心筋梗塞後にコルヒチン(原著)
原著
心筋梗塞後に低用量コルヒチン
(N Engl J Med 2019;381:2497)
Colchicine Cardiovascular Outcomes Trial (COLCOT)
★心筋梗塞を起こして30日以内の患者にコルヒチン0.5 mg/dayを投与し、平均22.6ヶ月追跡。
★primary efficacy end point(複合エンドポイント:心血管疾患による死亡、蘇生された心停止、心筋梗塞、脳卒中、胸痛で緊急入院し冠動脈再灌流が行われた)は、
コルヒチン群131人(5.5%)vs プラセボ群170人(7.1%)
(HR 0.77;95%CI 0.61-0.96)
背景
●動脈硬化における炎症の重症性が認識されている。
●コルヒチンは痛風、家族性地中海熱、心外膜炎などに用いられる安価な経口の抗炎症薬である。
●先行研究(Low-Dose Colchicin (LoDoCo) trial)はプラセボ比較ではなかったが、stableな冠動脈疾患患者に低用量コルヒチン(0.5 mg/day)を投与すると、心血管イベントが減少することが示された(J Am Coll Cardiol 2013;61:404)。
方法
●二重盲検、プラセボ比較、ランダム化試験。12ヶ国、167施設。
●30日以内に心筋梗塞を発症し、適切な経皮的冠動脈再灌流を実施され、スタチンを含めガイドラインに従った治療を実施された患者を、コルヒチン(0.5 mg・1日1回)とプラセボに1:1に割り付けた。
●除外:EF<35%の重度の心不全、過去3ヶ月以内の脳卒中、type 2 indexの心筋梗塞、バイパス手術を過去3年以内に実施or予定している、3年以内の皮膚以外の癌の既往、炎症性腸疾患or慢性下痢、ほか重大な併存症など。
●primary efficacy end pointは、以下の項目による複合エンドポイント:心血管疾患による死亡、蘇生された心停止、心筋梗塞、脳卒中、胸痛で緊急入院し冠動脈再灌流が行われた。
結果
●4745人が登録され、2366人がコルヒチン群、2379人がプラセボ群。患者は平均22.6ヶ月追跡された。
●primary efficacy end pointはコルヒチン群で131人(5.5%)、プラセボ群で170人(7.1%)で有意差があった(HR 0.77;95%CI 0.61-0.96)。それぞれの項目によるHR(95% CI)は、
・心血管疾患による死亡 0.84(0.46-1.52):20人(0.8%)vs 24人(1.0%)
・蘇生された心停止 0.83(0.25-2.73):5人(0.2%)vs 6人(0.3%)
・心筋梗塞 0.91(0.68-1.21):89人(3.8%)vs 98人(4.1%)
・脳卒中 0.26(0.10-0.70):5人(0.2%)vs 19人(0.8%)
・緊急入院し冠動脈再灌流 0.50(0.31-0.81):25人(1.1%)vs 50人(2.1%)
●下痢がコルヒチン群で9,7%、プラセボ群で8.9%。有意差なし。
●肺炎がコルヒチン群で0.9%、プラセボ群で0.4%。有意差あり。
結論
●低用量コルヒチンは心筋梗塞後の心血管疾患のリスクを有意に低下させた。
バイスタンダー除細動は有効(原著)
原著
一般人によるバイスタンダー除細動は、循環が戻らなくても予後を改善する
(Lancet 2019;394(10216):2255-2262)
★日本のビッグデータの解析。
★病院外心停止患者(11年間で約130万人)のうち、バイスタンダーがCPRを開始し、かつ電気ショックが有効な不整脈の見られた患者は28019人いた。
★バイスタンダーが除細動も行ったのは2568人(1割弱)おり、このうち326人(1割強)が循環復帰、2242人(9割弱)は復帰せず。
★バイスタンダーが除細動を行ったが循環が復帰しなかった患者2242人と、バイスタンダーが除細動を行っておらず循環が復帰しなかった患者25087人を比較。30日時点での良い神経学的スコア(Cerebral Performance Category 1または2)、および生存は、除細動群で1.5倍弱ほど良好であった。
背景
●電気ショックを行うべき不整脈のある病院外心停止(out-of-hospital cardiac arrest; OHCA)患者で、一般人による除細動(public-access defibrillation)が試されたケースの80%以上は、循環(spontaneous circulation)が復帰しない。このような患者の神経学的予後、生命予後を調査する。
方法
●日本の前向き・全国・population-basedのレジストリから、2005年1月から2015年12月のデータ(院外心停止患者1299784人)を抽出し、後ろ向きに検討した。
●心停止(cardiac arrest)はsigns of circulationの消失で定義。
●OHCAが心由来か非心由来かは最終的に医師が判断した。循環が復帰したかどうかは、触知可能な脈拍の有無、(and/or?)モニターで判断した。
●primary outcomeは30日時点で、神経学的予後がよい(Cerebral Performance Category 1または2)かどうか。
●secondary outcomeは30日時点での生存/死亡。
結果
●バイスタンダーがCPRを開始したOHCAで、かつ電気ショックが有効な不整脈の見られた患者は28019人いた。
●除細動が行われたのは2568人で、うち326人が救急隊到着前に循環復帰、2242人が復帰しなかった。除細動が行われなかったのは25451人で、364人が救急隊到着前に循環復帰、25087人が復帰しなかった。
●このうち、循環が復帰しなかったケースを比較検討した。
●神経学的予後がよかったケースは、除細動群で845人(37.7%)、非除細動群で5676人(22.6%)で、propensity score-matching後のORが1.45(95%CI 1.24-1.69)と有意差が見られた。
●30日以内の生存率も、除細動群で987人(44.0%)、非除細動群で7976人(31.8%)で、propensity score-matching後のOR 1.31(95% CI 1.13-1.52)と有意差がみられた。
結論
●一般人によるバイスタンダー除細動は有効である。
経口lefamulinの肺炎に対する効果(原著)
原著
肺炎:経口Lefamulin vs Moxifloxacin
(JAMA 2019;322(17):1661-1671)
The LEAP 2 Randomized Clinical Trial
★lefamulinはアイルランド・Nebriva Therapeutics社の新規抗菌薬。
★2019年8月にFDAが承認
★商品名「Xenleta」。150 mg静注製剤と600 mg錠あり。
★肺炎球菌、MSSA、インフルエンザ桿菌、レジオネラ、マイコプラズマ、クラミドフィラなどに有効と。キノロンに近い?
背景
●市中肺炎に対する新規抗菌薬が求められている。耐性菌や、現在の治療薬による副作用の問題があるからである。
●lefamulinは最初のpleuromutilin抗菌薬で、静注薬、経口薬が存在する。先行研究(LEAP 1)ではPORTリスク3以上の肺炎患者で、静注薬→経口薬の治療が、モキシフロキサシンと比較して非劣性であった。
方法
●5日間・経口lefamulinの市中細菌性肺炎に対する効果と安全性を検討する。
●phase 3、非劣性、ランダム化、double-blind、double-dummy。19ヶ国の99施設で実施された。
●1:1のランダムに、経口lafamulin(600 mg 12時間毎・5日間 n=370)か、モキシフロキサシン(400 mg 24時間毎・7日間 n=368)に割り付けた。
●対象は18歳以上、PORTリスクが2、3、4、画像的にドキュメントされた肺炎、急性発症、市中肺炎の症状が3つ以上ある、2つ以上のバイタルサイン異常がある。患者は30日間フォローされた。
●最初の患者visitが2016年8月30日、最後のフォローアップvisitが2018年1月2日だった。
●FDAのprimary endpointはearly clinical response at 96 hours。4つの肺炎症状のうち2つ以上が改善し、悪化傾向の症状がなく、研究薬以外の抗菌薬投与を受けていないことが条件。FDAのsecondary endpointは、investigator assessment of clinical responseで、最終投薬の5-10日後の改善とした。
結果
●738人が割り付けられ、平均年齢57.5歳、女性47.6%。360人はPORTリスク3または4。707人(95.8%)が予定通りフォローされた。
●early clinical response、investigator assessment of clinical responseは、lefamulin群で90.8%、89.7%、モキシフロキサシン群で90.8%、93.6%だった。非劣性示された。
●最も頻度の高かった副作用は、胃腸症状。下痢、嘔気が、lefamulin群で12.2%、5.2%、モキシフロキサシン群で1.1%、1.9%だった。
結論
●early clinical responseについて、5日間の経口lefamulinは、7日間のモキシフロキサシンに対して非劣性であった。
タミフルは効くのか(原著)
原著
重症患者に対するオセルタミビル早期投与の意義
(Clin Infect Dis 2019;69(11):1896-1902)
★ICUに入室するような重症インフルエンザで、症状発現48時間以内にタミフルを投与すると死亡率が減少するか?
★A/H3N2では死亡率が減少し(RR 0.69)、ICU滞在日数も減少した(-1.8日)。
★A/H1N1、Bではこのような効果は確認できず。
背景
●ノイラミニダーゼ阻害薬が重症患者で死亡率を減らすかどうか結論は出ていない。ランダム化比較試験は倫理的にも難しく、観察研究に頼らざるを得ない。
●ノイラミニダーゼ阻害薬と死亡率についてのデータは、インフルエンザA/H1N1pdm09に関するものに限られる。
●重症(critically ill)患者に対する48時間以内のオセルタミビル投与が死亡率減少につながるか調べた。インフルエンザの型別でも検討した。
方法
●ギリシャのデータベース。2010-2011から2017-2018の計8シーズン。
●laboratory-confirmedのインフルエンザでICUに入室し、オセルタミビルで治療された成人患者。オセルタミビルを早期(症状発現48時間以内)に投与したかしなかったかで検討。
●primary endpointはICU死亡 vs ICUからのdischarge。
結果
●対象は1330人。年齢中央値62歳。65歳以上42%。インフルエンザの型はA(subtype unknown)9%、A/H1N1 56%、A/H3N2 20%、B 13%。全体で622人(46.8%)がICUで死亡した。
●オセルタミビル早期投与は、患者全体、A/H1N1、Bの患者ではICU死亡率への影響が認められなかった。
●A/H3N2では、オセルタミビル早期投与とICU死亡率減少が有意に関連した(RR 0.69(95%CI 0.49-0.94)、subdistribution hazard ratio 0.58(95%CI 0.37-0.88))。
★早期投与群は、A/H3N2ではICU退室が1.8日早く、有意であった。A/H1N1やBでは有意差なし。
結論
●インフルエンザが疑われる重症患者では、速やかにオセルタミビルを投与されるべきである。特にA/H3N2では効果が高いようだ。
●オセルタミビルの効果はインフルエンザの型によって異なる。
黄色ブドウ球菌菌血症の予後(原著)
原著
黄色ブドウ球菌菌血症の予後について
(Clin Infect Dis 2019;69(12):2112)
★アメリカ。データベースを使った後ろ向き研究。
★黄色ブドウ球菌菌血症の院内死亡(初回入院時)は13%で、MSSAよりMRSAのほうが多かった。
★ (初回入院死亡例を除いた解析で)30日以内の再入院は22%で、MSSAとMRSAに差はなかったが、菌血症が原因の再入院はMRSAのほうが多かった。
背景
●黄色ブドウ球菌菌血症の予後、特に再入院に関する知見は乏しい。
方法
●アメリカの入院の49%をカバーする「Nationwide Readmissions Database 2014」を後方視的に用いて、18歳以上のMSSA/MRSA菌血症の予後を調査した。
●30日以内の再入院、死亡率、入院期間、コストを調査。
結果
●黄色ブドウ球菌菌血症の92089患者のうち、48.5%がMRSAであった。
●HIV、うっ血性心不全、慢性肺疾患患者ではMRSAの割合が高かった。
●皮膚軟部感染症、肺炎ではMRSAが多く、筋骨格系、心内膜炎、中心静脈カテーテル関連感染ではMSSAが多かった。
●初回入院時の院内死亡は全体で13%、MRSAでみると14.1%だった。
●(初回の入院で死亡しなかった患者で)30日以内の再入院は22%で、MSSAかMRSAかで差はなかった(HR 1.03(95%CI 0.98-1.09))。
●MRSA患者では、菌血症再燃(bacteremia recurrence)による再入院が多く(HR 1.17(95%CI 1.02-1.34))、院内死亡率が高く(OR 1.15(1.07-1.23))、入院期間が長かった(incidence rate ratio 1.09(1.06-1.11))。
●再入院は、心内膜炎、免疫不全患者、drug abuse患者で多かった。
●再入院によるコストは1ケースあたり12425$、菌血症で再入院した患者でみると19186$だった。
結論
●黄色ブドウ球菌菌血症では再入院が多い。
●再入院させないような適切なケアが必要である。