結核―Review
Tuberculosis
Seminar
Lancet 2019;393:1642
Epidemiology, pathogenesis, and risk factors
●WHOの推計では2017年の新規発症は1000万人、うち870万人は結核がhigh-burdenな30ヶ国に住んでいる。640万人で診断および届出がなされており、130万人は死亡している。
●多くの高所得国ではincidenceは10万人あたり10人以下。high-burdenな30ヶ国はほとんどがlow-incomeおよびmiddle-incomeで、発生率は10万人あたり183人。上位8ヶ国で計算すると400人を超える。
※日本(2016年)は13.9。大阪22(大阪市32)、東京17。
●世界全体のincidenceは毎年1.6%ずつ低下傾向にあると推定されているが、これはWHOのEnd TB Strategyの目標である年4-5%の低下には程遠い。一方mortalityは毎年4.1%ずつ低下している。Global Burden of Diseasesによる1990-2016年のデータ(Lancet Infect Dis 2018;18:1329)によると、現在の傾向がこのまま続いた場合、UN Sustainable Development Goalの掲げる目標(2030年までに結核のepidemicを終わらせる)が達せられる国々はほとんどない。
●耐性結核は増えている。毎年世界で50万人以上がリファンピシン耐性結核を発症しており、2017年のデータでは160684人がdiagnoseまたはnotifyされ、うち139114人だけが治療を開始された。リファンピシン耐性結核を速やかに診断・治療しなければ、今後結核の発生率が増加するという推計がある。ロシア、ミャンマー、中国、南アメリカなどでは特に重要である。
●現在全世界で17億人の人が結核菌にinfectedと推計されるが、このうちactive tuberculosisを発症するのは一部である。classicalなモデルであるlatentかactiveかだけでなく、ホストと病原体の複雑なdynamicsによりスペクトラムを示すのが結核の特徴である。
●患者個々人でも結核に対する免疫反応は変動する。Granulomasなどでの局所の免疫反応も、systemicな反応と同じくらい重要ということもわかっている。大量の結核菌に暴露されても感染が成立しない人がいる一方で、少量の暴露でも簡単に感染が成立する人もいる。
●耐性結核の患者は、多くが初めから耐性株に感染している。アドヒアランス不良は、他の要素(血中濃度が不十分、肺組織でのdrug gradients、細菌表面におけるefflux pumpsなど)に比較すると、菌の耐性化の原因としては弱い。
●結核菌に新規に感染した患者は、感染後最初の数年several yearsが、発症するリスクの最も高いタイミングだと考えられてきたが、historical dataの検討によれば結核発症のincubationは24ヶ月程度であった。つまり、結核暴露を受けた人に早期に介入することで、発症をより効果的に予防することができるかもしれない。
●socioeconomic-statusが低い人たちは結核発症リスクが高い。結核がlow-burdenな国では、生活の質の向上に伴って結核のmorbidity/mortalityが低下したケースもある。
Diagnosis
●胸部X線検査において、computer-aidedな結核検索の手法が注目されている。
●結核菌が分裂する際にshedされるタンパクやbyproductsのうち、lipoarabinomannan(LAM)があり、尿中LAMをpoint-of-careでみることが期待されている。最初の臨床応用(BMC Infect Dis 2012;12:103)では感度が低く期待されたほどではなかったが、CD4<200のHIV患者で播種性結核の検索のために用いたところmortality改善に有用であった(Lancet 2016;387:1187)。コストの点でも有用であったとの報告もある(Lancet 2018;392:292)。WHOの推奨では、HIVでCD4<100、重症例、入院例での使用が記載されている。
●その他さまざまなバイオマーカーが開発中だが、商用化される予定のものはない。
●分子的な検査手法が結核菌の存在および耐性の確認のために用いられている。
●Xpert MTB/RIF(Cepheid, CA, USA)はリファンピシン耐性の原因となる変異を確認できる。Xpert MTB/RIF Ultraは培養と同様の感度で結核菌を検出できるほか、リソースが少なくて済み、結果も早く出る。ただし特異度はやや低い。Xpert XDRはイソニアジド、注射薬、フルオロキノロンの耐性を検出することができ、2019年には商用化される見込みである。近年、Cepheid社はポータブルのGeneXpert Edgeなどを開発し商用化を目指している。
●その他のgenotypic testsにはRealTime MTB(Abbott)、FluoroType MTBDR(Hain Lifescience)、BD MAX MDR-TB(Beckton)、Truenat MTBなどがある。
●whole-genome sequencingは耐性の検索にもよく用いられるようになっている。Genotypeとphenotypeの理解が進み、今後の有用性が期待される。またアウトブレイクの検討にも用いられ始めている。
●Latent tuberculosis infectionには主な検査2つが用いられている(tuberculin skin test(TST)とinterferon-γ releases assay(IGRA))。どちらもlatentとactiveの区別はできない。Immunocompromisedなホストでは感度が低いことが問題である。またどちらもactiveな感染症の発症のpredictive valueは低い。Online TST/IGRA Interpreterなどは有用かもしれない。
●C-Tb(Statens Serum Institut)はより結核菌特異的なESAT-6とCFP10抗原を利用した皮膚テストで、TSTと同様に安全で、IGRAと同様のaccuracyがあるとされている。
Treatment
●bedaquilineとdelamanidの登場により(特に耐性の)結核治療に変化がみられている。
●pansusceptibleな結核の治療は大きな変化はない。4剤を2ヶ月、2剤を4ヶ月。ただし、2014年の研究では、hard-to-treat phenotype(塗抹菌量が多い、空洞ありなど)では6ヶ月では不十分かもしれないと結果が出ている。
●dailyの治療は週3回の治療よりも治療効果が高そう。
●high-doseリファンピシンやフルオロキノロンを使用することで治療期間を短縮する試みがある。High-doseリファンピシンは有望だが、フルオロキノロンはいまいち。治療期間短縮のために、リファペンチン、クロファジミン、新規薬のPA-824(pretomanid)も検討されている。
●イソニアジド耐性結核は最も頻度の高い耐性結核で、様々な治療が試みられている。2017年のメタアナによると、治療レジメンは非常に多様であったが、フルオロキノロンを含むレジメンのアウトカムがよかった(Lancet Infect Dis 2017;17:259)。WHOもINH耐性結核ではフルオロキノロンの使用を勧めているが、最適な治療方法は検討の余地があるとしている。
●リファンピシン耐性の結核も徐々に増えているようである。bedaquilineやdelamanidの登場や、linezolid、clofazimineの再検討によって、リファンピシン耐性結核の治療は変化している。WHOは、大部分のリファンピシン耐性結核はall-oralの治療が推奨されるとしており、また治療期間を従来の18-24ヶ月から9-12ヶ月とするレジメンがroll outされている。
●bedaquilineは2013年に初めてWHOに推奨された薬剤で、これまでのデータでは治療成功は75%を上回る。通常bedaquilineが投与されるのは多剤耐性結核の患者であり、この治療成功率は特筆に値する。南アフリカの大規模なレトロの研究では、高い治療成功率と死亡率低下が示された(Lancet Respir Med 2018;6:669)。Bedaquilineとinjectable drugの比較では、bedaquiline群で治療成功が有意に多く、またbedaquiline投与の遅れが死亡率と関連していた(Clin Infect Dis 2018; online Aug 28)。これら試験ではbedaquilineは24週の投与がなされていたが(エンドポイント判定を早めるため)、ふつうの臨床では長期間投与されることが見込まれる。フランスでの長期間の投与の検討では安全性に問題はなかった(Eur Respir J 2016;49:1601799)。BedaquilineはWHOでもリファンピシン耐性結核治療のcore drugとして推奨されている。感受性の結核の治療でも試験が行われている(SimpliciTB trial)。
●delamanidは2014年にWHOで推奨された新規薬剤である。多剤耐性結核治療において、従来治療にdelamanidかプラセボを上乗せして比較したRCT、phase 3 trialでは、24週間の治療で喀痰培養陰性化までの時間は有意差はつかなかった(missing dataを除外すると差はついた)(Lancet Respir Med 2019; online Jan 7)。
●pretomanidはニトロイミダゾール系の新規薬剤である。SimpliciTB trialとNiX-TB trialが行われている。後者はシングルアームで高度の耐性結核において、高用量リネゾリド(1200mg)、bedaquiline、pretomanidが併用され、75例中89%がcureを達成した。
●他にも新規薬剤はいくつか開発されているが、資金不足、試験に時間がかかるなどの理由で研究の進行は遅い。
●リネゾリドは二つのランダム化試験で効果が示されており(NEJM 2012;367:1508、Eur Respir J 2015;45:161)、また多剤との併用での試験も行われている。骨髄抑制、視神経炎、末梢神経炎などの副作用は懸念されるが、例えば投与間隔を毎日から隔日にしたり、2-3ヶ月経ったところで終了したりといった投与方法が検討されている。Oxazolidinoneとしてsutezolidも開発されている。
●clofazimineはRCTでリファンピシン耐性結核への有効性が示されている。また感受性のよい結核の、治療期間を短縮する目的でも検討されている。
●Lancet 2018;392:821は12500例のRFP耐性結核のデータを集めたメタアナで、いくつかの予想されなかったアウトカムが得られた。一つはよく用いられる薬剤、カナマイシン、カプレオマイシン、ピラジナミド、イチオナミド、パラアミノサリチル酸は治療アウトカムを悪化させるという結果であった。もしかすると毒性の問題かもしれない。またbedaquiline、linezolid、第3世代フルオロキノロンを含むレジメンは死亡率がよかった。各薬剤について、耐性がドキュメントされたものは、投与してもベネフィットがないということも示された。
●WHOの耐性結核治療2018 updateでは、RFP耐性結核の患者のmajorityはall-oralで治療されるべきで、使用薬剤にはbedaquiline、linezolid、第3世代フルオロキノロン、clofazimine、cycloserineが含まれるとした。これまでcore drugとされていた注射薬の優性順位は下がった。
●RFP耐性結核の治療期間を短縮する試みもある。Bangladesh regimen(AJRCCM 2010;182:684)は9-12ヶ月のレジメンであるが、複数の観察コホート研究で有用性が示されている。Phase 3試験(STREAM 1試験:カナマイシン、イソニアジド、ピラジナミド、エタンブトール、モキシフロキサシン、クロファジミン、エチオナミド併用)は、18-24ヶ月の治療と比較し、primary outcome(132週時点での培養陰性)については非劣性であったが、死亡率や再発リスクは高かった(NEJM 2019;380:1201)。WHOはこのレジメンを2016年のupdateで推奨し、2018年のupdateでも推奨を維持したが、各薬剤に耐性がないこと、bedaquilienやlinezolidを含むレジメンより効果が劣る可能性をコメントしている。また、カナマイシンは長期使用による聴力障害が問題となる。注射薬をbedaquilineに置き換えたSTREAM 2試験が行われている。
●現在の結核治療は感受性を基に行われているが、疾患の重症度や様々な背景により、薬剤の種類や投与期間は変更させたほうがよい場合がある。小児の非重症RFP耐性結核での9-12ヶ月の治療や、感受性のよい肺外結核での12ヶ月の治療などはすでに標準治療である。また感受性のよい結核では、空洞病変のある例や塗抹陽性が2ヶ月以上遷延する例では再発リスクが高く(Thorax 2019;74:291)、耐性結核でも同様のデータが報告されている(Int J Infect Dis 2018;3:65)。小児、HIV、糖尿病、その他合併症を有する患者でも治療方法や期間を調整する必要がある。
Support for successful outcomes
●directly observed therapy(DOT)は歴史的によく用いられている。異なるサポートアプローチをまとめてDOTと呼ぶことがあるため、DOTの有効性自体には研究によって様々な報告がある。最近は電話やスマートフォンを用いた手法が用いられている。
●WHOのEnd TB Strategyの最初のpillarはpatient-centred careであるが、明確な定義や手法は定まっていない。社会・経済的サポートは重要で、近年conditional cash transfer programmes(条件付現金給付)が結核の死亡率低下に寄与したとの報告もある。
Prevention
●BCGワクチンは小児の重症・播種性結核を防ぎ、感染を30%減少させ、成人についてもいくらか予防効果がある。長期の予防効果はないと考えられている。最近ではBCGワクチンの肺内投与が注目されている。
●新規ワクチンM72/AS01Eは結核感染のある成人において活動性結核発症を50%減らしたと報告され、より大規模な試験の実施が検討されている(NEJM 2018;379:1621)。
●結核感染に対する治療としては、4ヶ月のRFPが9ヶ月のINHと比較して同等で(NEJM 2018;379:440)、安全性にも問題なかった(同号454)。耐性への懸念は残る。
●12週間の高用量INH+高用量rifapentine週1回は安全性が示され、2歳以上の小児で用量がestablishされている。またHIV患者では9ヶ月INHと比較して1ヶ月INH+rifapentineがmight be as effectiveであるとpreliminary dataで示されている。WHOはINH6-9ヶ月、daily RFP 4ヶ月、daily RFP+INH 3ヶ月、weekly INH+rifapentine 12週のいずれかを推奨している。
●RFP耐性結核に暴露された人においては選択肢が少ない。フルオロキノロンをベースとした複数の薬剤を使用する方法がある。メタアナラシスでは90%の発症予防の報告があり、コスト的にも有効であったとの報告もある。現在、レボフロキサシンやdelamanidを使用したレジメンが検討されている。