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肺塞栓の除外:WellsスコアとD-dimer(原著)

WellsスコアとD-dimerによる肺塞栓の除外

(N Engl J Med 2019;381:2125-34)

PEGeD trial

 

★これまでの定説は「WellsスコアでlowかつD-dimer<500 ng/mLでは肺塞栓が除外できる」。

★本研究によって「WellsスコアでlowかつD-dimer<1000」「WellsスコアでmoderateかつD-dimer<500」でも肺塞栓が除外できそうなことがわかった。

★肺塞栓疑いのWellsスコア/D-dimerで、low/<1000、moderate/<500では画像検査せず、low/≧1000、moderate/≧500、highでは画像検査施行。90日フォロー。

 low:<1000(1285人)は肺塞栓なし、≧1000(467人)は肺塞栓5%

 moderate:≦500(40人)は肺塞栓なし、≧500(178人)は肺塞栓20%

 high(47人)は肺塞栓40%

 


背景

●clinical pretest probability(C-PTP)では、Wells scoreなどのclinical prediction rulesを用いて、肺塞栓の確率をlow、moderate、highに分類する。

●D-dimerは架橋フィブリンの分解産物で、D-dimer値は肺塞栓の確率と関連する。

●C-PTPがlowかつD-dimer<500 ng/mLであれば肺塞栓を除外できる、というアイデアは定説になっているが、このような患者はPEを疑われた患者の30%に過ぎない。残りの患者の一部は不必要なchest imagingを受けるはめになる。

●preliminaryな研究では、C-PTPがlowであればD-dimer<1000 ng/mL、C-PTPがmoderateであればD-dimer<500 ng/mLで除外できるとした。本研究(PEGeD study)では、このアイデアについて前向きに検討した。

 

方法

●救急外来またはクリニックを受診した外来患者(1人だけ入院患者あり)で、肺塞栓がsuggestiveな患者を対象とする。

●除外:18歳未満、24時間以内にfull-doseの抗凝固療法を受けている、21日以内にmajor surgeryを受けている、C-PTPが評価される前にD-dimerが把握されていた、プロトコルに沿わずにchest imagingが施行された、など。

●C-PTPがlowの患者ではD-dimer<1000、C-PTPがmoderateの患者ではD-dimer<500の場合に、画像検査などの検査を行わない。

●C-PTPがlowでD-dimer≧1000、C-PTPがmoderateでD-dimer≧500、C-PTPがhighでは全員chest imaging(ほぼCTアンギオ)を施行する。

●WellsスコアでC-PTPを評価。0-4.0がlow、4.5-6.0がmoderate、6.5-12.5でhigh。

●90日以内の、肺塞栓、深部静脈血栓を評価。電話、外来などでフォローした。

 

結果

●2017人が何らかのPEを疑う所見・症状を認め、enrollされた。Initial testingでPEが判明したのは7.4%。

●C-PTP low:1752人

 D-dimer<1000:1285人→90日以内のVTE判明なし

 (D-dimer 500-999:315→90日以内のVTE判明なし)

 D-dimer≧1000:467人→Chest imaging→PE 87人(5%)

   →90日以内のVTE判明2人(1人は新規、1人はinitial testingでPE判明)

●C-PTP moderate:218

 D-dimer<500:40人→90日以内のVTE判明なし

 D-dimer≧500:178人→Chest imaging→PE 43人(20%)

   →90日以内の新規のVTE判明なし

●C-PTP high:47人→Chest imaging→PE 19人(40%)

   →90日以内の新規のVTE判明なし

 

●C-PTP lowかつD-dimer<1000、C-PTP moderateかつD-dimer<500の患者で90日以内にVTEと判明した症例は0人(95%CI 0.00~0.29%)。

●このうちC-PTP lowかつD-dimer 500-999であった315人中で計算すると95% CI 0.00~1.20%。

●今回、initial testingとしてのchest imagingは34.3%の患者に施行された。仮に従来のアイデア(C-PTPがlowかつD-dimer<500 ng/mLのときのみ除外)に依ったとすると、chest imagingは51.9%に行われていたことになる(差 -17.6%、95%CI -19.2~-15.9)

 

結論

●C-PTP lowかつD-dimer<1000の患者は、肺塞栓のリスクが低くchest imagingを避けられる。

●特に、C-PTP lowかつD-dimer 500-999の患者でchest imagingが避けられる点が大きい。