サルメテロール50 µg/回・1日2回
青年~成人では、フルチカゾンの初期量は100 µg・1日2回。
・フルチカゾン100 µg+サルメテロール50 µg/回・1日2回
・フルチカゾン250 µg/回・1日2回
・フルチカゾン250 µg+サルメテロール50 µg/回・1日2回
・フルチカゾン500 µg/回・1日2回
●それぞれの治療を1対1で比較。まず「喘息増悪がない治療が優れている」とする。増悪がなければ「コントロールのよかった日数」を比較。それも同じであれば「14週時点での予測FEV1との比(5%刻み)」を比較。
結果
●小児では、
・FP250 vs FP100/SM50は差なし(46% vs 46%, p=0.99)
●青年~成人では、
・FP250 vs FP100/SM50は差あり(28% vs 49%, p=0.003)
・FP500 vs FP250/SM50は差あり(31% vs 49%, p=0.02)
●アフリカ系祖先、治療開始前のバイオマーカーでは、治療反応の予測できず。
結論
●喘息コントロール不良な黒人の小児では、「吸入ステロイドを増やす」と「LABAのアドオン」のどちらが優れているか直接比較すると、ちょうど半々という結果であった。
人工呼吸器関連肺炎の抗菌薬予防投与(原著)
人工呼吸器関連肺炎をアモキシシリン/クラブラン酸で予防する
(N Engl J Med 2019;381:1831-42)
ANTHARTIC trial
★初回ショック適応/病院外心停止/低体温療法の患者に、心停止6時間以内にアモキシシリン1000mg/クラブラン酸200mg/回・1日3回・2日間 or プラセボを投与。
★primary end point:7日以内の人工呼吸器関連肺炎(independent committeeが判断)は、19% vs 34%で有意に減少。
背景
●ショック適応の不整脈がみられた病院外心停止からの蘇生後に、低体温療法を実施された患者に対して、短期間抗菌薬を投与することで人工呼吸器関連肺炎を減少させることができるか?
方法
●19歳以上。初回ショック適応の不整脈で病院外心停止した患者で、ICU入室し人工呼吸を装着され、低体温療法(32-34℃)が実施された患者。
●除外:すでに抗菌薬が投与されていた、多剤耐性菌のコロナイゼーション、moribund statusなど。
●心停止後6時間以内に抗菌薬またはプラセボを開始。抗菌薬はアモキシシリン1000mg/クラブラン酸200mg/回が1日3回・2日間、静注。プラセボでは生食を投与。
●低体温療法は32-34℃を24-36時間実施。
●Primary end pointは入院後7日以内発症の人工呼吸器関連肺炎(early)。人工呼吸器関連肺炎はindependent adjudication committeeが判断した。
結果
●198人がランダム化。194人が解析対象。抗菌薬群99人、プラセボ群95人。
●60件の人工呼吸器関連肺炎が診断され、51件がearly例だった。
●Primary end pointは抗菌薬群では19件(19%)、プラセボ群では32件(34%)、HR 0.53、95%CI 0.31-0.92、p=0.03。
●Lateの人工呼吸器関連肺炎、呼吸器freeの日数、ICU滞在日数、28日死亡率には差なし。
●7日目時点で多剤耐性菌は認められなかった。
結論
●ショック適応の不整脈がみられた病院外心停止後に低体温療法を実施された患者に、2日間のアモキシシリン/クラブラン酸を投与することで、プラセボと比較し、7日以内の人工呼吸器関連肺炎を減少させることができた。
デングワクチンTAK-003の有効性と安全性(原著)
TAK-003の有効性は80%
(N Engl J Med 2019;381:2009-19)
TIDES trial 中間報告
★すでに承認されているDengvaxiaはdengue seronegative患者には使いにくい。
★本試験では4-16歳の小児でTAK-003(vs プラセボ)の有効性と安全性を評価。
★per-protocolで80%のefficacyあり。dengue seronegative患者でも大丈夫そう。
背景
●全世界で100ヶ国以上がdengue-endemicであり、年間3億9000万の症例が発生している。
●デングウイルスには4つのセロタイプ(DENV-1, -2, -3, -4)がある。一度デングに感染すると、同一のセロタイプのウイルスには感染しにくくなるが、異なるセロタイプのウイルスによる感染では重症化してしまう。
●黄熱ウイルスに由来するtetravalentのデングワクチン:CYD-TDV(Dengvaxia)は、アジア、ラテンアメリカの小児において56-61%の有効性を示したとのことで数ヶ国で承認されているが、dengue seronegativeの患者では逆にsevere dengueや入院が増えるとされ、デングの既往がある人にのみ接種されている。
●新規のtetravalentのワクチン:TAK-003(Takeda)は弱毒生DENV-2由来のワクチンである。TAK-003は現在大規模phase 3、ランダム化比較試験(TIDES)が進行中である。本論文はこの試験の中間報告である。
方法
●4-16歳をランダムに2:1に分け、ワクチンかプラセボを3ヶ月あけて2回投与。登録者は発熱エピソードの際に、デングとそのセロタイプについてrtPCRで検査される。
●Primary end pointはvirologically confirmed dengue from 30 days after second dose to end of part 1 of trial。
結果
●20071人の参加者が、少なくとも1回のワクチンまたはプラセボを投与された(safety population)。
●19021人(94.8%)が2回の投与を受けた(per-protocol)。
●Primary end point(per-protocol)は80.2%(95%CI 73.3-85.3、ワクチン群では61件/12700人(0.5%)、プラセボ群では149件/6316人(2.4%))。入院に関するefficacyは95.4%(95%CI 88.4-98.2、ワクチン群では5件、プラセボ群では53件)。
●safety populationでは、vaccine efficacyは80.9%(95%CI 75.2-85.3、ワクチン群では78件/13380人(0.6%、0.5/100人年)、プラセボ群では199件/6687人(3.0%、2.5/100人年))
●per-protocolで、ワクチン投与前にseronegativeの患者だけについて検討すると、vaccine efficacyは74.9%(95%CI 57.0-85.4、ワクチン群では20件/3531人(0.6%)、プラセボ群では39件/1726人(2.3%))。
●serious adverse eventsは差なし(ワクチン群3.1%、プラセボ群3.8%)
結論
●TAK-003は安全かつ有効である。
肺塞栓の除外:WellsスコアとD-dimer(原著)
WellsスコアとD-dimerによる肺塞栓の除外
(N Engl J Med 2019;381:2125-34)
PEGeD trial
★これまでの定説は「WellsスコアでlowかつD-dimer<500 ng/mLでは肺塞栓が除外できる」。
★本研究によって「WellsスコアでlowかつD-dimer<1000」「WellsスコアでmoderateかつD-dimer<500」でも肺塞栓が除外できそうなことがわかった。
★肺塞栓疑いのWellsスコア/D-dimerで、low/<1000、moderate/<500では画像検査せず、low/≧1000、moderate/≧500、highでは画像検査施行。90日フォロー。
low:<1000(1285人)は肺塞栓なし、≧1000(467人)は肺塞栓5%
moderate:≦500(40人)は肺塞栓なし、≧500(178人)は肺塞栓20%
high(47人)は肺塞栓40%
背景
●clinical pretest probability(C-PTP)では、Wells scoreなどのclinical prediction rulesを用いて、肺塞栓の確率をlow、moderate、highに分類する。
●D-dimerは架橋フィブリンの分解産物で、D-dimer値は肺塞栓の確率と関連する。
●C-PTPがlowかつD-dimer<500 ng/mLであれば肺塞栓を除外できる、というアイデアは定説になっているが、このような患者はPEを疑われた患者の30%に過ぎない。残りの患者の一部は不必要なchest imagingを受けるはめになる。
●preliminaryな研究では、C-PTPがlowであればD-dimer<1000 ng/mL、C-PTPがmoderateであればD-dimer<500 ng/mLで除外できるとした。本研究(PEGeD study)では、このアイデアについて前向きに検討した。
方法
●救急外来またはクリニックを受診した外来患者(1人だけ入院患者あり)で、肺塞栓がsuggestiveな患者を対象とする。
●除外:18歳未満、24時間以内にfull-doseの抗凝固療法を受けている、21日以内にmajor surgeryを受けている、C-PTPが評価される前にD-dimerが把握されていた、プロトコルに沿わずにchest imagingが施行された、など。
●C-PTPがlowの患者ではD-dimer<1000、C-PTPがmoderateの患者ではD-dimer<500の場合に、画像検査などの検査を行わない。
●C-PTPがlowでD-dimer≧1000、C-PTPがmoderateでD-dimer≧500、C-PTPがhighでは全員chest imaging(ほぼCTアンギオ)を施行する。
●WellsスコアでC-PTPを評価。0-4.0がlow、4.5-6.0がmoderate、6.5-12.5でhigh。
●90日以内の、肺塞栓、深部静脈血栓を評価。電話、外来などでフォローした。
結果
●2017人が何らかのPEを疑う所見・症状を認め、enrollされた。Initial testingでPEが判明したのは7.4%。
●C-PTP low:1752人
D-dimer<1000:1285人→90日以内のVTE判明なし
(D-dimer 500-999:315→90日以内のVTE判明なし)
D-dimer≧1000:467人→Chest imaging→PE 87人(5%)
→90日以内のVTE判明2人(1人は新規、1人はinitial testingでPE判明)
●C-PTP moderate:218人
D-dimer<500:40人→90日以内のVTE判明なし
D-dimer≧500:178人→Chest imaging→PE 43人(20%)
→90日以内の新規のVTE判明なし
●C-PTP high:47人→Chest imaging→PE 19人(40%)
→90日以内の新規のVTE判明なし
●C-PTP lowかつD-dimer<1000、C-PTP moderateかつD-dimer<500の患者で90日以内にVTEと判明した症例は0人(95%CI 0.00~0.29%)。
●このうちC-PTP lowかつD-dimer 500-999であった315人中で計算すると95% CI 0.00~1.20%。
●今回、initial testingとしてのchest imagingは34.3%の患者に施行された。仮に従来のアイデア(C-PTPがlowかつD-dimer<500 ng/mLのときのみ除外)に依ったとすると、chest imagingは51.9%に行われていたことになる(差 -17.6%、95%CI -19.2~-15.9)
結論
●C-PTP lowかつD-dimer<1000の患者は、肺塞栓のリスクが低くchest imagingを避けられる。
●特に、C-PTP lowかつD-dimer 500-999の患者でchest imagingが避けられる点が大きい。