MED INFO

医師の自学自習のためのブログ

麻疹―Review

Measles

Seminar

Moss WJ. Lancet 2017;390:2490-502

 

Introduction

●麻疹は感染性の強い、急性ウイルス性熱性疾患である。遺伝学上はrinderpest virusに近い(ウシの感染症の原因となり、2011年に世界動物保険機構が根絶を宣言)。歴史的なエビデンスには乏しいが、おおむね5千~1万年前、つまり古代文明の発祥時期には人類に感染症を引き起こすようになっていたらしい。1960年代にワクチンが導入されるまでは、特に小児のmorbidity/mortalityは高く、1980年代にExpanded Programme on Immunizationによって広くワクチンが普及するまでは、年間200万人の死亡をもたらしていた(Figure 1:麻疹の歴史)。この20年の間に罹患率は低下したが、年間の死亡者は10万人に及び、依然vaccine-preventableな疾患として重要である。ポリオと同様、elimination/eradicationを目指す必要がある。このセミナーでは、2012年のセミナー(文献6)をアップデートし、新たな情報を提供する。

eradicationworldwide interruption of measles virus transmission

elimination12ヶ月以上endemic measles virus transmissionがない (文献109

 

Disease burden

20世紀の間に、栄養状態の改善、社会経済の発展、医療、ワクチン接種の普及により、麻疹による死亡は減少した。麻疹は特に途上国・貧しい地域に多く、正確な罹患率・死亡率の把握は難しいため、値は報告およびモデルによって推計されている。多くの国では報告ベースのサーベイランスを行い、WHO Global Measles and Rubella Laboratory Networkによる診断・分子疫学の手法を用いた標準的なテストを実施している。

WHOは毎年麻疹発生と死亡の推計、ワクチン接種状況を発表している。麻疹の報告患者数は2000年から2015年に70%減少した(853479件→254928件)。ただし、実際の発生数より低く数値と考えられる。2015年の地域別発生はアフリカ40%、西太平洋27%、東南アジア12%。欧州も11%ある。

●麻疹死亡は麻疹の発生率のほか、ワクチン接種、年齢、国毎の状況を見ながら推計している。2000年から2015年に79%減少した(651600件→134200件)。死亡の64%はアフリカエリアで発生している。この期間でワクチン接種は2030万人の死亡を減らしたと推計される。(Figure 2

 

Epidemiology

●呼吸器からのdropletsだけでなく、空気中に2時間留まるparticle aerosolsによっても感染する。潜伏期は一般に発熱まで10日、発疹まで14日と考えられる。8件の観察研究のsystematic review(文献18)では潜伏期間中央値は12.5日(95%CI 11.8-13.2)。最も長い潜伏期は23日と報告がある(文献19)。感染性のある期間は発疹出現の数日前から数日後。この期間は、特にウイルス量が多く、咳や鼻症状が強い。ただしウイルスRNAは発疹が治まっても数ヶ月は血中、尿、鼻咽頭検体に認められる。接触歴が不明の麻疹患者は多く、まれかもしれないが感染性のある期間が相当長い可能性がある。

●感染性はbasic reproductive number (R0)で表される。ある一人の患者が、感受性のある集団においてどれだけ二次的な患者を発生させるかの平均値。感染形態、人口密度、社会活動などにより左右されるが、麻疹は9-18と推定されている。これは天然痘5-7)、インフルエンザ(2-3)と比較してもかなり高い。この感染性の強さが、麻疹根絶の障害である。単純な推計では集団の免疫保有率を89-94%とすれば麻疹根絶が可能とされる。

●麻疹は不顕性感染や持続感染は知られておらず、動物の宿主もない(類人猿では感染例の報告があるが、ウイルスを保持するには少ないと考えられている)。根絶に有利な条件である。

●麻疹には季節性、および2-5年ごとの流行サイクルがある。アウトブレイクごとに免疫をもつ人の割合が変化するためと考えられる。季節では冬から春にかけて多い。熱帯地域では季節パターンは様々で、高い出生率の地域では、不規則で大規模な流行も発生する。

●母体由来の麻疹IgG抗体は、新生児の麻疹防御に働くが、数ヶ月で効果がなくなる。小児の麻疹罹患年齢は、母体の免疫状況、ワクチン接種時期、その地域の麻疹流行に左右される。ワクチン接種状況の悪い地域では、麻疹は小さな子供の疾患である。ワクチンが広まり、流行も収まった地域では、青年期、さらに成人へと発症年齢がずれていく。また、immunity gapsのある集団において、ワクチン接種率が高くても(しかも2回打っている人が多くても)アウトブレイクが発生することが、最近よくみられている(参考文献32-35)。

 

Virology

●麻疹ウイルスはnon-segmentednegative-sense RNAウイルスでParamyxoviridaeに属する。ゲノムは16000塩基で6つの構造蛋白と2つの非構造蛋白をコードする。生涯免疫に関わるIgG抗体はヘマグルチニン蛋白に対するもので、宿主細胞のレセプターに結合するのを防ぐ。

nucleoprotein遺伝子の可変領域をコードする450塩基対のシークエンスによって特徴づけられる。24genotypeWHOによって指定されており、流行状況をみるのに役立っている。24のうち2005年から2014年の間に132009年から2014年の間には8つしか検出されておらず、つまり多くのgenotypeはすでに根絶されたようだ。

genotypeが多岐にわたり、RNAウイルスはもともと変異しやすいにも関わらず、麻疹ウイルスはantigenically monotypic virusである。このため、1950年代に開発された、ワクチン株を用いた弱毒ワクチンがすべての株をカバーできる。

 

Pathophysiology

●麻疹ウイルスはdropletsaerosolised particlesによって獲得され、はじめはリンパ球、樹状細胞、肺胞マクロファージに感染する。潜伏期間の間に複製され、まずリンパ系組織へ、続いて感染リンパ球が血流にのることで播種される。上皮・内皮細胞に感染し、直接伝播することですべての内臓系に及ぶ。ウイルスは呼吸器上皮表面からbud、もしくは傷害された上皮から放出され、感染源となる。

●ウイルスRNAは発疹出現から少なくとも3ヶ月は、臨床検体から検出される。従来の2-3週持続する発熱性疾患という概念は揺らいでいる。サルモデルでは末梢血の単球に67日間認められた。ウイルスクリアランスには3つのフェーズがあるらしい。①急速にRNAが減少し感染ウイルスが排除される、②一時的にRNAがリバウンドしたのち10週ほどかけて検出感度未満まで減少する、③RNAがリンパ組織からは検出されるが血中からは検出されない。

 

Immune responses

●免疫はウイルス排除や感染防御に役立つが、麻疹の臨床症状にも深く関わっている。例えば麻疹の皮疹は組織学的には血管周囲のリンパ球浸潤である。2つの非構造蛋白(VC)がホストのインターフェロンを抑制する。細胞性免疫、液性免疫が機能し、それぞれ感染からの回復と、長期の免疫に関与する。液性免疫ではIgMがまず増加する。発疹出現から6-8週高値が続く。IgMは診断に有用だが、発疹出現直後では陰性となることがあり注意する。続けてIgGが産生される。母体由来のIgGや暴露後の免疫グロブリン投与が有効であることから、IgG単体で麻疹からの感染予防に有用と考えられる。細胞性免疫はウイルス除去、回復に働く。小児の無ガンマグロブリン血症では麻疹から回復するものの、T細胞不全患者では致死的であることはこれを示す。

●麻疹は免疫抑制的な感染症である。二次的な細菌性・ウイルス性感染を起こしやすくなる。一時的なリンパ球減少が起きるが、これは末梢血からリンパ組織への移行による。Ex vivoでは、リンパ球の増殖や樹状細胞機能が低下する。In vivoでのメカニズムは不明である。Th2の抑制は細胞内寄生菌への感受性を増す。血漿IL10増加も免疫抑制に関連するかもしれない。また、麻疹に特異的に反応するリンパ球の増加により、他のメモリー細胞が減少するという仮説もある。

●麻疹後は数週から数ヶ月、二次的な感染症を発生するリスクが高まる。あるいは2-3年かもしれない。

●麻疹ワクチンが他の感染症をも減らすという議論もある。

 

Cinical presentation, complications, and outcomes

●発熱+3つのCCoughcoryzaconjunctivitisが重要。コプリック斑は発疹出現の1-2日前から。発疹は発熱出現の3-4日後に出現し、初めは顔面・耳の裏、さらに体幹・四肢に広がる。ワクチンによる修飾麻疹では発疹はminimalなことがあり、3つのCも欠くかもしれない。HIV感染など細胞性免疫不全では、発疹を欠くか遅れることがある。Uncomplicated症例では発熱後1週間以内に快方に向かう。

●すべての臓器に合併症がありうる。特に新生児、20歳以上の成人、妊婦、免疫不全、栄養不良、ビタミンA欠乏。肺炎は多く、死亡率にもかかわる。肺炎は二次性の細菌性・ウイルス性のほか、麻疹そのものでも発症しうる。クループや中耳炎も多い。起因菌は特徴的なものはない。下痢も致死的で、細菌性、原虫など様々。妊婦の麻疹は低出生体重児、流産、子宮内胎児死亡、母体死亡のリスクを上げる。

3つの神経系の合併症は重要である。

Acute disseminated encephalomyelitis (ADEM)脱髄性自己免疫性の脳炎で、麻疹発症の数日から数週以内に発生する。麻疹1000例に1例みられる。発熱のほか、けいれんやその他の神経兆候をきたす。

measles inclusion body encephalitis (MIBE)はウイルスの脳への感染で、免疫不全者において麻疹発症後数ヶ月以内に発生する。臓器移植や、HIV感染者で報告がある。

subacute sclerosing panencephalitis (SSPE)は麻疹1万~10万例に1例発生する、遅発性の合併症で、麻疹発症の5-10年後に発症する(caused by the host response to production of mutated virions with defective assembly and budding)。特に2歳未満で麻疹を発症した患者にみられ、痙攣、進行性の認知機能・運動機能、死亡が特徴的。アメリカからの報告(Clin Infect Dis 2012:参考文献89)で、1歳未満の麻疹では1:6095歳未満の麻疹では1:1367SSPEを発症したとしている。

●麻疹の死亡は1000人に1人、5%サブサハラやアジア)、20-30%(難民キャンプなど)など。

 

Diagnosis

●見慣れた医師が診察すれば、鑑別に挙げるのは比較的容易である。他のウイルス性発疹症、つまり風疹、HHV6、パルボウイルスB19、デングなどに注意。経過のほか、合併症にも注意する。肺炎、中耳炎、角結膜炎、下痢など。免疫不全は重要で、ビタミンA欠乏とHIVにも注意。空気感染対策。麻疹を見たことのない医師、典型的でない症状の場合、診断は簡単ではない。特に免疫不全、ワクチン接種歴、比較的長い潜伏期、典型的でない皮疹の場合。

IgMは診断に有用だが、発疹出現の4日以内は陰性に出やすい。72時間以内に75%4日以内にalmost all患者でIgMが陽性になったという報告あり(文献93)。IgM1-3週でピーク、4-8週で検出できなくなる。ペア血清によるIgG4倍以上の上昇も有用である。抗体は酵素免疫法よりも中和アッセイのほうが感度が高い。IgMが陰性の時期でも咽頭・鼻・尿サンプルのRT-PCRでウイルスRNAが検出可能。

oral fluiddried blood spotからIgMIgG、ウイルスRNAを検出する技術も開発されている。

 

Management

●支持療法と合併症の検索

WHO1歳以上の麻疹患者に20IUのビタミンA2日間投与することを推奨(1歳未満は適宜減量)。2回のビタミンA投与が、2歳未満の小児の死亡率(RR 0.18 (95%CI 0.03-0.61))、肺炎による死亡率(RR 0.33(0.08-0.92))を減少させた報告あり(文献100)。

●重症麻疹でリバビリンインターフェロンα、その他抗ウイルス薬を使用したという報告あり。

●予防的抗菌薬投与は推奨されていない。

 

Prevention

●風疹(MR)、ムンプス(MMR)、水痘(MMR-V)との混合ワクチンが有用。

●最初のワクチン(Edmonston B strain)は1963アメリカで承認されたが、軽度の麻疹を頻繁に引き起こしたためガンマグロブリンと一緒に投与されていた。1960年代には改善され、Schwarz and Moraten株などが現在も使用されている。

WHOの推奨では、初回(measles-containing vaccineMCV1)をendemic areaでは9ヶ月児に接種、状況によっては6ヶ月で打ってもよいとしている:アウトブレイクの最中、難民キャンプ、HIV、暴露の可能性が高いなど。ワクチン後に有効な抗体価が達成される割合は9ヶ月児の接種で85%12ヶ月児で95%9ヶ月未満で打つとこの割合はさらに低い。母体由来の抗体がワクチン株を阻害するためと考えられている。12-15ヶ月で打つのが最も免疫がつきやすいが、麻疹リスクの低いエリアでのみ推奨される。

●流行を防ぐには2回目の接種が重要。ルーチンのサービスとして打つ(MCV2)か、ワクチンキャンペーンとして打つ(supplemental immunization activities (SIAs)と呼ばれる)か。MCV19ヶ月で打たれる地域ではMCV215-18ヶ月で打つ。MCV112ヶ月で打たれる地域では15-18ヶ月もしくは学校に入る年齢でMCV2を打つ。

●世界のMCV1の接種率は、2000年(72%)から2010年(85%)に上がったが、2015年は85%と変わらなかった。残り15%をいかに接種するかが根絶に向けて重要。2015年にMCV1を打たなかった2080万人の子供たちのうち、53%が次の6つの国に住んでいる:インド、ナイジェリア、パキスタンインドネシアエチオピアコンゴ民主共和国

MCV22015年では61%SIAとして打つ人も多いが、高価でリソースも必要。

 

Elimination and eradication

The future of measles

航空機内の緊急事態―Review

In-Flight Medical Emergencies

Review

Martin-Gill C, et al. JAMA 2018;320:2580

 

Introduction

In-flight medical emergencies (IMEs)は、高度35000フィートの中、限られた器具と人員、慣れない環境下で提供される特殊な医療である。本レビューは、文献検索を基にIMEのデータを提供し、医療関係者がこの事態に遭遇した際の手助けになるようまとめられた。

 

Methods

199011日~201862日に発表された英語論文をPubMed/MEDLINEを検索した。検索語(air emergencyなど)を用いて14842本の論文を抽出し、その中からタイトルをチェックして関連する765本に、さらに内容を見て317本に絞った。

 

Observations

Epidemiology

●地上にコンサルトされた11920件のレビューから、IME604フライトに1回発生すると推定された(コンサルトされない例があるので過小評価しているはずだが)。24-130/100万人のIMEsが発生するという推計を用いると、世界中で年間40億人がコマーシャルの航空機利用をするとして、260-1420/日のIMEsが発生している。

14本の論文がIMEの病態の内訳を検討していた(Table 1)。計49100件のIMEにおいて、syncopeまたはnear-syncopeが最も多かった(32.7%)。ほかに、胃腸(14.8%)、呼吸(10.1%)、心血管(7.0%)。心停止は0.2%だった。

IMEによる行先変更(diversion)は56599件のIME中、2515件で行われた(4.4%)(Table 2)。

 

Pathophysiology

●航空機は通常高度30000-40000フィートを飛行し、客室は11-12 psi(重量ポンド毎平方インチ、1 psi = 6894 Pa1気圧=14.6 psi)に加圧される。11-12 psiは地上では標高5000-8000フィート(1524-2438 m)に相当。地上より圧は低いため気体が貯まる空間(生理的:副鼻腔や中耳、非生理的:気胸、胃腸、眼・頭蓋内手術後)は広がる。標高8000フィートの場所に相当する圧の元では、気体は約30%体積を増す。上気道(副鼻腔、中耳)に炎症がある場合、不快感(discomfort)を増強する可能性がある。

●客室の酸素分圧も低くなり、健常者でも平均SaO297%から93%に下がる。呼吸器疾患などでもともと酸素化が悪い場合は、酸素吸入を行う、もしくはもとの酸素流量を増やすといった対応が必要である。

●長時間の座位と低酸素血症は、静脈血流の低下、全身性の炎症、血小板機能の活性化をもたらし、静脈血栓塞栓症の引き金となる。DVT/PEは飛行機を降りてから数時間~数日後が最も発生しやすいが、搭乗中に発生することもある。下肢DVTはハイリスクの乗客では、1フライトあたり5%。無症状のVTEは長時間のフライト(4時間以上)で10%に起こるというデータあり。

●機内は乾燥しており脱水になりやすい。機内の空気の還流はアレルギーや感染性疾患の原因となる。

 

Emergency Medical Equipment

●連邦航空局(Federal Aviation Administration: FAA)はアメリカ国内の航空路線で最低限常備すべき医療器具を定めている。Non-USの航空路線はそれぞれ規定がある。例えばUSの路線ではAEDは必須だが、ヨーロッパの一部の航空会社では必須とはされていないところもある。Table 3に器具と薬品の一覧を示す。静脈路確保、バイタル・血糖測定、尿道カテーテル、鎮痛薬、いくつかの心疾患などに対応できる。酸素は事故などの際に一般乗客に用いるときのため、2-4L/minで投与できる設備があるが、それ以上の流量や、長時間の投与は難しい。小児用の器具、major analgesic、ナロキソン、抗菌薬なども必要とする意見があるが、常備されていないのが普通である。

●航空会社はIMEpreflight screeningsに対応するためground-based medical supportの契約を結んでいる。IMEが発生するとパイロットから地上に連絡が取られ、助言を受けられるようになっている。このサポートがIMEの予後を改善するかどうか検討された研究はない。

 

The Medical Volunteer Role

●各航空会社のポリシーに従い、搭乗者の中から医療ボランティアを募る。ふつうは医師免許などの証明を必要としないが、航空会社によっては求められるかもしれない。医療ボランティアは自らの技量・経験を正直にconsiderしなければならない。アルコールやその他薬物の影響下にあってもいけないIME aidの半数で医師が、25%は看護師やその他の医療職が、25%はクルーだけで対応したという報告あり。ボランティアが複数いれば、技量・経験に応じて対応を検討する。

●医療ボランティアが行うのは、情報収集、患者評価、ground-based supportとのやり取り、投薬・処置である。クルーは医療ボランティアとground-based support双方に意見を求めるが、最終的なrecommendationground-based supportの医師の意見を参考にするのが普通である。

The key to success is for everyone involved to contribute their expertise as part of a collaborative team, with the sole goal of ensuring the best interest of the patient with the IME in consideration of all passengers on board. (力を合わせて患者を救おう(?))

 

Legal and Ethical Considerations for Medical Volunteers

US内では、the Aviation Medical Assistance Act (「よきサマリア人法」の名で知られる)によって、医療提供者の責任は免除される。ボランティアの中には見返り(金銭、席のグレードアップ、マイレージ、その他)を求める者がいるかもしれないが、自らの立場を危うくする。

US以外、国際路線などでは、各種条約など(Warsaw ConventionMontreal ConventionTokyo Conventionなど)で規定されている。「よきサマリア人法」の適応は国毎に異なる。また、医療関係者にIMEへの対応を義務付けている国もある。例えばUS、カナダ、イングランドシンガポールでは業務中でない医療者はIMEに対応するlegal dutyはない。一方で、オーストラリアやヨーロッパの一部の国では、医師がIMEに対応することを法律でrequireしている。現在の国際的取り決めにおいては、航空機内での医療行為について法的責任を問われるリスクはほとんどないし、そもそも航空医学のエキスパートのサポートも得られる(ので積極的に関わろう)。

 

Aircraft Diversion

●行先変更にはIME患者の病態以外にも考慮すべき事柄が多くある。最も近い空港の周辺に患者を収容できる医療施設がないかもしれない。飛行高度からすぐに着陸態勢に入っても着陸まで30分はかかるので、行先変更をしても意味のある時間短縮にならないこともある。患者自身が行先変更を望まないかもしれない。

●機長は上記ほか様々な要因を考慮し、最終的に行先変更を行うか決定する。

●行先変更にかかるコストは、乗客数や本来の行先によって変わるが、20000-725000ドルというデータがある。ある研究では、行先変更を要した病態は、心停止、産科救急、心疾患、脳卒中疑いであった。

●行先変更をしても着陸まで30分以上要する。心停止患者では、蘇生がfailした際、本来の目的地の近くに家族がいるなどの事情があれば、行先変更はデメリットが大きい。

 

Clinical Assessment and Management

General Approach to an IME

●クルーからの要請に従い、医療ボランティアは自分の専門を申告する。次に、症状の性状と持続時間、危険な症状の有無(胸痛、息切れ、麻痺など)、バイタル、意識、身体所見をチェックする。クルーは医療器具を準備、必要なら酸素を投与、患者の情報を集め、ground-based supportに状況を報告し、推奨があれば投薬や処置を行う。多くの航空会社は症状に応じて標準化された対応マニュアルがある(Figure 1, 2)。IMEで頻度の高い疾患をTable 4に記載する。

 

Considerations for Specific Conditions

●失神はIMEで最も重要である。Vasovagal、脱水、低血糖が多い。Vasovagalでは、通常臥位、下肢挙上により15-30分で改善する。徐脈、低血圧が参考になる。

●胸痛は心血管、肺疾患が多く、機内の設備で治療できる病態は少ない。行先変更が選択肢である。

●痙攣の既往、抗てんかん薬の常用は痙攣である可能性、再発の可能性を高くする。数秒の痙攣はnongeneralized 痙攣、vasomotor失神を示唆する。痙攣後、15-30分、反応が鈍くなることがある。改善しない痙攣、postictal stateから改善しない場合は行先変更がオプションとなる。

●航空機内での外傷が重傷であることは少ない。転倒や荷物がぶつかったことによる頭部外傷が問題となることがある。

●様々なpsychiatricな症状は、精神病よりは単純な不安が多い。不安は身体症状を引き起こすことがある。不安が閉鎖的な空間で問題となる(パニック)。Agitationのときに用いる薬剤はFAAが指定するキットには含まれない。

●アレルギー症状は頻度が高いが、重症のものは少ない。ピーナッツによる食物アレルギーが多い。動物やその他の環境因子も原因となる。ジフェンヒドラミン、アドレナリン、酸素を用いる。キットの中にはコルチコステロイドが含まれるものがある。

●産科的救急は困難が大きい。ほとんどの医療関係者は36週以降の妊婦の飛行機旅行を勧めていない。20週以前の出血、腹痛はふつうは行先変更や特別な措置を必要としない。20週以降は緊急に措置を行う必要が出てくる。

●心停止の場合は、蘇生処置を行う。胸骨圧迫(100-120/min)単独か、5-6秒に1回の呼吸を併用。AEDを用いる。静脈ルートを確保し、1mgアドレナリンを5分おき。リドカイン100mgVF、頻脈の際のオプション。20-30分蘇生処置を行い、循環が回復しない場合は中止を検討する。

 

Prevention of IMEs

●脱水予防の飲水、食事。持病がある場合は医者、看護師に相談する。例えば、糖尿病患者は血糖測定器、ブドウ糖補給、糖尿病薬を持参する。呼吸不全があれば、酸素を持参。航空機内の酸素の状況は地上でのPaO2PaCO2から推測する研究がある。酸素は十分量を持参する。機内での運動。

淋菌感染症

<参考>

性感染症ガイドライン2016

J-IDEO 2018;2:738 薬剤感受性検査の真意を紐解く

 

臨床病態:

・男性:尿道炎、精巣上体炎

・女性:子宮頚管炎、尿道炎、卵管炎、骨盤内炎症性疾患

・菌血症、播種性感染症(関節炎、膿疱)

・性行動の多様化により、咽頭感染(性器感染症患者の10-30%)、直腸感染、結膜炎もみられる

尿道炎、結膜炎は症状強いが、子宮頚管炎では無症状も多い。

・治療にあたっては抗菌薬の移行性が重要。性器・咽頭の同時感染例では、性器の淋菌が消失しても咽頭の淋菌が残ることもある。

 

耐性が進んでいる:

・ペニシリナーゼ産生淋菌(PPNG)は少ない(%)

PBP変異株が90%以上で、ペニシリンおよびβラクタム阻害薬配合ペニシリンも効果期待できない。

・テトラサイクリン、ニューキノロン耐性(DNA gyraseのサブユニットGyrA、トポイソメラーゼVのサブユニットParCの変異)70-80%以上。

・経口セファロスポリンも耐性進んでいる。最も強いセフィキシム(CFIX:セフスパン)200mg/回・12回・3日間は効果ある一方、無効との報告あり。

・保険適応があって確実なのはセフトリアキソン(尿道炎などには1g単回)、スペクチノマイシン(SPCM:トロビシン)。ただし咽頭感染にはスペクチノマイシンの有効性低い。

・セフトリアキソン耐性株(MIC 2μg/mL)も報告出てきている。

・アジスロマイシンはCLSIのブレイクポイントが設定されていない。おおむね(90%以上)有効と考えられるが、MIC0.5mg/L以上(日本のサーベイランスで5%)で治療失敗例が出現、1mg/Lで約40%が失敗したとするデータあり。

・ほぼ染色体性の耐性。淋菌は形質転換としての遺伝子獲得能力が高い。

 

診断:

クラミジアとの混合感染に注意(男性尿道炎では20-30%)PCRでは同時に両菌種を同定可能。

PCRでは感受性はわからないので培養も。保険上、PCRと培養は同時に提出できない。

・男性淋菌感染症では、検体は初尿or尿道分泌物。

・女性性器感染では、子宮頚管擦過検体。下腹部痛、右季肋部痛には注意。

 

治療:

・経口抗菌薬のみで治療することは現状推奨されない。

・セフトリアキソン、スペクチノマイシン以外には、アジスロマイシン(ドライシロップ2g)尿道炎、子宮頚管炎に適応あり、アジスロマイシン静注が骨盤内炎症性疾患に保険適応あり。アジスロマイシンはおおむね(90%以上)有効と考えられるが、MIC0.5mg/L以上(日本のサーベイランスで5%)で治療失敗例が出現、1mg/Lで約40%が失敗したとするデータあり。

・ピペラシリン、メロペネムは抗菌力があるが、保険適応はない

 

レジメン:

尿道炎・子宮頚管炎

1st セフトリアキソン静注1g単回 ※咽頭感染の同時治療可能

2nd スペクチノマイシン筋注2g単回

 

精巣上体炎・PID

セフトリアキソン静注1g/回・11-2回・1-7日間

スペクチノマイシン2g筋注単回、3日後に両臀部に2gずつ4g

※投与期間は症例毎に異なる

 

咽頭感染

セフトリアキソン静注1g単回

※スペクチノマイシンは不適

※セフェム使用不可症例では感受性をみてジスロマック2gミノマイシンなど

 

播種性淋菌感染症

セフトリアキソン1g/回・11回・3-7日間

※投与期間のエビデンスが確立していない

 

結膜炎

スペクチノマイシン筋注2g単回

セフトリアキソン静注1g単回 ※保険適応なし

 

直腸感染

セフトリアキソン静注1g単回                                        

スペクチノマイシン2g筋注単回

 

治療効果判定:

現時点でセフトリアキソン・スペクチノマイシンは有効率が高く、投与後の検査は必ずしも行わなくてもよい。症状(排尿痛、分泌物)は淋菌が残っていても消失することがある。白血球数も減少しうる。治療判定を行う場合は、淋菌が検出されないことを確認するべき。女性性器感染症では不妊などの原因となるため、できれば前例でPCRをチェックする。

アルコール量の換算と適正量

<単位>

日本:1単位=アルコール20g=日本酒(15%)1合・ビール500mLに相当

NIAAA:1 drink=アルコール10g

National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism: NIAAA 

 

<量の換算>

アルコール量(g):量(mL)×度数(%)×アルコール比重(0.8)

 ビール(5%)500mL 500×0.05×0.8=20

 日本酒(15%)1合 180×0.15×0.8=21.6

 

<適正量と疾患概念>

・NIAAA

Alcohol Use Disorder (AUD)

社会的、職業的、健康的な害があるにも関わらず、アルコール摂取をコントロールできない状態。DSM5ではmildmoderatesevereに分類。

 

Binge Drinking

血中アルコール濃度(BAC)0.08g/dLとなるようなアルコール摂取のこと。アルコール摂取量および摂取に要した時間が関与する。

通常男性で5ドリンク、女性で4ドリンクを2時間以内で摂取すると達する。SAMHSAによると、この量を過去1ヶ月に1/1日あった場合をBinge drinkingとしている。

 

Heavy Alcohol Use

SAMHSA1ヶ月に5回以上binge drinkingがあった場合。

 

Drinking at Low Risk for Developing AUD

女性では13ドリンク以下、または週に7ドリンク以下。男性は14ドリンク以下、週に14ドリンク以下。NIAAAの調査ではこの範囲のアルコール摂取でAUDに達するのは100人中2人である。

 

厚生労働省

節度ある適度な飲酒:1日平均純アルコールで20g程度

多量飲酒者:1日平均純アルコールで60gを超える

アダリムマブについて

アダリムマブ・ヒュミラ

皮下注、自己注射可能

インフリキシマブがヒトマウスキメラ抗体に対し、アダリムマブは完全ヒト型

 

 

添付文書

適応:既存の治療で効果不十分な以下の疾患

関節リウマチ アバタセプトとは併用しない

乾癬(尋常性、関節症性、膿疱性) 皮疹が10%以上

強直性脊椎炎

多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎

腸管型ベーチェット病

クローン病

潰瘍性大腸炎

非感染性のぶどう膜炎ベーチェット病birdshot網脈絡膜炎、Vogt-小柳-原田)

 

禁忌:

重篤感染症

活動性結核

過敏症の既往

脱髄疾患(多発性硬化症など)

うっ血性心不全

 

慎重投与:

感染症

結核の既往感染

脱髄疾患が疑われる、または家族歴

重篤な血液疾患(汎血球減少、再生不良性貧血など)

間質性肺炎の既往

高齢者

小児

 

重要な基本的注意:

感染症の惹起

悪性リンパ腫などの悪性腫瘍が増える

結核

B型肝炎ウイルスキャリア

生ワクチンは摂取しないこと

脱髄疾患に注意

アナフィラキシー

新たな自己抗体。ループス様症候群の発言あり。

既存の乾癬の悪化、新規発現あり

サルコイドーシス悪化

本剤への抗体産生あり

 

併用注意:

メトトレキサー

 

INTENSIVIST 2010;2(1):169

・インフリキシマブ/アダリムマブvsプラセボを対象としたメタアナラシス:重症感染症のオッズ比2.0(1.3-3.1)NNH3-12ヶ月で59

・日本のインフリキシマブ市販後調査5000例。細菌性肺炎2.2%(PCP0.4%結核0.3%)。肺炎罹患時期の平均は投与回数2.7(1か月後)

帯状疱疹。インフリキシマブ/アダリムマブHR1.82

・ニューモシスチス肺炎は5000例中22例。欧米よりも高い傾向。STの予防投与は一律には推奨されていないが、適宜投与。