AmpC βラクタマーゼ過剰産生菌
★AmpCはESBLより知名度が低い気がする。
★一部のグラム陰性桿菌はAmpC βラクタマーゼを過剰産生することで、第3世代セフェムへの耐性を獲得する。
★AmpCを過剰産生しうる菌種が第3世代セフェムに感受性であるときに、第3世代を使ってよいか第4世代を使ったほうがよいか、という疑問がある。
medicina 2019;56:1114、臨床と微生物 2015;42、J-IDEO 2018;2:62
AmpC βラクタマーゼの概要
●βラクタマーゼのうち、アミノ酸配列に基づくAmblerの分類(A~D)で「クラスC」、Bush&Jacobyの分類で「グループ1」にあたる。
●ペニシリン系だけでなく、セファロスポリン/セファマイシンも分解できる。
●菌種ごとにAmpCの構造や分解能は異なる。産生量が増えれば当然分解能も高まる(=耐性傾向が強まる)。
●第1世代セフェム(セファゾリンなど)、セファマイシン(セフメタゾールなど)の分解能が高く、第3世代セフェム(セフトリアキソンなど)の分解能はやや落ちる(=過剰産生によってようやく分解可能)。第4世代セフェム(セフェピムなど)はほぼ分解しない。カルバペネムも大丈夫。
●βラクタマーゼ阻害薬(クラブラン酸、スルバクタム、タゾバクタム)による阻害は受けない。ESBLとはこの点が異なる。阻害にはボロン酸やクロキサシリンが必要。
●構造上はセリン残基を活性中心に持ち、ESBLに似る。メタロβラクタマーゼとは構造がだいぶ異なる。
AmpC過剰産生菌
●「AmpC過剰産生菌」とは「AmpCをある一定量以上産生し、その結果として特徴的な感受性のパターンと臨床的な抗菌薬の効果/耐性を示す菌」のこと。
●Enterobacter、Serratia、Citrobacter freundii、Pseudomonas aeruginosa、Acinetobacter baumanii、Morganella morganii、Aeromonas、Hafniaなどは染色体性にAmpCを産生する。
→ふだんはその発現は抑制されているが、βラクタムに暴露されると発現が誘導(induction)され、産生量が増える。さらにβラクタムの暴露が続くと遺伝子変異が生じ、それ以上βラクタムが投与されなくても常時AmpCが過剰産生される状態になる(derepression)。
●Klebsiella属、Salmonella属、Proteus mirabilisは染色体性のAmpC遺伝子を持っていない。E coliはAmpC遺伝子自体は持っているが、臨床的に無視できる。
●染色体性にAmpCを持っていない菌でも、プラスミド性にAmpC遺伝子を獲得することで「AmpC過剰産生」が可能である。
AmpC過剰産生菌かどうかの判断
●臨床的には特徴的な感受性パターンから判断されることが多い。
・第3世代セフェム(セフトリアキソン、セフタジジムなど) 耐性
・セファマイシン(セフメタゾールなど) 耐性
・第4世代セフェム(セフェピムなど) 感受性
・カルバペネム 感受性
・βラクタマーゼ阻害薬によって阻害されない
●一方ESBLは、「第3世代セフェムや第4世代セフェムには耐性」「セファマイシンやカルバペネムには感受性」「βラクタマーゼ阻害薬で阻害される」の場合が多い。
●AmpC過剰産生を実際に証明することは難しい。AmpC阻害物質(ボロン酸、クロキサシリンなど)を用いる、AmpC遺伝子をPCRで証明する、などの手法がある。
AmpC過剰産生菌による感染症の治療
●実際に「AmpC過剰産生菌の感受性パターン」を示すグラム陰性菌感染症であれば、第4世代セフェムやカルバペネムが用いられるだろう。
●染色体性にAmpCを産生する菌種で、第3世代セフェムに感受性を示しているとき(=AmpCを過剰産生はしていない状態と考えられる)に、第3世代セフェムで治療してよいか、という臨床的疑問がある。
→短期間(1週間前後)であればOKかもしれない。長期間(>2週間前後)であれば、AmpC過剰産生状態にさせないよう、先回りして第4世代セフェムを用いたほうがよいケースもあるだろう。エビデンスはない。