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医師の自学自習のためのブログ

黄色ブドウ球菌菌血症

まとめ

黄色ブドウ球菌菌血症の概要

INTENSIVIST 2019;11:3 「重症ブドウ球菌菌血症に対する治療」

Hospitalist 2013;1:241 「フォーカス不明の菌血症・敗血症」

AHA 感染性心内膜炎ガイドライン2015

循環器学会 感染性心内膜炎ガイドライン

 

黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)の90日死亡率は15-50%Clin Microbiol Rev 2015;28:603)。

MRSAではさらに死亡率は上がる。

 

【検査】

SABは血培1セットで感度93%2セットで97%3セットで100%J Clin Microbiol 2007;45:3546)。

●血液培養から検出された場合には1セットでも原則コンタミネーションとは判断しない。コンタミは起きうるが、コンタミと判断して後に真の菌血症と判明したときの不利益が大きすぎるため。

persistent bacteremia:具体的な定義はない。7日を超えて持続するものなど。治療後おおむね72時間を超えたものは危ないと考えてよいだろう→播種病変を積極的に検索する。

 

【治療―抗菌薬の選択】

MSSA菌血症をVCM単剤で治療すると、βラクタム(MSSAペニシリンCEZなど)で治療した場合よりもアウトカムが悪い。初期治療ではCEZ+VCMを考慮。

CID2015;61:361:レトロの観察研究でMSSAMSSAペニシリンまたはセファゾリンで治療した場合、VCM単剤で治療した場合よりも死亡のHR 0.5795%CI 0.46-0.71)とよかった

 

【治療―期間】

●ふつうは4週間以上。

●2週間が許容されるのは、明らかな侵入門戸がコントロールされている、血管内異物は速やかに除去されている、播種病変がない、治療反応性がよい、免疫不全がないなどの場合。

CID 1992;14:75:55人のカテ関連SABを観察し、IEまたは骨髄炎を発症した9人を除く46人を3ヶ月追跡したところ、静注抗菌薬を10日未満だけ投与された18人中3人が再発、10日以上投与された28人では再発はなかった。3日以上菌血症・発熱が続く場合はcomplicatedとしての対応を要する。10日未満の治療は勧められないが、14日を超える治療は不要かもしれない。

 

●心内膜炎では、

・循環器学会ガイドライン:自己弁4-6週、人工弁6-8週(8週を目安と記載あり)

AHAガイドライン6週(uncomplicated自己弁)、6週以上(complicated自己弁、人工弁)

●骨・関節では、

・一般的に骨髄炎では4-6週とされるがエビデンスは乏しい(NEJM1997;336:999)。

IDSA椎骨骨髄炎ガイドラインには6週間:Lancet 2015;385:875において6週が12週に対して非劣性であった。

IDSA MRSAガイドラインにはMRSA骨髄炎では8週以上。エキスパートオピニオンとして1-3ヶ月、あるいはさらに長期の抑制療法。特にデブリできなかったときなどの記載あり。関節炎では3-4週。

カテーテル関連では、

 ・黄色ブドウ球菌での明確な治療期間は定説がない。播種病変を考慮すれば4-6週。カテはすべて抜去。条件によっては2週間でもよいかもしれない(IEがない、人工弁がない、免疫不全がない、72時間の治療で菌血症が消失)。

 

 

【フォーカス】

●心内膜炎

●脊椎(骨髄炎、傍脊柱膿瘍)

腸腰筋膿瘍

●関節炎

髄膜炎、脳膿瘍、感染性脳動脈瘤

●感染性血栓

●その他深部膿瘍

 

 

感染性心内膜炎における補足

黄色ブドウ球菌によるIEは増加傾向でMRSAは全体の7.5%。医療関連、院内(透析、血管内カテーテル、手術など)、人工物、高齢者、IV drug user、慢性皮膚炎、ピアシングなど(循環器学会ガイドライン

黄色ブドウ球菌IEの死亡率は20%以上。人工弁では47.5%など。

●経胸壁心エコーは積極的に行う。

SAB全例に経食道心エコーは難しいだろう。Clin Infect Dis 20122;53:1ではIEリスクをprolonged bacteremia >4 days、心植え込み物、血液透析患者、脊椎・脊髄感染症として2つのコホートを観察したところ、3ヶ月の観察期間でdocumented IEを発症した13/13人、39/40人でいずれかの項目が当てはまったと報告。

 

治療:

循環器学会ガイドライン

MSSA

CEZ2g q8hを第一選択とする。治療期間は血培陰性化後4-6週間。人工弁では8週を目安とする。

ペニシリンアレルギーではダプトマイシン(ホスホマイシンを4-6週併用)、バンコマイシン、テイコプラニン。

●自己弁ではβラクタム+GMは推奨しない。腎機能の観点から。

CEZは中枢神経移行がよくないためパニペネム・ベタミプロン(カルベニン)、MEPMVCMなど。

●人工弁ではβラクタム+GM+RFPを推奨する意見あり。GM2-3mg/kg11回・2週、RFP450-600mg/day・分1-26-8週。

 

MRSA

VCMまたはDAPが第一選択。治療期間は血培陰性化後4-6週間。人工弁では8週を目安とする。

VCMはローディングとして30mg/kg15mg/kg 12時間毎 目標トラフ15-20µg/mL

DAP8-10mg/kgで開始する。≧10mg/kgを推奨する意見もある。

DAPにβラクタム・アミノグリコシドRFP、ホスホマイシン、STの合剤が有用とする検討あり。人工弁IEでは推奨される。カルベニン2-3g/daySBT/ABPC9g/dayABPC6g/dayGM2-3mg/kg/dayRFP450-600mg/day、ホスホマイシン6g/dayST5-8mg/dayなど。

VCMGMの併用は自己弁では推奨されない。

●人工弁ではVCM+GM2+RFP6週を推奨する。量は上記MSSAと同様。RFP600-1200mg/dayとする意見があるが、CNSにおける後ろ向き研究や整形外科領域の研究に基づくもの。

 

AHAガイドライン2015

自己弁

IDUの右心系IE

●略

non-IDUs

MSSA/MRSAの自己弁IEではGMshould not be used

MSSAで脳膿瘍がある場合はCEZでなくナフシリンがshould be used

MSSAMRSAかわかるまでVCMと抗MSSAβラクタムを併用する有用性はuncertain

MSSAによるuncomplicatedの左心系自己弁IEでは6週のナフシリンがrecommendedComplicatedではat least 6週がrecommendedComplicatedは例えば弁輪周囲膿瘍、敗血症性塞栓など。

MRSAではVCMが伝統的に使用されrecommendedDAPreasonable alternative。量は8mg/kg以上がよいという研究があるが明確にされていない。

 

βラクタムにintolerant

ペニシリンに対してnonanaphylactoidな反応がある場合にはCEZreasonable

MSSA IEVCMを用いる場合はβラクタムアレルギーの評価を行うべきである。DAPを用いることもreasonableである。

CLDMは推奨されない。

 

併用

MSSA/MRSA IERFPをルーチンに使用することはnot recommended

hVISAVISAVRSAの治療ではDAPLZD、キヌプリスチン・ダルホプリスチン、セフタロリンなど。

 

人工弁

MSSAではナフシリン/オキサシリンとRFP併用、MRSAではVCM+RFPが推奨。治療期間は6週以上。

GMを始めの2週追加すべき。GM耐性があればキノロンmay be used

●手術推奨。特に心不全あるとき。

RFP900mg/dayを分1または分36週以上。GM3mg/kg/day1-3回に分けて、2週。