脊椎カリエスの特徴・診断
・慢性の炎症により骨・歯牙が腐った状態をカリエス(独語Karies、英語caries)と呼ぶ。虫歯もカリエス。
・日本では伝統的に結核性の骨病変を指してカリエスと呼んでおり、かつては脊椎カリエスのほか、肋骨のカリエス、骨盤のカリエスなどよく見られたはずだが、21世紀ともなるとレアな疾患である。
・骨病変の中で脊椎炎は最も頻度が高く、単にカリエスと言えば結核性脊椎炎のこと。
Spinal tuberculosis
Bone Joint J 2018;100-B:425
・脊椎結核は紀元前3300年のエジプトのミイラでも見られ、古くから存在していたことが確認されている。
・1779年、Percival Pottが脊椎結核に伴う対麻痺paraplegiaと脊柱後弯kyphosisの症例を記述したため、Pott’s diseaseと呼ばれることがある。
Epidemiology
- 脊椎結核はa diseases of povertyとも呼ばれ、途上国、特に貧困層の若年成人や小児によくみられる。HIV合併も重要な因子である。
- 結核の10%に肺外結核が見られるが、このうち半分が筋骨格系の結核である。脊椎は筋骨格系の中で最も侵されやすく、結核全体の1-2%に合併するとするデータがある。
- 前脊髄動脈・後脊髄動脈から流れ込む血流が密な血管網を形成し、各椎骨の軟骨下組織に還流する。血流がリッチなため脊椎には血行播種が起きやすい。
- discを保ったまま椎体が破壊されることで後弯を呈しやすい。後弯に加えて、硬膜外の膿および椎間板と骨のdebrisによって脊髄が圧迫されることで神経症状を呈する。
- up to dateより:椎体・椎間板炎は椎骨の前側の椎間関節から発症してくる。前縦靭帯の裏から椎骨に炎症が波及する。隣り合った椎骨が炎症を起こすと、間の椎間板にも炎症が及ぶ。結核では、化膿性感染よりもこの経過が遅い。
- 病勢がコントロールできても、後弯の進展によるlate-onsetの対麻痺をきたすことがある。後弯を早期から認識・是正しなければならない。
Clinical features
- 進行は緩徐で4-11ヶ月程度かけて悪化する。医療アクセスの悪い途上国などでは治療の遅れが起きやすい。
- 体重減少、倦怠感、発熱、盗汗は頻度が高い。局所の疼痛は軽いものから激烈なものまで様々である。
- 後弯が激しくなるとgibbus(亀背、突背、傴僂)を呈する。
- 傍脊柱膿瘍が顕著な場合もある。
- 頸部の脊椎結核では嗄声、呼吸不全、嚥下障害などを呈するかもしれない。
- 神経障害はcommonで、23-76%の症例で呈するというデータがある。頸椎・胸椎の病変では起きやすい。腰椎でも起きるが、腰椎では痛みが前面に出ることが多い。
Imaging
- 傍脊柱膿瘍が最も早期からみられる画像所見である。腰椎では腸腰筋膿瘍があるかもしれない。椎間板の高さ・形状が保たれやすい点が化膿性感染との主な違いである。
- 侵された椎骨の数は、将来的な後弯の程度と関連するが、過小評価されやすい。
- 石灰化は結核らしい所見。
- MRIは骨・神経病変を描出しやすい。全脊椎MRIではnon-contiguous(連続していない)病変を検出できる。16%の患者では非連続性病変が存在する。
- PETは病変の検索、経過観察、生検部位の決定などに有用かもしれない。
Diagnosis
- 血沈は平均70 s
- WBCはusually normal。リンパ球増多が多い。
- 膿や組織の採取が重要。
- 膿の抗酸菌塗抹の感度は38%。
- 組織における肉芽種、巨細胞、抗酸菌の所見は診断につながるが、サルコイドーシスや猫ひっかき病で似た所見を呈することがある。組織診の感度は60%程度で可能。
- PCRは感度80-90%というデータがある。
以下省略