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医師の自学自習のためのブログ

破傷風―Review

Tetanus

Seminar

Yen LM, Thwaites CL. Lancet 2019;393:1657

 

Introduction

  • 破傷風tetanusは芽胞形成性spore-formingの細菌のClostridium tetaniが産生する神経毒を原因とするvaccine-preventable diseaseである。C tetaniの芽胞は世界中の環境中に存在し、外傷、minor abrasions、新生児ではumbilical stumpを汚染する。芽胞は嫌気環境でvegetative bacteriaとなり、tetanus toxinを産生して破傷風を引き起こす。
  • すべての哺乳類が発症しうるが、ウマ、類人猿は肉食動物よりsusceptibleである。
  • low-income, middle-incomeな国々ではcommon。High-incomeな国ではrareだが重要。環境中に存在する菌であるため、目標はeradicationではなく、ワクチン接種の徹底によるeliminationである。

 

Epidemiology

  • low, middle-incomeな国ではサーベイランスが確立しておらず、正確なdisease burdenは不明だが、破傷風による死亡の79%はアジアとサブサハラのアフリカで発生しているというデータがある(2015年)。
  • 新生児破傷風neonatal tetanusの疫学データは、破傷風のデータの中ではaccurateである。2015年のデータでは新生児破傷風の死亡数は年間34019件と推計され、これは1980年代の年間80万件の死亡と比較すると相当減っている。母体破傷風maternal tetanusについて信頼できるデータは乏しいが、1993年の年間死亡は15000-30000であり減少傾向とされる。

※用語

・Maternal tetanus:妊娠中、または妊娠終了(出産・流早産・中絶)から6週以内の破傷風

・Neonatal tetanus, suspected:出生3日~28日目の全ての原因不明の死亡、もしくは破傷風であったとreportされるがinvestigateされていないもの

・Neonatal tetanus, confirmed:出生2日目までsuck、cryが正常であったのに、3-28日目に正常なsuckが不可能になった、もしくはstiff、spasmが出現したもの。

 

  • 新生児期以外の破傷風について十分な報告システムやデータを管理している国は少ないが、大規模なグローバルケースシリーズによれば、成人の破傷風も依然として重大な問題である。
  • Global Burden of Disease surveyによると、2015年に破傷風死亡は推計値56743件あり、うち19937件は新生児であった。WHOの発表では同じ年の新生児での死亡は34019件。
  • low, middle-income countriesでも徐々にICUが整備され、mortalityは低下しているかもしれない。

 

  • UKでは2010-2014年にかけて年間2-7件が報告されている。
  • フランスでは2000-2014年の間に70人の患者ICUに入院、中央値80歳、10人(14%)が死亡した。
  • 日本は報告数が多く、2010-2016年に計499人が報告された。中央値74歳、34人(7%)が死亡した。
  • 高齢者はリスクが高いが、これは時間とともにワクチンによる効果が低下する、もしくはワクチン導入前の世代であるためと考えられる。ヨーロッパ6ヶ国の調査で、65歳以上の25%で抗体価がsubprotectiveであった。
  • 注射薬剤使用者がハイリスクであることは100年以上前から知られている。皮下注、筋注は嫌気性菌感染の原因となる。2003-2004年のUKで、注射薬剤(おそらく汚染されたヘロイン)によるoutbreakがあり、24人の破傷風が発生し、2人が死亡した。北米ではlow-purity black tar heroinが現在でも問題となっている。
  • USの破傷風患者における糖尿病合併の割合は、1995-1997年には2%、2009-2015年には13%。糖尿病患者では注射手技があるからかもしれない。非糖尿病患者よりも抗体価が低くなりやすいことも知られている。
  • 自然災害では、住環境の変化・ワクチン不足・外傷増加などにより破傷風が増える。2004年の津波後にインドネシアアチェでは1ヶ月で106人、2005年のKashmir地震後1ヶ月で139人、2006年のインドネシア・Yogyakarta地震後1ヶ月で71人の破傷風が報告されている。一方、2010年のHaiti地震の際には迅速に破傷風プログラムが実施され、破傷風は14件のみに抑えられた。
  • 紛争も重要な因子で、2000-2014年のパレスチナでは紛争が激化するほど、ワクチン接種が不十分になったことが報告されている。2016年には世界で4000万人が紛争による避難を強いられており、破傷風を含むVPDコントロールに影を落としている。例えば、デンマークへの亡命を希望する小児で適切にワクチン接種されていたのは60%であった。一方オランダへの亡命希望をする成人では98%がprotectiveな破傷風抗体価を持っていたというデータがある。

 

Immunisation

  • 破傷風感染は十分な抗体を誘導しない。予防には適切なワクチン接種が必要である。
  • 胎児には母体由来のIgGが移行する。
  • 破傷風の免疫はELISAによるIgG抗体価によって測定され、protectiveな抗体濃度のカットオフは0.1-0.2 IU/mLである。ただし低抗体価ではcross-reactivityがみられ、ゴールドスタンダードはmiceにおけるin-vivo neutralization assayである。
  • 2回目の破傷風ワクチンで2-4週以内に90%の接種者が免疫を得るが、ふつうはshort-livedである。3回目によって接種者のほぼ全員が免疫を得、少なくとも5年は有効。
  • 破傷風トキソイドワクチンは、単独monovalent、diphtheriaまたはreduced diphtheria toxoid contentとの二種混合bivalent、diphtheriaとwhole cellまたはacellular pertussisとの三種混合(DPT)、またhepatitis B、Hib、polioとの混合ワクチンも存在する。
  • primary seriesとして3回のDPT(DPT3)を生後2、3、4ヶ月で打ち、さらに4-7歳と15歳に追加接種を行うのがWHOの推奨である(Expanded Programme on Immunization)。UKでは計5回の接種を推奨。US(Advisary Committee on Immunization Practices (ACIP))やヨーロッパの一部の国では、上記に加えて2歳での追加接種を推奨している。
  • ガイドライン(Public Health England、CDC、WHO)ではワクチン歴が不十分な人や、sustained tetanus-prone woundsのある人にはブースターを推奨している。CDCのガイドラインでは、ワクチン接種が不十分な人について、woundsがdirtyだったり、C tetaniの芽胞を含む可能性のある物質で汚染されていたりするときには、抗毒素antitoxinを打つことが推奨されている。UKのガイダンスではハイリスクのwounds(外科処置が遅れる、devitalized tissueが広範囲にわたる、soilやmanureによる汚染が高度)では全例でantitoxinを推奨している。
  • protective antibodiesを測定する迅速検査があり、ELISAと比較して感度80-100%、特異度70-100%と報告されている。問診によるtetanus-prone woundsの情報よりもcost-effectiveであったという報告がある。
  • neonatal tetanusは母体へのワクチンによって予防できる。ワクチン歴が不十分な妊婦に対して、tetanus toxoidを4週あけて接種することが推奨される。さらに長期予防のために、3回目を2回目の半年後、4回目を5年後、5回目を10年後に打つとよい。母体へのワクチンにより、84%の新生児が破傷風からprotectされると推計される。

 

Global initiatives

  • 1988年のデータでは破傷風によるneonatal deathsが1000出生あたり6.7と非常に高く、World Health Assemblyによるelimination initiativeが始められた。2018年3月時点で、59ヶ国中45ヶ国でelimination status(1000出生あたり1件未満)を達成している。プログラムは清潔な出産環境、サーベイランス、ワクチンの3本立て。
  • Expanded Programme on Immunizationは1974年に始まり、破傷風ジフテリア、百日咳、ポリオ、麻疹、結核について1990年にはすべての小児でavailableになった。初期のDTP3は指標として重要で、2017年には世界の85%のinfantsがDTP3を受けている。

 

Pathophysiology

  • C tetaniは様々な動物の便から同定される。ヒトの便から検出したという報告もあるがconflictingである。
  • C tetaniの芽胞は傷口から侵入し、適切な嫌気環境下でgerminateし、vegetative bacteriaとなる。ゲノムは2799250塩基対の染色体と74082塩基対のプラスミドからなる。染色体にはadhesionやlipid or amino acid degradationに関与する遺伝子(例えばhaemolysinであるtetanolysin)がのる。Tetanus toxinはプラスミド上に存在する。Tetanus toxin遺伝子がどの程度発現するかは、環境シグナルと内因的な制御因子の双方が複雑に関与する。
  • tetanus toxinは非常に強力な神経毒である。合成された単一ポリペプチド鎖(1315アミノ酸)のタンパクは不活性だが、翻訳後のmodification(457Alaから461Aspまでの限定分解)を受けてC末端側の100kDaの重鎖H(857アミノ酸)とN末端側の50kDaの軽鎖L(449アミノ酸)がdisulphide bondで結合する構造となる。重鎖にはさらに受容体との結合に関与するC末端側(HN)と細胞内移行に関与するN末端側(HC)がある。なお、以上の構造名称はボツリヌス毒素に準じたもので、1987年国際破傷風会議による提唱では、軽鎖をFragment A、重鎖N末端側をFrg B、C末端側をFrg Cとしている。
  • toxinは神経筋接合部のpresynaptic membranesに結合する。受容体はいまだ不明。脂質ラフトやクラスリン依存的なエンドサイトーシスが知られる。微小管を通じてaxon内を逆行性に輸送され(retrograde transportation)、さらにシナプスを越えてシナプス前部に達する(transcytosis)。上位抑制性ニューロンに達した毒素の標的タンパクはvesicle-associated membrane protein 2 (VAMP2; synaptobrevin-2とも)である。これはsoluble NSF attachment protein receptor (SNARE) complexを形成するもので、シナプス小胞のdockingとneurotransmitter releaseに必要なものである。VAMPが分解されることで抑制性シナプスにおけるカルシウム依存性exocytosisが阻害され、スパズムやテタヌスが出現する。
  • ボツリヌス毒素(Botulinum neurotoxin B)もVAMP2を分解するが、この毒素は末梢神経にも残存するため、ボツリヌスでは弛緩性麻痺が出現する。
  • 破傷風毒素は、中枢神経のexcitatory synapsesにも活性があり、sympathetic adrenergic neuronsにも作用し、自律神経の異常もきたす。

 

Clinical features

  • 破傷風菌はminorな皮膚の傷から侵入するが、20-50%では明らかなエントリーがわからない。新生児では臍、1ヶ月以上の子供では中耳炎が侵入門戸となりやすい。妊婦、貫通性の外傷、注射薬物使用者の破傷風は重症化しやすい。また進行の早いケースでは重症化しやすい。
  • incubation period(ケガから最初の症状出現まで)が7日未満、period of onset(最初の症状から最初のspasmまで)が48時間未満のケースでは予後が悪いことが知られ、さらに最初の症状出現から入院までの時間や、入院時にspasmがすでにあることは、予後不良因子として重要である。
  • Ablett classification of tetanus severityは広く用いられているスコアリング。Spasmsや自律神経障害の有無によって判断するもので、予後予測をするものではない。
  • 破傷風のspasmは全身性generalized、localized(四肢のみ、頭頚部のみ(cephalic tetanus))などがある。局所のspasmは毒素の量が少ないか、もしくはgeneralized出現の前触れかもしれない。
  • spasmは聴覚auditory、触覚tactile、視覚visualな刺激によって誘発される。
  • trismus(lockjawとも。日本語では牙関緊急。単に開口障害など)、痙笑risus sardonicusは顔面筋のspasmsによるもので、破傷風の初期症状である。Dysphagiaを伴うことが多い。咽頭喉頭のspasmsは、発症早期に起きることがあり、誤嚥・窒息の危険がある。Cephalic tetanusでは、症状は頭頚部に現れ、脳神経麻痺をきたす。Generalized tetanusは、localized tetanusより頻度が高い。初期にはmuscle stiffnessが出現し、prolonged and painful muscle spasmsに進展する。Extensorのspasmsが強く、特徴的な後弓反張opisthotonusを示す。腹部筋のrigidityも特徴で、spasmsにより腹部のtoneは増強する。
  • 重症破傷風では自律神経も影響を受ける。高血圧と頻脈は多く、また血圧のfluctuationsや徐脈も起きうる。他の重症疾患と比較して、アドレナリン、ノルアドレナリン量が高い。腸管、膀胱機能、気道分泌の増加の管理も必要である。

 

Diagnosis

  • 臨床所見・症状による。Toxigenic C tetaniは破傷風ではない患者の傷口からも培養されるため、傷口の培養は参考所見に留まる。破傷風の抗体が防御レベルに達していれば発症はrareであり、破傷風疑い患者の血清抗体がELISAで0.1 IU/mL以上であれば、破傷風はunlikelyである。Bioassayによる血清中のtetanus toxin検出が可能で、抗体価の低い患者であれば有用かもしれない。ただしtetanus toxinが陰性でも除外はできない。
  • mildまたは局所の破傷風では診断は難しい。trismusを呈する患者では、喉頭・口腔・下顎の疾患が鑑別に挙がる。全身性破傷風であれば、strychnine中毒、フェノチアジン・メトクロプラミド中毒におけるジストニアなど。

 

Treatment

  • リソースの乏しいsettingでの発生が多く、適切な治療の検索はそもそも困難である。
  • 傷口は入念に洗浄・デブリする。
  • 2009年のベトナムでの45のC tetani株、および2015年の5つの株では、in vitroにおいてペニシリン、メトロニダゾールへの感受性は保たれていた。2つの症例で、16日間のペニシリン治療にも関わらず培養が陽性になった症例報告があり、傷口のデブリの重要性を強調している。
  • optimalな抗菌薬治療を検討した2つの報告がある。

インドネシア。オープンラベルで173症例をランダム割付。7-10日間、①procaine benzylpenicillin(150万単位8時間毎)vs②メトロニダゾール(500mg 6時間毎内服または1000mg 8時間毎経直腸)。死亡率が①で24%(18/76)、②で7%(7/97)(p<0.01)。

・①benzathine benzylpenicilline 120万単位1回筋注、②benzylpenicillin 200万単位4時間毎10日間、③メトロニダゾール600mg 6時間毎経腸管10日間。死亡率が①で46%(26/56)、②で35%(19/55)、③で44%(22/50)だった。

  • 抗毒素は20世紀前半から使用されていた。当初はhyperimmunisedされたウマから採取したequine heterologous immunoglobulin preparationのみが使用可能だったが、現在では献血血から分離されたhuman tetanus immune globulinが使用できる。
  • 抗毒素のランダム試験は乏しいが、ウマ抗毒素の動物実験およびRCTでは死亡率低下に有用とされている。新生児破傷風のランダム試験では低用量筋注antitoxin 250 IU使用では71.5%(40/55)が死亡、antitoxin不使用では81.8%(45/55)が死亡した。大規模ケースシリーズでは、antitoxin使用群が不使用群より死亡率が低かったが、ウマ由来かヒト由来かでは差は見出されなかった。
  • ヒト由来の抗毒素のほうが半減期が長く、過敏症も少ないためウマ由来の免疫グロブリンより有益な可能性がある。ただし高価で手に入らない国もある。
  • 途上国では抗毒素は筋注で投与されることが多い。アメリカでも筋注が承認されている。UKでは、治療では静注、予防では筋注がPublic Health Englandによる推奨となっているが、現在静注用が品薄であり改訂も検討されている。
  • 抗毒素の投与量は、各国によって推奨量が異なる。UK、アメリカのガイダンスでは以前の推奨量よりも少ない量が記載されている(500 IU。以前は3000-6000 IU程度)。これは、予防投与による防御的血清抗体titreの研究の結果である。
  • 抗毒素の髄腔内投与は古くから検討されている。1970-1980年代には15のランダム試験が行われ、多くは死亡率において有用であったが、バイアスが多かった。2つのメタアナは死亡率について異なる結論に至っている(JAMA1991;266:2262、Trop Med Int Health 2006;11:1075)。
  • ベンゾジアゼピンはγ-aminobutyric-acid type A receptorアゴニストで、spasmコントロールの第一選択である。安価で手に入りやすい。コクランレビュー(CD003954)によると、ベンゾについて検討した研究は2つしかない。ベンゾの代謝物の半減期は長く、paralysisや人工換気なしにspasmをコントロールできる薬剤があるとよい。
  • バクロフェンはselective γ-aminobutyric-acid type B receptorアゴニストで、代用薬として検討されている。血液脳関門通過割合が小さく、内服では有用性は小さい。RCTは行われていないが、バクロフェンの髄腔内投与についてはいくつか報告がある。
  • 硫酸マグネシウムはカルシウムのアンタゴニストとして働き、spasmの軽減や自律神経症状を改善させる可能性がある。3つのRCTが行われている。ベトナムの195患者の検討では、人工呼吸を要する患者を減らしはしないものの、ミダゾラムや神経筋のblocking agentsの必要量が減った。ナイジェリアの42患者では、ジアゼパム硫酸マグネシウムを比較し、死亡率やspasmの頻度・持続時間には差がなく、マグネシウムでは入院期間が短くなる傾向があった。パキスタンの36患者では、マグネシウムジアゼパムが検討され、マグネシウムで人工換気の減少、コントロール不能のspasmの割合が減った。
  • 気道の確保は重要で、気管切開tracheostomyが行われることが多い。破傷風における人工呼吸器関連肺炎は全体の死亡率には影響がないが、入院期間、ICU滞在期間に影響したというデータがある。

 

Prognosis

  • 新生児の長期の予後をみた研究があり、頭径、hand-eye coordination scores、neurodevelopmental delayに影響する。
  • フランスのICUに入室した70の成人破傷風患者では、年齢中央値は80歳だったが、ICU退室時の死亡率は13%、1年後は16%、5年後は61%だった。
  • 平均1385日のフォローアップで、61%はfunctional statusに影響はなく、17%はlong-term care facilityに入った。
  • 途上国のデータは乏しいため、多くの患者の長期予後は不明である。