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医師の自学自習のためのブログ

ステロイド維持治療が難しければ、必要時シムビコートでもいいかもしれない

原著

Controlled Trial of Budesonide-Formoterol as Needed for Mild Asthma.

(New Engl J Med 2019, May 19)

Novel START trial

 

気管支喘息に対する治療では吸入ステロイドの定期吸入が必須。しかし「薬を続けるのはちょっと」というのは仕方ない。

そんな人にシムビコートをレリーバーとして使用するのはありなのかもしれない。

 


★それまでSABAしか使われていなかったmildな気管支喘息患者。1年以内の入院歴、重喫煙者などは除外。

★SABA単独、ステロイド維持+SABA、as-neededのシムビコートで1:1:1にランダム割付。オープンラベル。

★12ヶ月間観察。ただし重症発作があったり治療変更が必要であったりすれば中断。

as-neededシムビコート群では、SABA群よりも喘息発作が減った(0.195件/人年vs 0.400件/人年;RR 0.49)。ステロイド維持群とは有意差がなかった。

as-neededシムビコート群は、SABA群だけでなくステロイド維持群と比べても、重症発作が減った。

ステロイド維持群のほうが、as-neededシムビコート群に比べて、喘息症状は抑制されていた。

 


気管支喘息に対して吸入ステロイド薬を投与することで発作のリスクを減らせるが、推奨通り処方されていない場合が多い。医療者側のreluctance、患者側のreluctance(症状がmildあるいはinfrequent)がある。

●「吸入ステロイド+即効性β2アゴニスト」(シムビコート)をレリーバーとしてas-neededに使用するという方法がある。

●維持治療(maintenance)を行われていないmildな喘息に対して、budesonide-formoterol(シムビコート)をレリーバーとして使用する治療法のランダム化二重盲検・プラセボ比較試験が2つ行われた(SYGMA trial 1 and 2NEJM 2018;378:1865NEJM 2018;378:1877)。これらの試験は非常に限定的な対象について行われており、外的妥当性が低いとの指摘があった。すなわち、二重盲検のために12回吸入(プラセボでも)を12ヶ月求められたこと、低用量の吸入ステロイドやロイコトリエン拮抗薬使用者はこれらを中断させられたこと、SABAを週に2回以上必要な患者が対象であったこと、などである。

●今回の試験では、それまでSABAしか使用していなかったmildな喘息患者について、as-neededのシムビコートが、as-neededSABA、およびステロイド定期吸入+as-needed SABAよりも、喘息増悪抑制効果が高いかどうか検証した。

 

【方法】

ニュージーランドUK、イタリア、オーストラリアの16primary/secondary施設。

52週、ランダム化、オープンラベル、パラレル。アストラゼネカの資金提供あり。

●試験の詳細なプロトコルは公表済み(Eur Respir J 2016;47:981)。

 

患者

18-75歳、「医師から喘息と診断された」と自己申告すれば対象となる。

●過去3ヶ月に「喘息」に対してSABAのみが処方されており、過去4週間にSABAを計2回以上、かつ1日あたり平均2回以下使用している。ただし過去12ヶ月に重症発作がある患者ではSABAの最低使用量制限はなし。

●除外:過去12ヶ月に喘息で入院、喫煙歴(自己申告で20 pack-yearsの者。または10 pack-yearsの喫煙歴のあるcurrent/previous smokerで、呼吸器症状のある40歳以上の者)など。

 

割付・概略

1:1:1で割付。国別では均等になるように。

SABA群(albuterol group):albuterolVentolin, GSK; pressurized metered-dose inhaler)をas neededで使用。100 µg2/有症状時に。

ステロイド維持群(budesonide maintenance group):budesonidePulmicort Turbuhaler)を1200 µg12回で、albuterolas neededで。

as-neededシムビコート群(budesonide formoterol group):シムビコートをbudesonide 200 µg + formoterol 6 µg1回、as neededで。

●患者教育:発作時の対応、受診した際や全身ステロイド投与を受けた際に記録を残すこと、など。

inhalerには電子的なモニター機能が搭載された。

7visitあり。Weeks 0(ランダム化)、61222324252

1回の重症発作(severe exacerbation;ATS/ERSの基準あり―3日以上の全身ステロイド、入院、全身ステロイド投与を行った救急外来受診)、お互い7日以上あいた3回以上の発作、治療変更が必要なunstable asthmaの場合は中断。これらがなければ、全期間中フォロー。

 

アウトカム

primary outcome:発作の頻度(annualized rate of asthma exacerbations per patient)。発作の定義は、緊急に医療機関受診が必要な喘息症状の悪化、全身ステロイド投与が必要、高用量のβ2アゴニストが必要(24時間以内にalbuterol 16吸入またはシムビコート8吸入)

secondary outcome:発作回数、初回発作までの時間、発作の回数(=患者数)、試験中断者数、ACQ-5のスコア(5つの質問に0(よい)~6(悪い)の7段階のスコアをつける)、FEV1、呼気NObudesonide使用量、βアゴニスト使用量、経口ステロイド投与量、副作用。

 

統計

●省略

 

【結果】

20163月から20178月に675人がランダム化された。患者背景はTable 1

●過去12ヶ月に重症発作があったのは7.3%54%は過去4週間にSABAを週2回以下だけ使用していた。

 

アウトカム

●発作頻度は、シムビコート群vs SABA群でシムビコート群が優れていた(1患者・年あたり、0.195 vs 0.400件;RR 0.49 [95%CI 0.33-0.72], p<0.001)。シムビコート群vs ステロイド維持群では有意差なし(0.195vs 0.175件;RR 1.12 [95%CI 0.70-1.79], p=0.65)。Fig 1B

●この傾向は、試験が中断された患者について補正しても同様であった。

 

●シムビコード群はSABA群に比較して、初回発作までの時間が優れており、ステロイド維持群と比較して有意差がなかった。Fig 2A

●重症発作は、シムビコート群がSABA群にもステロイド維持群にも勝っていた。

●試験が中断された患者数は、シムビ群はSABA群より優れ、ステロイド維持群とは有意差がなかった。

 

ACQ5スコアは、全てのタイムポイントで、シムビコート群はSABA群よりは低く、ステロイド維持群よりは高かった。

FEV1は、全てのタイムポイントで、シムビコート群はSABA群ともステロイド維持群とも有意差がなかった。

12ヶ月時点でのFENOは、シムビコート群はSABA群よりは低く、ステロイド維持群よりは高かった。

 

budesonide使用量(mean±SD)はシムビコート群で107±109 µg/dayステロイド維持群で222±113 µg/dayTable 2

B群での12回吸入のアドヒアランス56%

●副作用はTable 3

 

Discussion

結果まとめ

as-neededシムビコート群では、SABA群よりも喘息発作が減った。

as-neededシムビコート群は、SABA群だけでなくステロイド維持群と比べても、重症発作が減った。

ステロイド維持群のほうが、as-neededシムビコート群に比べて、喘息症状は抑制されていた。

 

SYGMA trialよりも、実際の臨床に近い状況で行われた。

SYGMAではas-needed SABAよりもas-neededシムビコートが喘息発作を64%減らしていたが、本試験でもおおむね同じような結果であった。

●一方、SYGMAでは、as-neededシムビコートとbudesonide maintenanceとの差はみられなかったが、本試験では重症発作を減らした。これは、オープンラベルで行ったメリットかもしれない。SYGMAではas-needed群でもプラセボinhalerが使用された。

●今回、as-needed SABA群とbudesonide maintenance群との間で重症発作に差がなかった。これは、as-needed SABA群で「重症発作以外の理由で中断された患者が多かった」ためかもしれない。

 

limitation

●実際の臨床よりも通院頻度は多いかもしれない。

●電子的にモニターされることを患者が知っている。

secondary outcomeの結果は補正されておらず、治療法の違いによらないかもしれない。