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医師の自学自習のためのブログ

人工呼吸器関連肺炎の抗菌薬予防投与(原著)

人工呼吸器関連肺炎をアモキシシリン/クラブラン酸で予防する

(N Engl J Med 2019;381:1831-42)

ANTHARTIC trial

 

★初回ショック適応/病院外心停止/低体温療法の患者に、心停止6時間以内にアモキシシリン1000mg/クラブラン酸200mg/回・1日3回・2日間 or プラセボを投与。

★primary end point:7日以内の人工呼吸器関連肺炎(independent committeeが判断)は、19% vs 34%で有意に減少。

 


背景

●ショック適応の不整脈がみられた病院外心停止からの蘇生後に、低体温療法を実施された患者に対して、短期間抗菌薬を投与することで人工呼吸器関連肺炎を減少させることができるか?

 

方法

●多施設、二重盲検、ランダム化、プラセボコントロール

●19歳以上。初回ショック適応の不整脈で病院外心停止した患者で、ICU入室し人工呼吸を装着され、低体温療法(32-34℃)が実施された患者。

●除外:すでに抗菌薬が投与されていた、多剤耐性菌のコロナイゼーション、moribund statusなど。

●心停止後6時間以内に抗菌薬またはプラセボを開始。抗菌薬はアモキシシリン1000mg/クラブラン酸200mg/回が1日3回・2日間、静注。プラセボでは生食を投与。

●低体温療法は32-34℃を24-36時間実施。

●Primary end pointは入院後7日以内発症の人工呼吸器関連肺炎(early)。人工呼吸器関連肺炎はindependent adjudication committeeが判断した。

 

結果

●198人がランダム化。194人が解析対象。抗菌薬群99人、プラセボ群95人。

●60件の人工呼吸器関連肺炎が診断され、51件がearly例だった。

●Primary end pointは抗菌薬群では19件(19%)、プラセボ群では32件(34%)、HR 0.53、95%CI 0.31-0.92、p=0.03。

●Lateの人工呼吸器関連肺炎、呼吸器freeの日数、ICU滞在日数、28日死亡率には差なし。

●7日目時点で多剤耐性菌は認められなかった。

 

結論

●ショック適応の不整脈がみられた病院外心停止後に低体温療法を実施された患者に、2日間のアモキシシリン/クラブラン酸を投与することで、プラセボと比較し、7日以内の人工呼吸器関連肺炎を減少させることができた。

 

デングワクチンTAK-003の有効性と安全性(原著)

TAK-003の有効性は80%

(N Engl J Med 2019;381:2009-19)

TIDES trial 中間報告

 

★すでに承認されているDengvaxiaはdengue seronegative患者には使いにくい。

★本試験では4-16歳の小児でTAK-003(vs プラセボ)の有効性と安全性を評価。

★per-protocolで80%のefficacyあり。dengue seronegative患者でも大丈夫そう。

 


背景

●全世界で100ヶ国以上がdengue-endemicであり、年間3億9000万の症例が発生している。

●デングウイルスには4つのセロタイプ(DENV-1, -2, -3, -4)がある。一度デングに感染すると、同一のセロタイプのウイルスには感染しにくくなるが、異なるセロタイプのウイルスによる感染では重症化してしまう。

●黄熱ウイルスに由来するtetravalentのデングワクチン:CYD-TDV(Dengvaxia)は、アジア、ラテンアメリカの小児において56-61%の有効性を示したとのことで数ヶ国で承認されているが、dengue seronegativeの患者では逆にsevere dengueや入院が増えるとされ、デングの既往がある人にのみ接種されている。

●新規のtetravalentのワクチン:TAK-003(Takeda)は弱毒生DENV-2由来のワクチンである。TAK-003は現在大規模phase 3、ランダム化比較試験(TIDES)が進行中である。本論文はこの試験の中間報告である。

 

方法

●4-16歳をランダムに2:1に分け、ワクチンかプラセボを3ヶ月あけて2回投与。登録者は発熱エピソードの際に、デングとそのセロタイプについてrtPCRで検査される。

●Primary end pointはvirologically confirmed dengue from 30 days after second dose to end of part 1 of trial

 

結果

●20071人の参加者が、少なくとも1回のワクチンまたはプラセボを投与された(safety population)。

●19021人(94.8%)が2回の投与を受けた(per-protocol)。

Primary end point(per-protocol)は80.2%(95%CI 73.3-85.3、ワクチン群では61件/12700人(0.5%)、プラセボ群では149件/6316人(2.4%))。入院に関するefficacyは95.4%(95%CI 88.4-98.2、ワクチン群では5件、プラセボ群では53件)。

●safety populationでは、vaccine efficacyは80.9%(95%CI 75.2-85.3、ワクチン群では78件/13380人(0.6%、0.5/100人年)、プラセボ群では199件/6687人(3.0%、2.5/100人年))

●per-protocolで、ワクチン投与前にseronegativeの患者だけについて検討すると、vaccine efficacyは74.9%(95%CI 57.0-85.4、ワクチン群では20件/3531人(0.6%)、プラセボ群では39件/1726人(2.3%))

●serious adverse eventsは差なし(ワクチン群3.1%、プラセボ群3.8%)

 

結論

●TAK-003は安全かつ有効である。

肺塞栓の除外:WellsスコアとD-dimer(原著)

WellsスコアとD-dimerによる肺塞栓の除外

(N Engl J Med 2019;381:2125-34)

PEGeD trial

 

★これまでの定説は「WellsスコアでlowかつD-dimer<500 ng/mLでは肺塞栓が除外できる」。

★本研究によって「WellsスコアでlowかつD-dimer<1000」「WellsスコアでmoderateかつD-dimer<500」でも肺塞栓が除外できそうなことがわかった。

★肺塞栓疑いのWellsスコア/D-dimerで、low/<1000、moderate/<500では画像検査せず、low/≧1000、moderate/≧500、highでは画像検査施行。90日フォロー。

 low:<1000(1285人)は肺塞栓なし、≧1000(467人)は肺塞栓5%

 moderate:≦500(40人)は肺塞栓なし、≧500(178人)は肺塞栓20%

 high(47人)は肺塞栓40%

 


背景

●clinical pretest probability(C-PTP)では、Wells scoreなどのclinical prediction rulesを用いて、肺塞栓の確率をlow、moderate、highに分類する。

●D-dimerは架橋フィブリンの分解産物で、D-dimer値は肺塞栓の確率と関連する。

●C-PTPがlowかつD-dimer<500 ng/mLであれば肺塞栓を除外できる、というアイデアは定説になっているが、このような患者はPEを疑われた患者の30%に過ぎない。残りの患者の一部は不必要なchest imagingを受けるはめになる。

●preliminaryな研究では、C-PTPがlowであればD-dimer<1000 ng/mL、C-PTPがmoderateであればD-dimer<500 ng/mLで除外できるとした。本研究(PEGeD study)では、このアイデアについて前向きに検討した。

 

方法

●救急外来またはクリニックを受診した外来患者(1人だけ入院患者あり)で、肺塞栓がsuggestiveな患者を対象とする。

●除外:18歳未満、24時間以内にfull-doseの抗凝固療法を受けている、21日以内にmajor surgeryを受けている、C-PTPが評価される前にD-dimerが把握されていた、プロトコルに沿わずにchest imagingが施行された、など。

●C-PTPがlowの患者ではD-dimer<1000、C-PTPがmoderateの患者ではD-dimer<500の場合に、画像検査などの検査を行わない。

●C-PTPがlowでD-dimer≧1000、C-PTPがmoderateでD-dimer≧500、C-PTPがhighでは全員chest imaging(ほぼCTアンギオ)を施行する。

●WellsスコアでC-PTPを評価。0-4.0がlow、4.5-6.0がmoderate、6.5-12.5でhigh。

●90日以内の、肺塞栓、深部静脈血栓を評価。電話、外来などでフォローした。

 

結果

●2017人が何らかのPEを疑う所見・症状を認め、enrollされた。Initial testingでPEが判明したのは7.4%。

●C-PTP low:1752人

 D-dimer<1000:1285人→90日以内のVTE判明なし

 (D-dimer 500-999:315→90日以内のVTE判明なし)

 D-dimer≧1000:467人→Chest imaging→PE 87人(5%)

   →90日以内のVTE判明2人(1人は新規、1人はinitial testingでPE判明)

●C-PTP moderate:218

 D-dimer<500:40人→90日以内のVTE判明なし

 D-dimer≧500:178人→Chest imaging→PE 43人(20%)

   →90日以内の新規のVTE判明なし

●C-PTP high:47人→Chest imaging→PE 19人(40%)

   →90日以内の新規のVTE判明なし

 

●C-PTP lowかつD-dimer<1000、C-PTP moderateかつD-dimer<500の患者で90日以内にVTEと判明した症例は0人(95%CI 0.00~0.29%)。

●このうちC-PTP lowかつD-dimer 500-999であった315人中で計算すると95% CI 0.00~1.20%。

●今回、initial testingとしてのchest imagingは34.3%の患者に施行された。仮に従来のアイデア(C-PTPがlowかつD-dimer<500 ng/mLのときのみ除外)に依ったとすると、chest imagingは51.9%に行われていたことになる(差 -17.6%、95%CI -19.2~-15.9)

 

結論

●C-PTP lowかつD-dimer<1000の患者は、肺塞栓のリスクが低くchest imagingを避けられる。

●特に、C-PTP lowかつD-dimer 500-999の患者でchest imagingが避けられる点が大きい。

 

腸球菌による感染性心内膜炎

AHAガイドライン(Circulation 2015;132:1435-1486)

 

 

PCG 18-30 million U/day 持続または1日6回

ABPC 12 g/day 1日6回

VCM トラフ値で調整

CTRX 4 g/day 1日2回

GM 3 mg/kg/day 1日2-3回または1日1回

 

総論

●腸球菌はnon-IDU IEの10%程度。97%がE faecalis、1-2%がE faecium。その他1%。

ペニシリン、アンピシリン、バンコマイシンの感受性、ゲンタマイシンのhigh-level resistanceをルーチンに調べなければならない。βラクタマーゼ産生の株はまれだが存在する。βラクタマーゼ産生をみるルーチンの試験は感度が高くない。

 

●他のグラム陽性球菌と比較すると、ペニシリン、アンピシリン、バンコマイシンへの耐性傾向は強い。単剤では十分な殺菌効果がないため、ゲンタマイシン、ストレプトマイシンと併用することによるシナジー効果を利用する。

●多くのE faecalisはペニシリン(MIC 2-4 µg/mL)やアンピシリン(MIC 1-2)でinhibitされるがkillはされない。セファロスポリンはin vitroでは効果なし。カルバペネムはvariableだが、イミペネムが最もactiveである。

ペニシリン、アンピシリン、バンコマイシンによって、アミノグリコシドの腸球菌へのpermeabilityが上昇し、比較的低い濃度でも効果がみられるようになる。ペニシリン、アンピシリン、バンコマイシンに耐性の場合、あるいはアミノグリコシドに高度の耐性がある場合(ゲンタマイシン500 µg/mL、ストレプトマイシン1000 µg/mL)でなければ、両者の併用が有用である。

 

標準的な投与期間は(4-)6週である。全期間アミノグリコシドを使うのが難しい場合も多い。腎機能、併存症、高齢など。

●アミノグリコシドを1日1回投与にするか、分割して投与するべきか、結論は出ていない。標準的には3 mg/kg/dayを8時間おきに投与する。(ヨーロッパ、日本のガイドラインでは1回でよいとされている)

●8時間おきに投与した際のゲンタマイシンの血中濃度の目標は、投与1時間後3 µg/mL、トラフが<1 µg/mLである。

 

ペニシリン感受性、アミノグリコシド非高度耐性

ペニシリン/アンピシリン+ゲンタマイシンがよい。

アンピシリン+セフトリアキソンでもよい。ペニシリン/アンピシリン+ゲンタマイシンに劣らないかもしれない。

 

ペニシリン/アンピシリン+ゲンタマイシンを選んだ場合、症状出現3ヶ月未満の症例では4週間、症状出現3ヶ月以上の症例では6週間の治療がよい。人工弁の場合も6週間がよい。

●アンピシリン+セフトリアキソンを選んだ場合は6週がよい。 

 

クレアチニンリアランス30-50、30未満の患者では、4ないし6週間のゲンタマイシン併用が難しいかもしれない。このようなケースでは、①ストレプトマイシンを用いる、②ゲンタマイシンの投与期間を短縮する(2-3週)、③アミノグリコシドを併用しないレジメンにする、などの方法がある。

●アミノグリコシドを併用しないレジメンがいくつか研究され、アンピシリン+セフトリアキソンの効果が示されている。ダブルβラクタムによって、ペニシリン結合タンパク(PBP)が飽和されるからとも言われる。

●アンピシリン+セフトリアキソンの研究にはいくつかのlimitationもあるが、腎機能への影響が少なく、効果もほぼ劣っていないようであった。

 

ペニシリン感受性、アミノグリコシド(高度)耐性

アンピシリン+セフトリアキソン、6週間の投与がよい。

●ゲンタマイシン耐性だがストレプトマイシン感受性の株もある。そのような株でもアンピシリン+セフトリアキソンでよい。

 

ペニシリン耐性あるいはペニシリン忍容性なし

バンコマイシン+ゲンタマイシンがよい。バンコマイシンは、ペニシリンが使えないときにだけ使用する。

バンコマイシン+ゲンタマイシンの投与期間は、自己弁なら6週、人工弁ならat least 6週。

(??バンコマイシン感受性、アミノグリコシド(高度)耐性では??)

 

バンコマイシン耐性

●大半のバンコマイシン腸球菌はE faeciumであり、E faeciumによるIEはまれである。腸球菌はバンコマイシンのMIC >4 µg/mLで耐性と判断される。

●βラクタム、バンコマイシン、アミノグリコシドに耐性の株では、ダプトマイシン、リネゾリドへの感受性を調べる。ダプトマイシンは殺菌性、リネゾリドは静菌性。

●リネゾリド600 mg 12時間おき、またはダプトマイシン10-12 mg/kg、6週間が用いられる。

 

Targeted Lung Denervation for COPD(原著)

原著

Targeted Lung Denervation for symptomatic COPD

Am J Respir Crit Care Med 2019;200(12):

AIRFLOW-2

 

COPDに対するTargeted Lung Denervation治療の効果。

気管支喘息のサーモプラスティみたいな治療?

 

TLD 41人 vs シャム 41人で比較。

ランダム化後3~6.5ヶ月の期間の呼吸器系イベントは32% vs 71%。

COPD増悪による入院は1年以内で12% vs 32%。

 


背景

COPDでは、気道の副交感神経から放出されるアセチルコリンによって平滑筋の収縮や、気道分泌亢進、炎症が引き起こされる。抗コリン薬は重要な治療薬である。

●Targeted lung denervation(TLD)とは、気管支鏡的に高周波によってCOPD患者の気道をアブレーションし、副交感神経を傷害することで、COPDにおける気道抵抗・粘液分泌を抑制する新規の治療法である。AIRFLOW-1(Respiration 2019;98:329-339)では、安全性やdoseの検討が行われた。

●本研究AIRFLOW-2ではTLDの効果と安全性の評価を目的とする。

 

方法

●多施設、ランダム化、シャムと1:1で比較、二重盲検

●mMRCスコア2以上またはCATスコア10以上のCOPD患者

TLD群はNuvaira社のNuvaira lung denervation therapyを受ける。

●primary endpointはランダム化後3~6.5ヶ月の期間の、respiratory adverse effects(COPD増悪、頻呼吸、wheezing、気管支炎の悪化、呼吸困難の悪化、インフルエンザ、肺炎、その他の呼吸器感染症、呼吸不全、治療が必要なairway effects)

 

結果

●82人がランダム化され、TLD群41人、シャム群41人。

●女性50%、平均年齢63.7歳、%FEV1 41.6%、mMRC 2.2、CAT 18.4。

●95%がoptimalな吸入治療を行われており、ICS/LABA/LAMAが約6割。

 

●ランダム化後3~6.5ヶ月の期間のrespiratory adverse effectsは、TLD群 32% vs シャム群71%(OR 0.19, 95%CI 0.075-0.492)

●ランダム化後0-12.5ヶ月の期間の、入院が必要なCOPD増悪は、TLD群で有意に少なかった(time-to-first-event analysis:HR 0.35, 95%CI 0.13-0.99)。1年のフォローアップでTLD群12%(5 of 41)、シャム群32%(13 of 41)。

 

結論

●適切な吸入治療に加えてTLDを実施することで、有症状のCOPD患者の呼吸器イベントを減らすことができる。COPD増悪による入院も減少した。