MED INFO

医師の自学自習のためのブログ

ペニシリンアレルギーの評価と対応―Review

Evaluation and Management of Penicillin Allergy: A Review

Shenoy ES, et al. JAMA 2019;321(2):188-99

 

●抗菌薬投与の多くが不適切な使用であり、耐性やClostridium difficileCD感染症を含む副作用の原因となる。WHOCDCPresident’s Council of Advisors on Science and TechnologyPresident’s Advisory Council on Combating Antibiotic Resistant Bacteriaはすべて、不適切な抗菌薬投与を削減するために声明を出し、公衆衛生と患者安全のための取り組みの重要さをunderscoreしてきた。

●抗菌薬選択にあたって薬物アレルギーを考慮するが、ペニシリンアレルギーは重要である。アメリカ国内では3200万人がペニシリンアレルギーとdocumentされている。しかしながら、アナフィラキシーの原因となる真のIgE-mediatedのアレルギーの頻度は不明で、アレルギーがあるとラベルされた人の95%以上は、ペニシリンtolerantと考えられている。こういった患者の多くで、本当にアレルギーがあるのか十分検討されない。ペニシリンアレルギーの疫学、臨床、ペニシリンアレルギーの有無の評価方法をレビューする。

 

Methods

AAAAIIDSASHEAが執筆に協力した。文献はPubmedを用いて、200511日から2018930日までの英文論文を検索した。検索ワードは、ペニシリン、βラクタム、抗菌薬……。関連するAAAAIIDSASHEAガイドラインも参照された。

 

Epidemiology

ペニシリンは過敏性反応(hypersensitivity reaction)をよく起こすとされるが、これはペニシリンが頻用されること、感染症と関連した薬剤の反応(EBウイルス感染時のアミノペニシリン投与による皮疹など)があることによる。ペニシリン投与の0.5-2.0%で過敏性反応に矛盾しない何らかの所見がみられる。皮疹は最も多いが、その多くは非アレルギー性である。IgE-mediatedペニシリンアレルギーは減少傾向にあり、もしかすると非経口のペニシリン投与の頻度が減っているからかもしれない。UK1972-2007年まで、経口アモキシシリンを投与された1億人中、アモキシシリンによるアナフィラキシーでの死亡は1件だけ確認されたという報告がある。

ペニシリンアレルギーであるとreportされた患者の多くは、electronic health record (EHR)に詳細な反応を記載されていない。「Unknown」がEHRにドキュメントされる最も頻度の多い反応で(26%)、ほかに皮疹38%hives18%、血管浮腫9%、消化管upset6%アナフィラキシー5%、かゆみ5%など。

●反応が臓器障害、もしくはsevere cutaneous adverse reactions (SCAR)に該当するblistering rash、その他溶血性貧血、腎炎、肝炎、発熱、関節痛などでなければ、何らかのアレルギー評価法が必要になる。重篤ペニシリンアレルギーを呈したことのない患者の95%以上がペニシリンtolerantである。というのも、(1)ペニシリンの過敏性反応で最も多く報告されるのは遅発性のrashで、これはtype IVのアレルギーであり、再暴露で再び出ることも出ないこともある、(2)IgE-mediatedペニシリンアレルギーは時間とともになくなることがあり、80%以上の患者では10年後にはtolerantになる、(3)多くの患者はアレルギーではなく、例えば合併したウイルス感染症による皮疹であることも多い。

 

Clinical Consequences

●治療薬選択について:βラクタム、特にペニシリンとセファロスポリンは多くの感染症で用いられ、アレルギーがあるとラベルされてしまうと、代替薬を使われる。例えばMSSAバンコマイシンを使ったり、グラム陰性菌菌血症でセファロスポリンを使わなかったりといった対応である。

●抗菌薬予防投与について:歯科治療時の心内膜炎予防ではアモキシシリン、手術部位感染(SSI)予防の周術期抗菌薬予防投与ではセファゾリンがよく用いられる。βラクタム以外の抗菌薬による周術期予防投与はSSIのリスクを上昇させるという報告がある。

ペニシリンアレルギーがあると、広域抗菌薬を投与されやすく、CD感染症MRSAVREのリスクを上昇させる。ペニシリンアレルギーの評価を行い、可能であれば広域抗菌薬からより狭域の抗菌薬に変更することで、耐性菌のリスクを下げるであろう(臨床的なデータはないが)。

ペニシリンアレルギーは医療コストを増加させる。ペニシリンアレルギーの評価を行い、アレルギーがあるというラベルをはがせれば、より安い抗菌薬を用いることにつながる。といっても、ペニシリンアレルギーの評価をきちんと行うことが、医療費の削減につながるというデータはまだない。

ペニシリン代替薬による副作用の問題もある。バンコマイシンによる腎障害、DRESS症候群、クリンダマイシンやフルオロキノロンによるCD感染症など。

 

Methods for Clinical Evaluation of Reported Penicillin Allergy

●アレルギーが出たという病歴を正確に把握することが重要である。EHRにおいて詳細にデータを記載されている患者ほど、βラクタムをより多く投与されているというデータもある。効果的な病歴聴取の手順、統一されたリスク評価法はない。サプリメント2にツールキットを載せている。

●薬剤に対する過敏性反応はGell and Coombs classificationで分類される。薬剤による皮疹には3つのカテゴリーがあることを理解するとよい。(1)IgE-mediatedの皮膚反応(蕁麻疹など)、(2)良性のT cell-mediatedの皮膚反応、(3)SCARFigure 1)。

SCARに矛盾がなければ、溶血性貧血、臓器障害(急性間質性腎炎など)、薬剤熱の有無などによって、リスクの層別化を行う(Table 3)。これを見て、そのまま被疑薬を投与してもよいか、皮膚テストやチャレンジテストを行うか評価する。蕁麻疹をbenign rashと区別するのは難しいことが多く、nonsevere cutaneous eruptionsのリスクをmoderateと評価するのが妥当かもしれない。リスクがlowとなっても、全身状態が安定しないとき、妊婦などでは、少なくともmoderate以上と見積もるのがよいだろう。

●薬剤アレルギーの既往歴がある患者はない患者よりも過敏性反応が出現するリスクが高い。βラクタムによる何らかの反応が出る頻度は、ベースラインで2.0%ペニシリンアレルギーの既往歴がある患者では、チャレンジテストの際にプラセボに反応することがある=nocebo effect。これはチャレンジテストを行った患者の10%に出るという報告がある。慢性蕁麻疹のある患者では、免疫学的なペニシリン過敏性のリスクは上がらない。

low-riskの対応

ペニシリンアレルギーのlow-riskとは、①アレルギーとは限らない単独の症状(消化管症状のみなど)、②家族歴のみ、③pruritus without rash、④昔(10年以上前)の詳細不明の反応。ペニシリンアレルギーとドキュメントされている人のほとんどはlow-riskにあたる。①②の患者は、患者が希望すれば観察下にアモキシシリンを投与、③④の患者では、原則観察しながらアモキシシリンを投与する。

●チャレンジテストを行う際には、十分なインフォームドコンセントと緊急処置の用意が必要である(Figure 2) 。

●アレルギーの専門家はIgE-mediatedの有無を確認するためにチャレンジテストを行うことがある。ペニシリンアレルギーについては、250mgのアモキシシリンを投与し、1時間経過を見ればペニシリンtoleranceを示せる。専門家によっては、アモキシシリン投与量は治療量と同等の500mgにすべきとしている。アモキシシリンに対してtoleranceを示せれば、将来ペニシリン系抗菌薬をすべて使用できる。アミノペニシリン(アンピシリン、アモキシシリン)に対する選択的なアレルギーもあるため、ペニシリンによるチャレンジテストは勧められない。

402人の若年軍人でペニシリンアレルギーがあるとreportされた患者にチャレンジテストを行わったところ、真のペニシリンアレルギーがあると証明されたのは、1.5%であった。別の研究で2.6%というデータもある。

moderate-riskの場合

●蕁麻疹やその他のpruritic rashesIgE-mediatedに特徴的な反応が出ているが、アナフィラクティックな反応がないときはmoderateである。妊婦や状態が悪い患者ではhigh-riskと考えたほうがよい。

ペニシリン皮膚テストを考慮する。担当する医師・看護師には十分な知識とトレーニングが必要である。州によっては薬剤師も行えるところがある。テストはstep-wise skin-based evaluationを用いて行い、薬剤が皮膚にスクラッチまたは皮内注射されたあと15分後の結果を解釈する(supplement)。皮膚テストで陽性ならチャレンジテストは行うべきでない。皮膚テストの陰性的中率は95%以上であり、内服アモキシシリンのチャレンジテストと組み合わせれば100%に近づく。

high-riskの場合

アナフィラキシーを含めhigh-risk反応を起こしたことのある患者、皮膚テストが陽性、繰り返すペニシリンへの反応、複数のβラクタム薬へのhypersensitivityの既往がある場合は、アレルギーの専門家により評価されるべきである。急いでペニシリン薬を使いたい場合には、脱感作desensitizationが有効かもしれない。

●脱感作は重症のhypersensitivityを起こしたことがあるものの、その薬剤が必要と考えられる患者に考慮される。あるいは皮膚テストができない患者、全身状態がよくなくアナフィラキシーを起こしたくない患者、皮膚テストが解釈不能であった患者でも。脱感作はペニシリンが他薬剤よりも有用であるときに考慮する。

(脱感作の詳細は記載なし)

 

Other β-Lactams and Cross-reactivity

●セファロスポリンアレルギーはUSでも増えており、2%の患者でアレルギーがあるとリポートされる。周術期に特に問題となる。カルバペネム、モノバクタムのアレルギーはuncommonである。

ペニシリンとセファロスポリンの交差反応は2%に起きる。以前の報告8%よりは少ないとされる。ペニシリンアナフィラキシーを起こしたことのあるような患者では、セファロスポリンに対しても40%の交差反応を示すが、これはほぼアミノセファロスポリン(側鎖R1グループが同じ)に限られる。セファゾリンはユニークな側鎖を持っており、ペニシリンへの交差反応はvery lowペニシリンとカルバペネムの交差反応は1%未満、モノバクタムとは交差反応はない。

ペニシリンアレルギーがあるとリポートされている患者でβラクタムを使えるかどうか判定するアルゴリズムもあるが、皮膚テスト、チャレンジテストを行って、ペニシリンアレルギーがあるかどうか調べるのが最もシンプルな手法である。ペニシリンアレルギーの証拠がないなら、交差反応が起きる可能性はirrelevantと考えてよい。

 

Implementation Across the Care Continuum, and Special Populations

ペニシリンアレルギーがあるかどうか、抗菌薬を使いたいタイミングにおいてだけでなく、それ以外の日常的なケアの間にも検討すべきである。

●年間26000万コースの抗菌薬投与が救急現場で行われている。全ての救急患者の10%は抗菌薬投与を受け、このうち61%は広域抗菌薬である。歯科医は年間2500万件の抗菌薬を投与している。救急現場での抗菌薬スチュワードシップで重要なことは、不必要な抗菌薬投与を減らすことと、抗菌薬選択を改善することである。救急現場は、ペニシリンアレルギーを評価するのによい機会である。重篤でない患者も多く、抗菌薬投与を必要としない患者も多いからである。

●急性期病棟患者の半数以上が抗菌薬を投与される。ペニシリン皮膚テストプログラムを行うことで、より狭域の抗菌薬を選択できるかもしれない。入院期間の制限や、ほかの検査の都合でペニシリン皮膚テストを行えない場合は、graded challengeを考慮してもよい(supplement 2)。この試験の後に、ペニシリンアレルギー評価に進むことで、ペニシリンアレルギーがあるというラベルを取り除けるかもしれない。

●術前抗菌薬はセファゾリンがよく用いられるが、ペニシリンアレルギーがあるとリポートされると、クリンダマイシンやバンコマイシンなどの代替薬が用いられる。これらはSSI予防などの観点から劣り、CD感染症のリスクも上げるかもしれない。バンコマイシンの場合は投与時間の制限もあり、十分な組織濃度が獲得できないかもしれない。300人のlowまたはmoderate-riskペニシリンアレルギー既往の患者にセファロスポリン(多くがセファゾリン)を投与したところ、1人だけが過敏性反応と疑われる反応を起こした。

●小児に多い中耳炎や咽頭炎ではペニシリンがよく用いられる。広域抗菌薬を用いても副作用が多くベネフィットもない。小児の場合は、ペニシリンへの過敏性反応があったとされたときから、それほど時間が経っていないが、多くはアレルギーではなく、感染症による皮疹であったり、感染症と薬剤の相互作用による皮疹だったりするのが普通である。2つの研究では、小児において、アモキシシリンチャレンジを行われた患者の94-100%ペニシリンtolerantであった。

●妊娠中の無症候性細菌尿・尿路感染では、アモキシシリン・セファレキシン1st lineである。ペニシリン+アミノグリコシドは絨毛膜羊膜炎でよく用いられる。妊娠中の梅毒でもペニシリンが使われる。ペニシリンアレルギーがあるというラベルは、帝王切開になるリスク、帝王切開後の創トラブル、入院期間延長のリスクを挙げる。皮膚テストは安全であるが、妊娠中に行われることは少ない。予定帝王切開B群溶連菌定着のある妊婦では考慮してもよい。

●長期間ケア施設にいる高齢者の50-80%が年間1コース以上の抗菌薬投与を受ける。ペニシリンアレルギーがあるとリポートされる割合は年齢とともに上昇する。高齢者ではペニシリンの代替薬で副作用が出る人も増える。CD感染症のリスクのほか、高齢者でもよく用いられるフルオロキノロンは、ワーファリン含め多くの薬剤と相互作用をきたす。

●担癌患者は予防および治療のため、その他の患者よりも多くの抗菌薬を投与される。また耐性菌やCD感染症などの合併症を起こしやすい。担癌患者のペニシリンアレルギーを正確に把握することは、length of stayなどのアウトカムを改善する可能性がある。抗がん治療を行っている患者でも皮膚テストは可能だが、nonreactive ヒスタミンの可能性が上がる。

●βラクタム薬は梅毒、淋菌治療の1st-lineである。性感染症クリニックを受診した患者の15%ペニシリンアレルギーがあるとリポートしたデータがある。多くの性感染症クリニックでは設備の点からβラクタム皮膚テストができないだろう。十分な治療が可能になるよう、スタッフの観察下で抗菌薬を投与することを進めるガイドラインもある。

 

Management of Drug Challenge Reactions

●チャレンジテストの反応としては、主観的な症状と、マイナーな皮膚反応(蕁麻疹や紅斑)である。軽い症状だけの場合は経過観察(Figure 3)、明らかな皮膚反応の場合は経過観察しつつ、必要なら抗ヒスタミン薬の投与を行う。びまん性の蕁麻疹ならアドレナリンも使用する。まれだが(<1 in 500)、アナフィラキシーを起こすかもしれない。アナフィラキシーでは症状、皮疹のほか、臓器障害が出現する。喘鳴、呼吸困難、咳、腹痛、下痢、嘔気嘔吐など。

 

After Negative Penicillin Allergy Evaluations

●アモキシシリンチャレンジでtolerateの場合、ペニシリンアレルギーがあるとのカルテ記録は消去されるべきである。患者も自分がペニシリンアレルギーはなく、ペニシリンが投与されてもhypersensitivity反応が出るリスクは高くならないことを教育されるべきである。財布に入るカードや、スマホのアプリケーションで、アレルギー情報を管理するよう勧める医療機関もある。アモキシシリンチャレンジ陰性はIgE-mediatedアレルギーをほぼ否定する。ただしチャレンジ陰性でも、軽微なrashなどは他の患者と同じように出うる。こうした軽微なものまで否定するには、比較的長い期間チャレンジテストを行うことが必要だが、抗菌薬適正使用の観点からは不適切である。

●電子記録(EHRs)には大量のアレルギー情報の入力が可能である。アレルゲン、反応とそのタイプ、日付、その他コメント。多くの記録はvague80%がアレルギーの詳細が記録されていない。医療者は詳細を記述するよう努める。

ペニシリンtolerateした場合はアレルギーありとの記録は抹消されるか、詳細をコメントされるべきである。例えばペニシリン皮膚テストが陽性、セファレキシンtolerate、など。せっかくチャレンジテストなどを行っても記録に残さなければメリットがなくなってしまう。テストされた5人に1人で、アレルギー記録が訂正されないというデータがある。

ペニシリンアレルギーの評価を行うことで、適切な抗菌薬選択ができるようになる。CDCや多くの学会でテストを推奨している。チャレンジテストの重要性は認識されているが、多くの臨床家はどのように実施すべきか知らない。実施の障害として、臨床家の知識とcomfortが知られている。専門家による教育、専門家の協力が必要である。